本稿のタイトルは「生徒を中心に授業を観る」ですが、教室に足を運んで生徒が学ぶ姿を実際に観る前に、考査や模試などの成績とその推移、行動評価の記録、ポートフォリオなどに残された各種ログ、授業評価の集計結果などの様々なデータを通して、そこまでの指導/学びが生徒にもたらした成果を観ておくことも大切です。
これまでの成績推移や学習行動/学びに対する生徒の認識の変化などを把握しておけば、指導の在り方とその成果を結び付けて授業を観察することができ、倣うべき実践を見落とさずに拾い上げやすくなります。
2015/09/09 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 成績は層別に分けて、変化を見る
クラスの成績が良いだけなら、もともとできる生徒が集まっていただけかもしれませんが、一定の期間を経てクラスの成績分布に変化が見られたら、そこでの授業には成績に影響を与えた「理由」があるはずです。
クラス平均の違いは僅かでも、上位生だけは大きく伸びていたり、下位層が縮小していたり、層別に精査すると大きな変化が隠れていることも少なくありません。そこには、効果に繋がる何らかの工夫があるはず。
下図は、ある学年の4月と9月の模擬試験の結果を比べた結果です。
クラス全体で結果を丸めてしまうと、偏差値の平均は1ポイントにも満たない小さなもの。「それほど効果は出ていないね?」という感じですが、成績層別に分けてみるとちょっと違った姿が見えてきます。
成績伸長はC群(中下位)で顕著ですが、上位に行くほど伸びは鈍化しており、また下位層にはあまり効果的だったとは言えない様子です。
その間、学習内容の定着と家庭学習の習慣化を狙って、小テストの定期実施に学年教科を挙げて取り組んでいたそうですが、この結果を見る限り、小テストを活用したアプローチには、一定の学力とやる気を備えた層を押し上げる効果は期待できても、上位層をさらに伸ばす機能や、遅れた生徒を引き上げる力を備えないようです。
しかしながら、散布図をみると、成績上位層にいながらさらに成績を伸ばしている生徒も。クラスごとに集計を取り直してみると、担当の先生の違いによって、こうした生徒が多いか少ないかが分かれていました。
双方の授業をいく度か参観してみれば、学年教科としての共通取り組み以外の部分で、上位層に刺激を与え得る工夫が見つかりそうです。
❏ 主体的に学ぶ姿勢やメタ認知はポートフォリオなどで
新しい学力観の下、生徒に獲得させなければならないものには、生きて働く知識や理解、思考力・判断力・表現力などに加えて、主体的に学ぶ姿勢や、適応型学習力/メタ認知と言われているものも含まれます。
当然ながら、これらはテストの点数には表れませんので、それぞれに応じた方法で行った評価の結果を用い、一定期間を経た変化量に着目して倣うべき実践(=大きな価値/成果を得ている授業)を探します。
ポートフォリオに残された、生徒のリフレクション・ログや、観点別に段階的な評価規準を設けた「ルーブリック」を使って定量化した学習者行動の記録などが、ここでの参照資料となるはずです。
こうした評価結果に広く目を通して生徒の状況を知り、指導者行動が与えたと思われる変化や成長を見つけておく(=間接的に生徒の状況を観察、把握する)ことこそが、「授業を観るための準備」になります。
当然ながら、評価の方法と運用が正しいものでなければ、こうした資料は得られませんし、場合によっては見方を歪めてしまいます。生徒を中心に授業を観るにも、評価方法の確立は急務ということです。
❏ 授業評価アンケートの結果も上手に活用
授業評価アンケートの「自分なりの課題や目的意識をもって授業に取り組んでいる」という質問に、肯定的に答える生徒が大きく増えた授業があったとしたら、そこでどんな指導がなされ、どういうメカニズムでその効果が得られたか、教科/学校を挙げて、その実践から積極的に学んでみるべきでしょう。
半年前に比べ、その科目が「得意」と答える生徒が大きく増えたクラスがあったら、何を仕掛けたのか知りたいと思うのではないでしょうか。
事前にデータをよく観て、問題意識や観察の視点を持って参観に臨んだ場合と、何となく教室を覗くだけの場合とでは、同じ50分という時間を投じても、気づきの総量はずいぶんと違ったものになるはずです。
こうした観るべき授業/そこでの実践がもたらしている効果を知り得るデータも、学校の中に使われないまま眠っていることが多々あります。
今回のテーマは「生徒を中心に授業を観る」でした。前編は教室を覗いて直接的に生徒を見る場面にどう取り組むのが良いか考えてみました。
後編(その2)の主旨は、参観に臨む前に様々なデータで間接的に生徒の状況を知り、参観に明確な着眼点を持ちましょうということです。
有効な知見を引き出すためにも、貴重な時間を効率よく使い、効率的に授業改善を実現するためにも、しっかりとデータを活かして教科/学校内の優良実践の所在を特定していくことが大切です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一