生徒の状況を把握した上での授業進行

生徒一人ひとりが現在どのような状況にあるのかを把握することの必要性は言うまでもありません。教える側では十分に状況を把握して進めているつもりでも、学びの主役は生徒ですから、定期的に「先生は、生徒の状況をよく把握しながら授業を進めているか」という質問をぶつけてみて、生徒側での認識も確かめるようにしましょう。
状況の把握が不十分であれば、次の段階に進める状態になっていない生徒を置いてきぼりにしてしまうリスクが膨らむと同時に、先に進む準備が既に整っている生徒を立ち止まらせ、成長や進歩を押しとどめてしまうことにもなりかねません。

2015/05/28 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 状況把握を徹底して、説明や指示の伝達も確実に

下の散布図2つは実技実習系の授業のデータ(n=849)をもとに作成したものです。横軸には、冒頭にあげた質問に対する回答分布から換算した得点率(満点=100)を、縦軸には、別稿で扱った「ポイント説明」と「行動指示」での得点率を配してあります。


双方のグラフで高い相関が確認できますし、一見しただけでも、状況把握(生徒理解)が不十分な授業では、ポイントの説明も行動の指示も、うまく機能していないことがわかります。
状況をこまめに把握することで、何を伝えるべき場面なのか的確に判断がつきますし、状況把握を通して伝わっていないことに気づけば、その場で指示をやり直すこともできます。
こうした「確認/状況把握→修正」を重ねた経験は、中長期的には伝達技術に大きな向上をもたらしてくれます。

❏ 説明・指示への「期待する反応」と照らして観察

ポイントや指示の説明をして練習や作業に着手させたら、まずは期待した通りの行動を生徒が取れているかを、その場ですぐに確認するようにしましょう。
戸惑っている様子や期待しているのと違う行動が見られたら、直前に行った指示や説明に改めるべき部分があった可能性が高いはずです。教える側での「ここまでは生徒が理解している/出来るはず」との想定が、生徒の実態とずれていたのかもしれません。
クラス全体に戸惑いと誤解が蔓延しているようなら、全体での作業・練習をストップさせて、説明や指示をやり直さざるを得ませんが、そうしたケースはそれほど多くないはずです。
間違っている生徒に個々に声をかけて回るのも、あまり効率的ではありません。そもそも、個々の声掛けがないと自分の間違いにも気づけない状態では、「学習者としての自立」ははるか遠くのままです。
何人も同じ間違いをしているようなら、その間違いに気づかせるような問いを発して、生徒自身に考えさせたり、周りの生徒の動きを観察させたりしてみましょう。自分で得た「ああそうか」との気づきは、他人が重ねた言葉よりもすとんと腹に落ちるものです。

❏ リフレクションの結果を参考に生徒理解の精度向上

生徒一人ひとりの状況を正確に把握するには、練習や作業に取り組む生徒の活動を見守るときの観察精度が問われることは言うまでもありませんが、多人数が一斉に活動する実技実習系の授業では、生徒一人ひとりに目を届かせるのは容易ではありません。
生徒が前回までの授業でリフレクションシートに書き込んだ「自分の課題や進歩」に目を通すことで、どこに焦点を置いて観察すべきかアタリをつけておくのは如何でしょうか。
タブレットを用いたポートフォリオの活用が本格化すれば、授業を進めながらでもそれまでのログを参照・確認しながら、生徒の行動を観察することもできるようになるはずです。

観察の焦点さえ決まれば、一人ひとりに的確な声掛けもしやすくなりますし、ある生徒がそれまで苦労していた場面で課題をクリアできた瞬間を見逃さずに評価してあげられる可能性も高まるはずです。
頑張っているときに、それを認めてくれる声がけがあれば、生徒もやる気が出るというものではないでしょうか。

❏ チェックリストを用いて生徒の自己評価を知る

指導者の認識と学習者の認識のずれを埋めるには、生徒が自らの取り組みやパフォーマンスをどう評価しているのかを知るのが前提要件です。
練習に取り組むときのポイントやより良い作品を作るために必要な要件をチェックリストのように書き出しておき、それに照らして、生徒に自己評価をさせてみましょう。

チェックリストは予め先生が用意しておくのでもかまいませんが、授業が進む中で一度立ち止まり、そこまでの先生からの説明や生徒自身での気づきを、生徒の手でまとめさせるという手もあります。
生徒たちの手によるチェックリストと先生がイメージしていたもののずれ、あるいはチェックリストに照らした自己視点結果と先生の目による評価とのずれは、教える側と学ぶ側の認識の違いを表しています。
こうしたズレの検知を繰り返すことで、生徒の学習行動を観察するときの視点の最適化、観察の精度向上が図れるはずです。
また、こうした機会を重ねることで、生徒が自分で状況を把握し、ゴールに近づくルートを自分で設計できるようになっていけば、学習者としての自立にも着実に繋がっていくのではないでしょうか。
メタ認知を作るには、”振り返りを通じた課題形成“が欠かせませんが、振り返りに用いるモノサシを用意することはその大前提です。

◆ 改善のための必須タスク:

説明や指示に対し生徒が想定通りに反応しているかこまめに点検しましょう。点検が疎かでは伝わっていないことに気づく機会を逃します。先に進めないでいる生徒には課題を分割したりハードルを低く設定したりする必要があります。また、進歩が見える生徒には次に挑むべき課題を示すことで立ち止まらせないことが肝要です。

◆ さらなる改善を目指して:

生徒の状況を正確に把握するには、観察の視点をあらかじめ設けておくのが肝要です。生徒に期待する行動や出来るようになって欲しいことを、複数の習熟段階に分けて具体的に書き出しておくようにしましょう。各ステージへの到達割合の変化・向上をもって、指導の改善を図ったときの効果測定にも用いることができるはずです。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一