授業評価アンケートは、校内/教科内に存在している優れた実践(=高い評価を得ている授業)の所在を確かめ、それを広く共有して学校全体あるいは教科全体での授業改善を進めていくためのツールです。
校外から持ち込んだ新たな手法が、自校の生徒の学習者特性にマッチする保証はありませんが、校内で既に高い評価を得ている授業でのやり方なら、生徒が身につけている学び方との高い親和性が期待できます。
こうした優良実践の共有が進み、着実に授業改善が進むケースが多々見られる一方で、せっかく授業評価アンケートを行っているのに評価結果に顕著な変化が見られないケースも散見されます。
2016/03/01 公開の記事をアップデートしました。
❏ 組織としての改善が進む学校、滞る学校
上図の「ケースA」は決して特異なケースではありません。もっと大きく/スピーディに改善が進み、1年しか経たないうちに箱の位置が前回と重なり合わないほどの改善が観測されるケースもあります。
授業評価アンケートの結果にしっかりと向き合い、データを使って優良実践の所在を明らかにしたうえで、教科会での実践報告を皮切りに授業公開やそこでの気づきをもとに話し合うようにしたケースでは、短期間のうちに集計結果が驚くほど大きく跳ね上がることがあります。
別稿でも書きましたが、効果的な授業を成立させる要素には、「問いを軸にした授業デザイン」など、共有が比較的容易な領域もあります。
校内/教科内に存在していた優れた実践が共有されて、改善が遅れていた授業でのキャッチアップが図られれば、箱の下端はせり上がり、下方のひげは短くなります。その結果、平均値や中央値もせり上がります。
授業評価アンケートの集計値の平均だけが高まっても、箱の下端に動きがなく、授業間の差異が広がっていては好ましい状態とは言えません。
学習効果(授業を受けての学力向上感など)の目的変数だけでなく、説明変数のうち、外在知の要素が大きい「活用機会」や「理解確認」といった項目でも、集計値分布の推移に目を向けて、学校全体/各教科の授業評価が進んでいるか把握したいところです。
❏ 授業改善に向けた協働の起点~優良実践の所在特定
授業改善は、基本的には個々の先生の責任において着実に進めるべきものではありますが、より良い授業の実現には、様々な先生方が日々の実践の中で得た「気づき」の交換が欠かせません。
最善と思う方法で授業を行った結果、現状に抱えた改善課題に、ご自身の知見や発想だけでは有効な改善策を見つけられないことがあります。
教科会での実践報告や授業公開/相互参観などが、そうした「気づきの交換」の場になるのは言うまでもありませんが、ただやみくもに実践を伝え合っても、それらが本当に効果を得ているかどうか確かめないと、あらぬ方向に組織全体が舵を切ってしまうリスクもあります。
先生方はそれぞれの指導観・授業観に沿った実践をされているはずですので、思いをぶつけ合うだけでは「船頭多くしてナントカ」です。
どの授業での実践が自校の生徒の学力を最もよく伸ばしているか、模試や外部検定などの成績データや授業評価アンケートの結果を用いて検証し、「優良実践の所在」を明らかにしておく必要があります。
❏ 高い評価を得た先生からの積極的な発信
データを用いた優良実践の所在特定を終えたら、高い評価を得た授業/学力を効果的に伸ばしていることが明らかになった授業を担当していた先生からの積極的な発信が待たれます。
より良い授業の実践は、すべての先生に課せられた責任ですが、自分の授業を改善したら、他の教室で学ぶ生徒にもその恩恵が届くようにすることで、より広く・大きな責任を果たせたことになるはずです。
他の先生が担当する生徒のことまで責任は持たないと明言する先生はいらっしゃらないでしょうが、優れた実践の積極的な発信を躊躇ったり、怠ったりしては、結果的にそういうことになってしまいます。
授業で新しい手法を採り入れてみたら、生徒の様子や授業評価アンケートの結果に顕著な改善があったといった場合に、自分だけで満足してはいけないということだと思います。
教科会で実践に触れて、詳細は教科の共有フォルダに保存した「報告」を読んでもらうようにしたり、もう一歩踏み込むなら授業の動画を添えたりして、「自校の生徒にマッチした学ばせ方」を伝えましょう。
言うまでもありませんが、現場の先生方が実践を伝え合う場/機会を確保したり、ためらわずに積極的に発信することを促したりすることは、管理職の先生、教科主任、教務部に期待されるお仕事だと思います。
❏ 相互参観などは「的を絞って」効率的に
如上の発信に触れて、その手法に興味を持ったり、自分の授業にも取り入れることができそうだと思ったりしたら、より詳しく知るために実際の教室に足を運んでみようという気にもなります。
授業の相互参観が推奨されている学校でも、あまり活発に参観が行われているとは限らず、すっかり形骸化している学校もあります。
他の先生の授業を積極的に見に行きましょうと促したり、それでも動きがないと「学期中に最低2回は」とノルマを課したりと、あれこれ手は打っても、参観への欲求を刺激しないことには形骸化が進むだけです。
ランダムに/空き時間にたまたま行われている授業を覗いたとしても、自分の授業が抱える改善課題への答えが見つかる可能性は低そうです。参観に実りが感じられなければ、参観意欲はますます低下します。
これに対し、どの授業でどんな取り組みがなされ効果を上げているかがわかっていれば、「ちょっと覗いてみようか、授業はいつかな」という気持ちも生まれようというものではないでしょうか。
習熟度別展開授業などで参観の時間がないという場合でも、授業動画を活用すれば良いだけの話です。コロナ禍で一気に広がったリモート指導のノウハウは先生方の相互研鑽にも使えるはずです。
❏ 発信のための言語化と資料の整理で得る効果
こうした「授業改善への先生方の協働」で大きな役割を担うのは、発信側に回る「優れた実践をお持ちの先生」です。
多忙な校務の中で、実践を伝えるための手間はご負担に感じるかもしれませんが、これまでの取り組みや現状での課題などを言語化してみることは、意識下で未整理だったことを整理する好機です。
データを使って取り組んできたことの効果を検証してみれば、やってきたことや方向性の正しさも確認でき、自信と展望をもって、さらに歩を進めていけるはずです。
現状で一定の手応えを感じている試行に、更なるブラッシュアップの方向性を見出せば、更なる改善が自分のものになるはずですし、特に効果が高いと感じた教材(問いや課題)をたな卸ししておけば、次の機会にも活用しやすくなります。
改善が遅れていた授業がキャッチアップを果たせば、そこで学んだ生徒が獲得する学力(知識や理解のみならず、学びの方策や姿勢なども)はより高まります。それを土台にできれば、ご自身の授業でもさらに意欲的な挑戦ができるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一