校種間連携で行う授業改善(研究授業&出前講義)

各地で小中高連携の輪が広がっています。都内でもこの秋、小中高合同の授業研究会がいくつも行われます。すべての研究会の成功と盛り上がりを祈念しつつ、先生方を対象に代ゼミで開催した夏のセミナーで担当させていただいた箇所を本稿で再現してみたいと思います。

❏ 上級学校の求めに応じるだけが連携にあらず

校種間連携は、様々な形で整備が進んでいますが、その多くは上級学校で行われていることを下級学校が知るための機会となっています。
しかしながら、入学してくるまでに生徒が取り組んだ課題や活動を知らないことには、それまでの学びを活かした指導はできません。
入学してくる生徒が学んできた学校で行われていることを知ることは、自校の教育を設計するうえで欠かせない前提であるはずです。
中学校、あるいは小学校の教科書を最後に通読したのはいつのことでしょうか。入選の自校作成問題に携わる先生は、毎年欠かさず下級学校の教科書を点検しているでしょうが、そうでない場合には、目を通す機会も案外少ないようです。
少なくとも学習指導要領が改定されたときは、何冊かの教科書をしっかりと通読してみる必要があります。
また、小中学校における総合的学習などの成果発表を見に行ったことはあるでしょうか。想像している以上に充実した指導と学習がなされていることに気づくことが少なくありません。
テストや課題についても同様です。テストを見れば、どんな目標のもとでどんな指導がなされているかをある程度まで窺い知れます。
教科学習指導以外にも見ておくべきものは少なくありません。進路指導やキャリア教育がどのように行われているか、そこで生徒がどんな活動を経験してきたかは知っておくべきことの一つです。
意図的な重複なら「学び直し」という意味もありますが、意図しない重複では、生徒にとって得るものは少ないはずです。
記録に残された文書だけでは伝わってこないものもあります。実際に指導に当たられた先生から、実体験に基づいたお話を伺う機会も持つべきであり、そうした連携・協働の場を、校種の壁を越えて充実させていく必要があるのではないでしょうか。

❏ 出前授業は、気づきの宝庫

こうした必要を満たしてくれる機会の一つは、出前授業です。高校の先生なら中学校に、中学の先生なら小学校に、それぞれ出向いて現地校の生徒を対象に授業を行う機会は、地域内活動として、あるいは生徒募集活動の一環として各地で行われています。
しかしながら、前述の通り、自校で行っていることを下級学校に伝えるという意識が優位にあっては、自校の教育設計に活かすべき知見を十分に得ることはできません。
出向いた先の学校に勤務している先生方から、できるだけ多くのことを聞き出し、校内の掲示物などから、そこで行われている教育活動を知るように努めることが肝要です。
また、実際の出前授業に臨めば、現任校での普段の授業で「前提」としている知識や用語、理解や経験などを前提にできない状態で、物事を教える難しさを経験するはずです。現任校では当たり前の反応として生徒に期待できることが通じないこともしばしばです。
こうした違いを改めて目の当りにすることは、「高校生だからこそできること」に改めて気づく機会にほかなりません。それまでの学びを活かした指導とはどうあるべきかを考える好機になります。
同時に、普段何気なく使っている用語を噛み砕き、前提とする知識や経験を補いながら理解させていく苦労は、現任校に戻ったときに、既習事項の習熟不足を抱える生徒への指導を考える大きなヒントになります。
出前授業では、中学校(あるいは小学校)の先生も教室の後ろで授業をご覧になっているはず。進学後の学びを知ってもらう好機です。
上級学校に進学するまでに身につけてもらいたいこと、養っておきたい資質などを、生徒に伝えると同時に、参観されている先生方にもしっかりと伝えていきましょう。
生徒募集活動を充実させて、地域に散在している優秀な生徒を集めるという発想から一歩踏み込んで、優秀な生徒を地域の協働で作ると考えていくならば、出前授業は逃してはならない絶好の機会であるはずです。
出前授業は個人で機会を作れません。やらせてくれと言っても、学校や教育委員会がチャンネルにならない限り、実現は難しいでしょう。そうしたチャンスが巡ってきたら、是非とも積極的に手を挙げていただきたく存じます。

❏ 研究授業を公開して、中学校の先生をご招待

ひとつ先の学びを踏まえた指導を、中学校/小学校の先生方が行いやすい環境を整える機会としても、校内研究授業を公開することは重要な意味を持ちます。
小中学校の先生にとって、今教えていることが、先の学び(高校での学習)にどう関わるのかを正しく知ることは、小中学校での授業の一つひとつに、より明確な指導主眼を定めることに通じます。
しかしながら、一般的な授業公開は、たいてい生徒・保護者向けに限定されるので、教員は行きにくいのが実情です。「いつでもお越しください」と言われていてもハードルは決して低くありません。実際に出掛けてみたら「本当に来たの?」と言われそうです。
中学校/小学校の先生に、気軽に来校してもらうには、それなりの大義名分を上級学校側で作る必要があるということです。このために利用すべき機会の一つが、地域の全校種の教員に開かれた校内研究授業です。
学校公開日などで、授業を公開するだけでは、そこでの異校種間教員のコミュニケーションは取りにくく、「ご挨拶程度」で終わってしまうのが一般的ではないでしょうか。
これに対し、授業を公開して研究協議に参加してもらうようにすれば、実例を踏まえた意見交換を通じて互いの考えを知ることができます。
研究授業も一つのイベントですから、打ち上げと称するか反省会と称するかは別として、カジュアルな会話を交わす場面を別に設けることは、不自然なことではありません。
研究授業を機に恒常的なコミュニケーションのチャンネルができれば、地域の教育力が大きく高まることも期待できるのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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