ホームルームの年間実施計画

新学期に向けて、各教科の年間指導計画は完成に近づいていることと拝察いたしますが、各学年におけるロングホームルームの年間実施計画の作成は進んでいるでしょうか。年間で30回ほどの貴重な指導機会に、生活、学習、進路の各領域の到達目標を達成するための活動を余さずに配置するには、実施計画を十分に練る必要があります。
活動の一つひとつに優先順位をつけて、限られた指導機会という枠に落とし込んでいこうとする中で、これまで慣習的に行っていたことも計画から除外したり、別の場に回したりする必要も生じます。学校が掲げる教育目標の実現に必要な活動や、生徒募集に際し対外的に約束していたことがはみ出してしまうようなことがないようにしたいものです。

2020/03/09 公開の記事を再アップデートしました。

❏ LHRの実施計画はグランドデザインを土台に

多岐に亘る指導目標の中には、各クラスでのロングホームルームや学年集会を場として実現を図らなければならないことは少なくありません。
指導計画から漏れてしまうことのないよう、新年度を迎える前にきちんとリストアップしておきましょう。
教育活動の三領域である生活、学習、進路のそれぞれについて、学校全体での3ヵ年/6ヵ年に亘る指導をデザインしているのは生活、教務、進路の各分掌だと思います。
各分掌からの関りが弱く、大半のことは各学年が独自で決めているという学校もありますが、経営に学年色が強く出過ぎていないでしょうか。
学校が目指すものと整合の取れた指導を展開するためには、ベースとなるものはきちんと分掌で設計し、実施方法などの細部を各学年が実情に合わせてアレンジするといった運用指針が必要だと思います。
生活、学習、進路の三領域のそれぞれで「時期ごとに到達を目指すべき状態」を明文化して各分掌がしっかりと打ち出し、それらの達成に必要と考えられる活動を各学年がカレンダーに配置して行くことでLHRの年間実施計画が出来上がっていくのが好ましい流れだと思います。

新課程への移行で、教育活動を通して目指すところにも変化がありました。これまでは前年踏襲をベースに朱入れで起こしてきた(かもしれない)年間指導計画も、全面的に見直してみる必要があるのではないでしょうか。cf. 新課程の下での指導を振り返る(ゼロ学期のスタート)

❏ 大きな行事で区切ったタームごとに領域別の重点目標

教育活動の三領域のそれぞれについて、年間スケジュールの中にいきなり指導機会を配置していく方法は、うまく機能しないことが少なくないように見受けられます。
まずは、大きなイベントで時期を区切り、それぞれにおける重点目標を各領域で設定することを先行しましょう。
生活領域では、各学年とも5月の連休前までが最初の一区切りでしょうし、長期休業期間を迎える時なども一つの山場になろうかと思います。
学習領域では、定期考査や模擬試験がタームを大きく分ける境界になるはずです。答案返却からの1週間での指導の成果は、その後の学習行動に大きな影響を与えますし、模試の結果返却の際にも「間違えた問題はちゃんと直しておきなさい」では十分な指導になり得ません。

考査や模試の振り返りは、基本的には各教科が主体となる指導ですが、HR担任と各教科の学年担当者の足並みと目線が揃わなければ、大きな効果は期待できません。学年団として積極的に関わりを持つことで「学年の姿勢」を強く示すことが重要ではないでしょうか。
進路領域では、進路希望調査や進路講演、面談といった主に学年が運営に責任を持つ行事が少なくありません。指定された時期と方法で実施するだけでは、形骸化や自己目的化のリスクもありそうです。
事前指導から、イベントを経ての振り返りまでの指導を一貫して実施するには、各々の指導機会に目的とするところがはっきりしていなければなりませんし、指導に必要な手順と時間をきちんと算定した上で、指導スケジュールを立案する必要があるのは自明です。

❏ 行事の配列にもカリキュラムマネジメントの発想を

新課程では総合的な探究の時間が、本格的に導入されますが、既に多くの学校では先行して探究的な学びの場を設定しています。
成果発表会などは年間行事予定に組み入れられていても、探究活動と浅からぬ関りを持つ校外での体験的行事なども、探究活動のプログラムの進行とリンクして、時期や方法を考える必要があるはずです。
従来から行われている体験型校外活動(宿泊行事など)はそのままに、探究学習がプラスされてという「足し算」での教育活動設計では、限りある教育リソースはアッという間に枯渇します。
カリキュラムマネジメントという発想を持ち、両者を如何に有機的に結びつけるか、片方でカバーできるものを他方でどう活用するかを熟慮した計画作りが求められます。
今後の教育課程の中でますます重視されていく「主体的に学ぶ意欲や姿勢」や「明確で土台のしっかりした志望理由」を備えさせるには、探究学習と進路指導の一体化をこれまで以上に推し進める必要があり、その舞台の多くは、各学年が設計するLHRに置かれるはずです。

分掌や学年がそれぞれに行事や指導機会を計画していくと、日程の重複で生徒に二者択一を迫るような場面も生じかねません。学年の指導計画をロングホームルームの実施計画という形にまとめ上げるときに、各分掌との意志疎通や摺り合わせをどこまで進められるかが勝負です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一