講演会やセミナーを主催される方々のご苦労を改めて

この夏もまた、あちらこちらのセミナーや講演会などに参加させていただき、大いに勉強させていただきました。刺激的なお話を方々でお聞きすることができ、これからやるべきことがまた少し見えてきた気がいたします。こんなところで何ですが、改めて心より御礼を申し上げます。
オンラインでの開催が多く、運営の皆様には例年とは違ったご苦労も多かったと思いますし、講演された先生方にも参加者の反応が読めない中で、不特定多数を相手にお話をするのは大変だったと想像します。
セミナーや講演が上手くいく(=満足度の高いもの/学びの大きなものになる)には、内容の上で、「話し手が伝えたいこと」と「受け手が聞きたいこと」が一致することが最大の要件ですが、これがまた、言うは易く、実現するのは並大抵のことではないのも改めて実感しました。
発信する側の思いが強いほど、その内容は、受け手の求めるものとずれが大きくなりがちだったりするので、事はますます厄介です。
先生方は外部から講師を招いて生徒向けの講演を企画・運営するなど、ときに主催者となることもあれば、校外でセミナーなどを開催したり、講師として呼ばれたりすることもあると思います。そのときに、以下の記事も併せ、この拙稿が何かのご参考になれば幸いです。
 ■ 進路関連行事に向けた企画・準備・事前指導
 ■ 進路意識の高揚を目的とした講演会の企画
❏ 受講者ニーズを把握し、講演の内容をアレンジ
話し手は、セミナーや講演会に参加している方が抱える課題やニーズを良く知った上で、自分が伝えたいこととの接点を探り、話の流れや焦点の置き所を決め、話の中で用いる例やデータなどを選び出していく必要があります。
対面でなら、話をしながら、反応を窺って、その場でネタを入れ替えたり、食いつきの良いところに重きを移したりといったアレンジもある程度までは可能ですが、オンラインではそれも難しく、霧の中を勘に頼って歩くような不安も抱えます。そもそも「引き出し」を大きく持たないとアレンジできる幅も小さなものに止まります。
受講者のニーズを事前に把握できれば、セミナーや講演会までに「引き出し」のビルドアップや中身の更新を図る余裕も生まれます。ニーズの事前把握に使える方法は様々ですが、それぞれの長所・短所を知ったうえで、効率的に選択していきたいものです。
❏ 申し込みフォームに設ける事前アンケート
聞き手の課題やニーズを把握するには、参加者に回答してもらう事前アンケートなども有効な手段になり得ますが、回答者は往々にして自分の課題を正確に把握していなかったり、言語化できなかったりするので、アンケートで把握できる受講者の課題とニーズは限定的です。
特に、「セミナーに期待するところは何ですか」「ご質問があれば自由にお書きください」といった自由記述タイプでは、アンケートの抱える如上の弱点が強調されてしまいます。
回答してくださる方も多くはなく、集計してみても、一部の方の強い思いが実態以上に大きな部分を占めるように見えてしまったりするもの。回答に手間がかかる自由記述では、回答率は下がる傾向があり、参加者全体のニーズの把握はますます難しくなります。
話し手が用意できる内容を項目ごとに切り出して並べて置き、興味・関心の度合いを「ぜひ聞きたい」から「あまり興味はない」の3~4択で答えてもらうくらいに、回答側の負荷を小さくした方が効果的です。
こうしたアンケートを「申し込みフォーム」に埋め込んでおけば、ある程度のところまで「受講者が抱える課題とニーズ」の分布を把握でき、講演当日までに話の内容や流れをアレンジしやすくなります。
❏ 企画段階で、広く行うヒアリング
潜在的な受講者(いつか、セミナーや講演会に来て下さるかもしれない方々)の声に日頃から耳を傾けて置くことが、遠回りなようですが、最も確実な方法なのかもしれません。
閉じたコミュニティの中で、どれだけ議論を重ね、濃いコミュニケーションをとっても、ニーズを広く、偏りなく把握することには繋がりにくいはず。下手をすると独善が強化されることすらあり得ます。
ことあるごとにあちらこちらで話を聞く必要があるということです。コロナ禍で、「飲みながら意見交換」ができるのはまだ先のようですが。
主催団体/グループのメンバーが、ニーズの所在を知るための情報収集にコミットする姿勢を持ち、それぞれが所属する他のコミュニティまでヒアリングの範囲を広げ、集めた情報をシェアすることは大切です。
蛇足ながら、学校説明会の前に近隣の学習塾の先生の話を聞いたり、進路講演の前には他校での資料を手に入れたりといった取り組みをされている先生方も実際におられました。
❏ ホームページやブログ、SNSのアクセスログも
セミナーや講演会を主催する団体/組織は、たいていホームページを持っていますが、そのコンテンツがある程度まで拡充しており、整理された構造を持っているなら、アクセスログを解析することで、潜在的なニーズの分布を掴めることがあります。
サイト内検索で用いられた文字列や、検索結果からアクセスしたページのタイトルやサマリーなどを対象に、どんなワーディングが多いか調べてみることでも中々有為な情報が得られたりします。
前提となるのは、これから先に予定しているセミナー/講演会で取り扱いたいと考えているテーマについて、コンテンツとなる記事をしっかり用意しておくこと。コンテンツがなければ検索も閲覧もされません。
話し手が発信したいことを、セミナー/講演会で「初のお目見え」にするのではなく、事前にブログなどの記事にしておき、アクセス数などを手掛かりに反応を探るという作戦です。
記事にしようと思えば、それなりにしっかり考え、話の内容も整理できるので、セミナー/講演の準備も進みますし、記事を読んだ方は講演でどんな話をきけるか想像を膨らませ、参加意欲も刺激されるという副次的効果も期待できます。
記事を通して、話し手と受け手が同じ問題意識を事前に共有できることは、「ボールを投げるのはミットを構えさせてから」に通じるところがあるのではないでしょうか。
巷の人気セミナーの多くが、新刊として出版された書籍をベースにしているのも、同じメカニズムが働いてのことだと思います。


遅ればせながら、残暑お見舞い申し上げます。今年は少し長めにお休みをいただき、日々できない勉強をさせていただきました。秋に向けて、現場で頑張る先生方のお役に少しでも立てるよう、これからもしっかり頑張りたいと思います。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一