― 空回りを防ぎ、確かな学びに導くために ―
探究活動の指導を行っているとき、意図するところ(各フェイズの活動への取り組み方、そこでの成果が満たすべき要件など)が生徒に上手く伝わらず、狙った方向の取り組みにならないことが少なくありません。
取り組んでいる生徒の側でも、戸惑いながらも努力しているつもりなのに、しっくりくるものにならず、挙句の果てに、だいぶ進んだところでダメ出しを喰らっては、やる気も削がれるというものでしょう。
探究活動における「各フェイズの目的と方法」が、指導の全体像の中にきちんと配列されていたとしても、それらへの十分な理解を、それぞれのフェイズを終えてしまう前(可能ならば、始める前)に形成しておかないと、そこでの取り組みは方向を失い、空回りしがちです。
各フェイズに入るときの準備が必要なのは、指導に当たる先生方も同じです。フェイズの成果物をみて、他クラスとの出来栄えの違いなどから反省を得たとしても、後戻りして指導をやり直せません。事前に先生方で目線合わせを通した「指導と評価の力点」の確認は不可欠です。
❏ フェイズごとに取り組み方が変わるのが探究の特徴
国語や地歴公民、数学、理科といった、従来からの「教科」は、単元の進行で「学習内容」こそ変化するものの、学び方の基本(学習への取り組み方=学習方策)は、それほど大きく変わりません。
一度身につけた学び方は、次の単元に進んだときも学びを支え、新たな内容を学ぶのを容易にします。仮にどこかで学び方を誤っても、きちんと振り返れば、次単元以降の学びで生きる「教訓」になり得ます。
これに対し、探究活動は、問題の発見→先行研究の調査→課題の具体化→仮説の構築→検証(調査・実験)→成果の取りまとめと、フェイズが進むたびに、タスクが一新されるのが特徴。そのたびに新たな取り組み方を学んでいかなければならないところに大きな特徴があります。
フェイズが次に進むと、プログラムの進行上、後戻りするのは容易ではなく、取り組み方を学ばないうちに通過してしまうことも起こりがち。探究の方策の獲得に「抜け落ち」が生じやすいということです。
フェイズの途中でも、常に観察し、適切に評価を行い、必要な軌道修正をさせていくこと(=形成的評価)が、先生方には求められています。
❏ ルーブリックを作ったら、適用の練習と継続的な修正
各フェイズへの生徒の取り組みを観察し、きちんと評価を行うには評価の基準が必要であるのは言うまでもありません。
探究活動の評価で大切なことは、各フェイズへの取り組ませ方(学習者が獲得すべき「探究の方策」)であるため、評価基準は自ずと、行動評価のルーブリックの形で整えることになります。
フェイズごとのルーブリックが出来上がったら、実際の指導場面で使いながら、「評価基準を適用する練習」を、生徒も先生も積んでいく必要があるはずです。
評価規準の文言の解釈には人によってばらつきもあるでしょうし、表面的理解では正しい適用もできません。評価結果を突き合わせ、解釈をすり合わせる中で、評価規準の理解を最適化していく必要があります。
また、実際の評価に使ってみると、評価観点の不備や規準で使っている表現に修正すべき点が見つかることも少なくありません。加筆修正が必要な箇所をピックアップして、協議に付し、評価規準のブラッシュアップを継続的に重ねていかないと、「評価の改善」も停滞します。
指導と評価は一体で行われるものであり、評価の改善が進まない以上、指導の改善も足踏みをすることになるはずです。
❏ 評価基準の理解を深める材料に、過年度成果物を利用
評価基準は、到達を目指すもの(=目標)を表現していますので、その理解を深めれば自ずと学びの方向も明確になり、冒頭で書いた「取り組みが方向を失い、空回りする」といった事態は回避されます。
各フェイズの活動に取り掛かる前には、評価すべき成果物がまだ存在していないだけに、評価基準の理解に向けた事前指導も具体性を欠きがちです。先生方もやりにくく、生徒もピンとこないことが多いものです。
しかしながら、同じプログラムが(改訂されつつも)2年め以降であれば、過年度の学年が残した成果物が存在しているはずです。
それらの中から、優れたもの(=指導計画で狙った通りに近いもの)を選んで生徒に見せ、「どこが良いのか」を探しつつ、「良さ」を言語化させてみましょう。その上で、評価基準の読み合わせに入れば、実例を前に膨らんだイメージにそって、基準の理解も進みます。
評価基準の正しい理解なしには、的確な自己評価、振り返りが行えず、活動の進捗の中での修正や、取り組みの改善も進まなくなります。
言語化した結果をクラスでシェアすれば、相互啓発も加わりますので、そのフェイズでの活動を見当違いなものにする生徒は減るはず。個々に声をかけ、修正させる生徒が絞れ、効率的な個別指導も実現します。
❏ 生徒への事前指導とその準備で先生方も目線合わせ
この練習を生徒にさせる中では、先生方の評価基準への理解も深まります。生徒の発言に触れての気づきもあるかもしれません。これにより、指導に明確な方向が持てますし、生徒と同じ目線で指導に当たれます。
また、この場面での指導に好適な「材料」を過年度生の成果物から探しだす工程に、先生方の協働で取り組めば、「良いもの」(=モデルとなり得る成果物)を選び出す視点も共有できるはずです。指導に臨む場面での「目線合わせ」に絶好の機会になると考えられます。
ポスターセッション用の掲示物ひとつでも、形だけ揃えさせたところで意味はありません。なぜその形が求められるのか深い所で知ってこそ、応用やアレンジも含めた有意義な指導ができるはずです。
前年度の生徒の成果物(そのフェイズで作ったもの)を前に、ルーブリックに当てはめた評価を行ってみて、その結果と言語化した評価理由の突合せを、指導に当たる教員チームで行うことを習慣化しましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一