認知の網(用語解説)

「認知の網」とは、既得の知識や経験によって形作られ、新たに入ってくる情報を拾い上げて理解や意味づけを行うときに働く、頭の中にある認知の構造(知識や経験のネットワーク)を指す比喩的な表現です。
人が新しい情報を理解したり意味づけたりするときには、既得の知識や理解、記憶が手掛かりとして働きます。新たに入ってくる情報を拾い上げて結び付けるその働きを、ものごとを掬い取る「網」に喩えました。
学びや体験が不足している領域ではこの網が張られておらず、どれほど重要な情報に触れても意味を捉えることができないまま素通りします。逆に、様々な知識や理解が蓄えられているほど、新しい情報との接点が生まれやすくなり、理解や発想につながる可能性が高まります。
学習を通して得た知識が、この認知の網を作り上げます。異なる教科で得た知識同士を関連付けることで網は広がり、偏りや隙間の少ない構造となって、外部の情報をより良く理解し、利用できるようになります。

授業で新しい概念や資料を提示しても、それと結び付く既得知識がなければ生徒は意味を捉えられません。「認知の網」を構成するパーツは、既習単元の学習内容だったり、教室を出た生活を含む広い体験だったりします。広く学ばせることが、先の学びの土台を作ります(2674)。
授業外も含めて、様々な情報に触れたときに、それが有効なピースとなって既得の知識や概念を結び付けるにも、それまでに蓄積されていたもの(=張られていた認知の網)が不十分では、網の拡張は上手く進みません。イノベーションを起こすのもその土台は認知の網です(2533)。
授業で問いを投げ掛けても、生徒が考える手掛かりとなる知識や経験を持っていなければ、思考は進みません。事前学習などで周辺の知識や背景の問題を学ばせておくこと、仮の答えを作らせて「網の広がり具合」を確かめることまで考えて、授業をデザインしましょう(2341)。

1.問い掛けることで、認知の網を張り直させる(想起させる)

ボールを投げるのはミットを構えさせてからでは、問い掛けによって、生徒が既に備えている「認知の網」を意識の上に張り直させるやり方をお示ししました。記憶のどこかにあっても、必要なときに想起できるとは限りません。導入フェイズで一度問われて、意識上に持ち出しておくと、その後に入ってくる新たな情報を捉える力も膨らみます。

2.認知の網の拡充を図りながら、学びを段階的に拡張する

生徒に見えている景色を想像しながら教えているかでは、生徒が理解し得ることを起点に、段階的に「認知の網」を拡張していくことを提案しました。生徒がどこかで見聞きし、問題を意識している(であろう)ことを取り上げ、その解決に講じられた方策などを紹介してから、背景にある知識(単元内容)の学びに繋げていくという手順は効果的です。

3.向き合うことになる問いとの関連の中で、学習内容を位置づける

認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ばせるでは、教科書の内容がどこに繋がるかが見えないと、生徒は学ぶ意味を実感できないことをお伝えしました。学んだことを携え、いずれ向き合う問題(志望校の出題からSDGsに関連付けられるものまで、題材は多岐に亘ります)を示すことで、学習内容がどこに繋がるかを掴ませていきましょう。

4.進路講演や体験学習にも、事前学習等で認知の網を張らせる

進路関連行事に向けた企画・準備・事前指導では、これから学ぶ(体験し、それをもとに考える)ことに対する「認知の網」を張らせておく必要を示しました。進路講演なども、準備なしにその場に参加するのと、事前学習を経て質問を整理させたときとでは、生徒が学ぶもの、気づきの総量はまったく違います。面談前のシート記入も同様の効果です。
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追記: 指導をしていて、反応が薄い、理解が浅い、問題意識が弱いといった感想をお持ちになることもあろうかと思いますが、それらは生徒や集団の個性ではなく、認知の網がしっかり張られていないだけなのかもしれません。網を張り直せば、レスポンスも違ってくるはずです。

授業改善を加速するための共通言語(用語集)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一