学校評価アンケートは、主だった学校行事が終わる年度後半での実施が普通ですが、どんな評価項目を立て、どんな質問文で訊くかはできるだけ早い時期に検討を進め、教職員への周知を図るべきです。
生徒や保護者にYESと答えてもらいたい質問文は、学校が教育活動を通して実現を図るべきことがらに外ならず、質問設計を通した「目指すべき到達状態」の確認と共有は、目線のあった指導を容易にします。
いざ、学校評価アンケートを行おうという段になって評価項目や質問文に異論が続出するようなら、それまでの教育活動/学校経営で先生方が同じ景色を見ていなかったのかも。年末の実施に向けた準備(質問設計の議論など)を始めるタイミングを逃さないようにしましょう。
2019/05/28 公開の記事をアップデートしました。
❏ 総合満足を目的変数に、寄与度を探れる質問設計
生徒や保護者を対象とする学校評価アンケートでは、「この学校を選んでよかったか」といった質問で、総合的な満足度を確かめるとともに、
- 生活、学習、進路の各領域で展開している教育活動について、どこまで理解と共感を得られているか
- 個々の指導が、どこまで生徒の成長、行動の変化という成果を得ていると生徒・保護者の目に映っているか
といったことを尋ねる質問を配列するのが一般的です。(保護者アンケートの具体的な質問例はこちらでご覧ください。)
こうした設計をしておけば、総合的な満足度を「目的変数」とした重回帰分析などで、説明変数とした各評価項目の寄与度も算出できるため、限りある教育リソースの最適配分への判断材料が得られます。
こうした質問設計により、「学校が目指すべき大きなゴールは何か(≒目的変数)」と「そのために優先的に実現すべき価値、力を入れる教育活動は何か」を校内外の関係者との間で共有していくことが重要です。
総合的な満足度を大きく左右している項目が特定できれば、その項目で高い評価を得ているクラスや学年での実践から、好ましい指導・効果的な取り組みを抽出し、学校全体の教育改善にも道筋がつけられます。
多忙を極める校務の中で「全方位への均等なエネルギー投資」は非現実的であろうかと思いますし、好適な評価を得た前例に倣わない試行錯誤は、継続的な改善を妨げる上、無駄な投資を増やすばかりです。
❏ 教育目的や指導方針はわかりやすく説明できているか
もう一つ、学校評価アンケートを行う際に確実に尋ねておきたいのは、
- 学校の教育目標や指導方針がわかりやすく説明されているか
- 生徒・保護者にどこまで正しく伝わっているか
です。学校としては十分に説明を尽くしているつもりでも、きちんとした理解を得られてないこともしばしばです。
生徒募集の段階では熱心に伝えているのに、入学してからは「育てたい人間像」への言及が少なくなるのは珍しくありませんし、指導方針に修正が加えられても説明が十分になされないこともあるようです。
別稿「教育目標や指導方針をちゃんと伝える」でもお伝えしましたが、学校が実現を図ろとしていること、教育を通じて目指しているところをしっかり伝えないことには、個々の指導に込めた意図も生徒・保護者に正しく理解されず、誤解が不信を招くこともあります。
如上の質問(教育意図の十分な説明)にYESと答えてもらえるかどうかで、生活・学習・進路の各領域での教育活動への評価、ひいては総合的な満足度にも大きな違いが生じるのは、どの学校においても例外なく観察される傾向です。
教育目標への言及や指導方針の説明の度合いには、クラスや学年による違いも小さくなく、その不十分さが生徒や保護者との信頼形成の支障になっているケースもあり、定期的な点検は不可欠だと思います。
❏ 生徒や保護者が答えられる範囲をきちんと想定
生徒や保護者には、それぞれ「きちんと答えられる質問」と「訊かれても答えようがない質問」とがあります。
学習指導や進路指導といった領域で、「指導が適切か」と生徒や保護者に直接的に尋ねてみても、評価には専門性が必要ですから、正しい評価を得ることは難しく、訊かれた側も戸惑うばかりです。
こうした項目に評価を得ようとするなら、教科学習指導や進路・進学指導を通じて目標としているところ、つまり生徒の成長や行動の変化に焦点を当てた質問をするのが好適です。
・生徒に訊いてみるべき質問(振り返りの機会にも)
生徒には自分の行動を省みて、「目標とするところ」にきちんと近づけているかを自己評価してもらいましょう。
- 授業を通じて学力の向上や自分の成長を実感できる
- 自学自習に計画的・主体的に取り組めるようになった
- 高校生に相応しい規律ある生活を日々送ることができている
- 進路や将来を考え、今やるべきことに向き合えるようになった
行事や生徒会活動を含む学校生活を通して育もうとしている主体性・多様性・協働性といった資質の獲得についても、以下のような質問を生徒にぶつけてみたいところですよね。
- 立場の異なる人の話にもきちんと耳を傾けられるようになった
- 周囲と協力し合って課題に取り組めるようになった
- 学校行事や生徒会活動などで、自分の役割を考え行動できている
こうした質問に答ええもらうのは、振り返り/内省へのきっかけにもなります。各質問に応じたルーブリックを示した上で回答(=自己評価)してもらうときに考えたことを言語化させ、添え書きさせるのも好適です。cf. 振り返りと行動変容(まとめページ)
・保護者に訊ける範囲(生徒の回答分布とも比べてみる)
一方、保護者に答えてもらえるところは、それほど広くないようです。学校の様子についての家庭での会話の度合い(深さと頻度)によっては、答えを選ぶのにも十分な材料を持っていないこともあります。
比較的正確に答えが得られるのは「家庭での子どもの様子から伺える成長や日々の行動」ですが、これらは生徒の自己評価の結果と突き合わせてみると、回答分布の違いなどから問題を発見できることもあります。
■関連記事:
- 学校評価アンケートの質問設計(全3編)
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- 学校評価アンケートをどう活用するか(全6編)
保護者へのアンケートなら費用対効果のこともありますので、年に1回の調査で十分かもしれませんが、生徒には、半年に一度、あるいは学期ごとぐらいの頻度で同じ質問に答えさせ、好適な資質や行動様式の獲得がどう進んでいるか把握できるようにしたいところです。
授業評価アンケートと同時に生徒意識調査を実施するのは、考え得る中で最も効率的なやり方の一つだと思います。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一