年間授業計画を起草・改訂するときに欠かせない前段階であるグランドデザインの描出と学年✕教科ごとの検証可能な到達目標の設定が完了したら、次に取り掛かるのは、それらを達成するための方法の立案です。
学年✕教科ごと到達目標を、どの教材を、どの時期に、どう使って達成を図るかを考え、総指導時間の中に配置していきます。その中で、授業時数に収まり切れないものをどう扱うかという検討も必要になります。
❏ 副教材の取り扱いにも十分な協議と確認を
年間授業計画では、主教材の単元進行を軸に記述がなされますが、副教材がある場合、その取扱いも明記しておく必要があります。
授業を拝見していると、主副教材の取り扱いが担当者ごとにまったくと言って良いほど大きく異なっているのも珍しくありません。
参照型教材として、頻繁にページを開かせ、生徒が自力で不明点を解消する習慣づけができてるクラスがあるかと思えば、隣のクラスでは2月を迎えてなお新品同様という光景を目にすることがあります。
これは、各々の教材の取り扱いについて担当者間での目線が合っていないことに起因するのではないでしょうか。それぞれの授業スタイルに合わせてという考え方もできますが、より大きな成果をあげている方法を共有していく中で、ある程度の共通方針は打ち出せるはずです。
副教材をベースに小テストを定期的に行うなら、その進行スケジュールを示す必要がありますし、小テストの結果を評価に組み込むべきかどうかも決定し、具体的な記述で生徒に示さなければなりません。
その他に、週末課題などの全員必須とする課題があれば、それらについても同様でしょう。
❏ 副教材にも、明確な使用目的と到達目標を
副教材の一つひとつについて、何のための教材なのか、それを使うことでどんな到達状態を目指すのかをはっきり共有できているでしょうか。
これらの認識を教員間で共有しておかなければ、各教材の扱いにもばらつきが出て当然です。何をいつまでに終わらせるかという手順についてはもちろんですが、「何を目指してその教材を使うのか」、「どのような状態に生徒が至れば目標を達成したことになるか」も、シラバスの起草・更新を機にすり合わせておきましょう。
前年度の指導を振り返って、そこでの反省や成果を反映させるべきであるのは言うまでもありません。
生徒がその教材を学ぶことの意義を理解できているかどうかは、取り組む姿勢を大きく左右しますが、その意義をきちんと伝えられるかどうかは、教員側で明確な認識が共有されているかどうかにかかります。
❏ 余すところなく網をかけるという発想を離れて
副教材群を選定しようとするとき、「あれも必要、これもやっておいた方が…」と、広く網をかけることに発想が縛られていないか、冷静に振り返ってみる必要があると思います。「やるべきこと」と「やった方が良いこと」の間には、厳然たる違いがあります。
前者は、次のステージに学びを進めるときの前提として欠かせないものであり、後者の中には、「現時点では」という条件下では「やらなくても良い」ものも含まれます。
これらの区別をつけることなく、全員に同じものを課すだけでは、副教材、こなしきれていますか?でも書いたように、やりきれない/仕上げ切れない生徒が増えるばかりですし、生徒が他の活動に投じる時間を圧迫することもあります。
また、知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせてでも申し上げましたが、主教材を用いた学びで、「理解の軸」をしっかり作ってさえおけば、その先、知識の範囲を広げていくのは、生徒が自分の必要に応じてできるはず。学ぶべき事柄の範囲を、選択的・複線的に設定するという考え方も必要です。
❏ 年間授業計画と学習の手引きで記載内容を分ける
主副教材の扱い方についての協議結果は、紙面の限られた年間授業計画にこまごまと書き込むのではなく、教材への関わり方を生徒に示す「学習の手引き」で示す方がすっきりする場合も少なくありません。
冊子としてのシラバスに、学習の手引きと年間授業計画をそれぞれページを分けて掲載しておけば、それぞれに記載する内容を切り分けるのも容易ですし、起草作業もやりやすくなるのではないでしょうか。
副教材が多岐にわたる場合、主副教材それぞれの取り扱いや、その目的とするところまで、年間授業計画の限られたスペースに押し込もうとしても、窮屈なばかりです。
読む方も面倒になって、きちんと読まないのでは、せっかく多大な労力を投じて起草を重ねても、骨折り損のくたびれ儲けになりかねません。
❏ 学習者の成長を見越し、学習の手引きは学期ごとに
学習の手引きは、授業開きや学習オリエンテーションで使用することが多いと思いますが、新年度以外は用意されていないことも多そうです。
生徒に求める予習・復習の方法は、年度当初と一定の期間を経過した後とでは異なって当然です。学習者として成長するごとに、生徒にできる範囲は広がりますので、いつまでも同じことを求めていては、生徒のポテンシャルに蓋をしてしまいます。
1学期、夏休み、2学期と時間軸を追って生じる変化を表示するには、それなりのスペースが必要です。
年間授業計画は、あくまでも当該科目の1年間の学びを表示するのに対し、学習の手引きで求める学習活動は、学習者としての生徒の成長に合わせて時期ごとに更新されるべきものです。
両者はそれぞれカバーすべき期間も異なるということです。
この意味でも、年間授業計画と分けて、学習の手引きを起こし、そこに主副教材の扱いや学び方を記しておくやり方には、一定の合理性があると考えますが如何でしょうか。
❏ 学年を跨ぎ合本にすることで、先の学びを見通させる
生徒が次の段階に進んだ時に必要となることを、先回りして見せるのも学習の手引きが担うべき役割の一つです。
例えば、3年生向けのページに大学入試センター試験の出題分析が掲載され、それと関連付けて、主副教材への取り組み、授業中の活動への関わり方などの説明が記事として掲載されていたとしましょう。
1年生向けのページに、如上の記事を読むようにとの指示があれば、先の学びをイメージさせ、今やっていることの意味を理解させる使い方も可能です。
先を見越してこそ、生徒は今やっていることの意味が理解できます。学習に主体的に取り組ませたいなら欠くことのできない部分です。当然ながら、学習の手引きが学年で閉じた分冊になっていては、こうした使い方はできません。
❏ 手引きを通じて、指導方針やこだわりを教員間で共有
学習の手引きには、その学校の方針やこだわりを提示する機能もあります。異動転入してきた先生が、時間をかけずにその学校のやり方やこだわりを知る上でも大きな助けになるはずです。
学年分冊では、担当学年の分しか読まなくなりがちですよね。学年をまたいだ連続性・段階性も確保できません。
前年度の取り組みを引き継ぐことも、成果をあげた方法を教科全体で共有することも難しくなることを鑑みると、全学年共通の合本スタイルに近づけてくのが好適ではないでしょうか。
現状で学年別の手引きが存在するなら、まずは全体に目を通し直して、倣うべき範となる好適な書き方などをピックアップしてから、合本化に向けた作業に着手しましょう。
この工程を踏まずに、いきなりフォーマットを決め打ちして、おかしなことになっているケースは少なくありません。まずは、目の前にある現物からの学びを先行させることが大切ということだと思います。
幾つかの学校で「担当学年以外のシラバスって、どのくらいの頻度で読みますか?」とお尋ねしたところ、その機会はあまりないようです。
その4に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一