学級経営を定量的にとらえて知見の共有を

生徒による授業評価アンケートを行うにあたって、「学級経営評価」をオプションに加える学校が増えています。
このオプションでは、

「ホームルームで学校からの連絡が漏れなく伝えられているか」

「担任の先生は進路を考える上で参考になる話をよくしてくれるか」

「叱ったり注意したりする時も生徒の言い分に耳を傾けてくれるか」

などを尋ねます。
「私のクラスは、規律ある雰囲気の中で、生徒が相互に刺激しあい成長に向かっている」という学級経営の成果を端的に質す項目も含まれますが、これらの各項目における肯定的な回答が占める割合を算出するだけでは、校内に埋もれる優れた実践や知見を探り当てるには至りません。
授業評価アンケートもそうですが、調査を行うことの目的が「序列化」にはないことは、改めて申し上げるまでもありません。
優れた事例を掘り起して校内/学年内で共有し、それを土台に先生方の協働でさらに良いものにブラッシュアップする起点を作ることにこそ、アンケートなどによる調査を行うことの目的があります。
せっかく生徒に答えてもらって集めた貴重なデータです。きちんと解析して、正しい方向で、建設的な改善行動につなげましょう。

❏ 各クラスの学級経営の「傾向」も見て取れる

下のグラフは、ある学校で行った解析の一部です。横方向(X軸)と縦方向(Y軸)に、以下の項目群の平均を置いて散布図を作成しました。

横軸:クラス担任からの発信

  • LHRは毎回テーマが決められ、目的意識をもって参加できる
  • HRでの進路の話は、自分の将来を考える上で刺激になる
  • 担任の先生が生徒にどのような行動を期待しているかはっきりわかる

縦軸:生徒との相互理解

  • 担任の先生は、どの生徒にも公平な対応をしている
  • 担任の先生には学習や進路のことなど、相談がしやすい
  • 生徒をしかるときでも、生徒の言い分に耳を傾けてくれる
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グラフ中の○は「私のクラスは、規律ある雰囲気の中で、生徒が相互に刺激しあい成長に向かっている」で80ポイント以上の評価を得たクラス、▲は70ポイント未満となったクラスを表しています。
グラフを見やすくするために70ポイント以上80ポイント未満のクラスは非表示にしました。
斜めに通した破線は、○と▲の分布の境界です。互いの分布域に例外がそれぞれ同数(4つずつ)が存在するよう位置を決めました。

❏ クラス間の違いを生んだ要因を探り、今後に活かす

それぞれのクラスの座標面上の位置をみると、予想される分布域を逸脱しているケースなどが見つかります。そのクラスで行われていることをヒアリングしたり、他の項目との相関などを精査してみると、様々なことが推測でき、改善への仮説も立てられます。
作用していると考えられる他の因子が、「学校行事」の場合もあれば、「教科学習指導」(担当間で違いが生じます)が大きく作用しているケースもありました。
破線の左側にありながら○となり得たクラスには、何かしらの倣うべきものがあると考えられます。
事例報告会などを通じて知見の共有を図ることで、クラスごとの差を解消しながら、学校全体がより良い方向に進んでいくはずです。
また、近似線を描き、線から上下左右のどちらにずれているかを見ることでも、改善行動の方向付けをすることが容易に行えます。
どちらか一方に偏っている状態を解消することにも通じますし、如上の「境界線」に最も短い移動で到達するにはどちらに進めばよいか(=効率的に学級経営を改善するために注力すべき点)も見えてきそうです。
感覚や印象だけに拠らず、データをしっかり活用することで、実に様々な事柄に当たりがついてきますし、優れた評価を得たクラスの実践を共有していくときも、周囲の理解が得やすくなるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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