別稿で申し上げた通り、授業を改善しようと思ったら、伝達スキルより授業デザインに焦点をおいて、その改善を先行させた方が改善の効果が短期間で現れますが、話し方・伝え方、強調の方法などに問題を抱えているなら、その解消も先送りするわけにはいきません。
授業デザインは、構成要素の大半が言語化できる外在知ですので、校内/教科内にある優れた実践から学びやすいもの。高い評価を得た授業でのやり方を知れば、まったく同じとはいかずとも近づくのは容易です。
これに対し、話し方、伝え方といったスキルは、「やり方」を知っても獲得や習熟には自分をモニタしながらの練習が必要になります。
練習を重ねても、「できているはず」という漠然とした自己イメージでは改善は進みません。知らぬ間に悪い癖がついていることもあるはず。着実な改善には、自分の姿、動きを客観的にみる機会を確保することが肝心であり、そのための手段が「自分撮り」です。
授業の動画を撮るのも以前に比べてずいぶん簡単になりました。
2015/09/07 公開の記事をアップデートしました。
❏ 正確なセルフ・イメージがないと改善は進まない
自分の授業を撮った動画を、授業を受けている生徒になったつもりで視聴してみると、いろんなこと(たいていは改善課題)に気づきます。
- 話をしているときに顔が生徒の方を見ていない。
- 顔が向かないところには声も届きません。
- 生徒の反応を観察しないと一方通行に拍車がかかるばかりです。
- 教科書や資料の参照箇所を示さないまま、別の話に移っている
- 板書もせず、視覚資料の提示がないまま先生の話が延々と続くのでは、生徒はどこを学んでいるのか見失い、迷子になります。
- 視覚の助けもなく、前段の理解も固定されないのでは、知識・理解を着実に積み上げるのも難しくなるばかりです。
この他にも、こんな場面を目にすることはないでしょうか。
- しっかり強調すべきところで声を張っていない/語尾がしぼむ
- 関連付けるべき事項が、黒板のあっちとこっちに泣き別れ
- 授業をしている自分に笑顔がない~教室全体が暗い雰囲気に
問題を抱えていることに気づかなければ、それらを直そうという意識すら生まれません。まずは授業をしている自分の姿を観ることが授業改善のスタートに立つことになるはずです。
❏ 漫然と動画を観るだけでは改善点が掴めない
自分の授業動画を観るのが大事と言っても、漫然と見ていても何にもなりません。授業を観るときのポイントを押さえておく必要があります。
当ブログの記事にも、多少なりとも「観点を持つためのヒント」があるかもしれません。本稿との関わりで言えば、「話し方・伝え方、強調の方法」や「板書の技術、教具の使い方」あたりでしょうか。
もっとお奨めなのは、他の先生の授業を観る機会をきちんと持つことです。たくさんの授業を観ていれば、いざ自分の授業を観たとき「彼我の違い」に気づく力が養われているはずです。
要は、自分の授業を観る機会と他の先生の授業を観る機会をバランスよく持つようにしましょう、ということです。
もう少し掘り下げるならば、データを使って観点を設定するのも好適です。初動の手間が少々増えることに加え、観点を絞り過ぎるリスクを抱えますが、うまくはまったときの効果はとても大きくなります。
- 授業評価アンケートでの項目別集計値を点検し、相対的に弱い領域を把握したうえで、その項目で高い評価を得ている先生の授業を観に行けば、「埋めるべき違い」を把握しやすくなります。
- 小テストや提出課題を点検して、生徒の理解不足(ときに誤解もあり得ます)が顕著な個所を見つけ、そこを扱った箇所を動画で探してじっくり見直してみると、ピンポイントで考察を深められます。
❏ 教室にカメラを据えて、いつでも撮れる状態に
オンラインでのリモート授業や、授業動画の配信などで、教室にカメラ付きのパソコンや三脚に据えたビデオカメラを持ち込むことも以前より多いのではないかと思います。
教室にいつも録画機材を設置しておく/持ち込める状態を整えておくことは、欠席者のフォローにも、臨時休校や学級閉鎖という状況への対処にも有効でしょうし、平常時でも、自分の授業を撮ろうと思い立てばすぐに実行できる「準備」が整っているのは大きなメリットです。
新しい授業デザインを採り入れるときには、それまでと違う動き方(説明の手順や教材・教具の扱い方など)をすることも多いはずです。
当然ながら、生徒の目線で自分の動きを確かめる必要も膨らみます。
そんなときにも「使い慣れない機器を用意して」という余計な負担を感じないで済む状態になっていれば、新たな授業デザイン/学ばせ方に意識を集中して新たな指導手法の確立に近づけるのではないでしょうか。
蛇足ながら、授業動画をストックしておけば、先生方の相互参観も「時間と場所の調整なし」に行えます。他の先生の授業を参考にしたいと思ったときに、いちいち頼み込みにいくのも面倒ですし、相手の先生への遠慮もあろうかと思いますが、そうした心理的負担が減れば、先生方の協働による授業改善もよりスムーズに進むのではないかと思います。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一