生徒自身から問いを引き出す
問い掛けには、生徒に記憶を検索・想起させたり、問題意識を刺激して思考や内省を促したりする機能があります。発想や着眼点を広げさせたり、行動を起こさせたりする場面でも、説明や指示よりも問い掛けの方が効果的なことも少なくありません。(前々稿参照)
前稿、前々稿では主に、先生から生徒への問い掛けについて考えてきましたが、教室という学びの場を考えると、生徒から生徒への問い掛けもあれば、生徒から先生への問い掛け(質問)もありますよね。これらを上手に使い、十分に機能させることにもしっかり意識を向けていく必要があろうかと思います。
2014/12/05 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 他の生徒の発言や発表に対する意見や質問
生徒から生徒への問い掛けには、他の生徒の発言や発表に対して質問をする場面が想定されます。
拙稿「プレゼンテーション力より質問力」でも書きましたが、他の生徒の発言や発表は、黙って聞くだけでなく、それに対する意見を作らせたり、質問をさせたりすることで双方の学びがより深いものになります。
生徒を指名して発言させたり、発表の機会を設けたりしても、それを先生が評価することによって「回収」するだけでは、他の生徒はただ聞いているだけで自ら「問い掛け」をするチャンスは生まれません。
ある生徒が発言や発表をしたら、それに対して意見を言ったり、質問をしたりすることを他の生徒に求めましょう。「どう思った?」「なにか質問は?」「ほかの考え方はない?」「付け加えることは?」と教室に振るだけの話であり、特に難しいことではないはずです。
話を鵜呑みにしたり、ただ聞いているだけでは質問はできません。「意見を言う」「質問をする」というタスクが与えられることで、生徒は発言や発表を聴きながら、絶えず頭の中で問い掛けを繰り返します。
問い掛けは、必ずしも音声化してほかの誰かに向けるものだけではありません。自問自答、内省といった形での「自分の中での問い掛け」もまた、思考の深化、発想の拡張には重要です。
起点となる発言、発表をした生徒にとっても、こうした「生徒から生徒への問い掛け」は、大きな学びになるはずです。
他の生徒からの意見や質問は、新たな気づきをもたらし、見落としを埋めてくれます。質問に答えようとする中、思考もより深まります。他の生徒からの問い掛けが、発表した生徒を成長させるということです。
❏ 先生の説明や教科書の記述にも疑問を向けさせる
生徒からの問い掛けは、他の生徒に対してだけでなく、授業をされている先生にも向けられるべきです。さらには教科書や資料などに書かれていることにも問いを向けるよう心掛けさせましょう。
生徒から質問を引き出すことは、学びを深め広げるのに大きな効果を持ちます。生徒から先生への質問とは、生徒の頭の中で生じた「学習した内容に関する問い掛け」が先生に向けられて言葉になったものです。
単元内容に関する先生の説明や、教科書に書かれていることにも「なぜそう言えるのか」「他の見方はないのか」と疑問を持ち、それを問いという形で言語化できるということは、内容を深く考えていた証拠です。
とはいえ、この状態までもっていく指導は容易ではありません。「疑問を持て」「疑ってみろ」と指示をしたところですぐに上手く行く公算はそれほと高くはなさそうです。
ここでも、先生が率先して範を示す「問い掛ける姿勢」が大切です。
教科書に書かれていることや自明と思われていることにも、「どういうことか」「なぜそうなのか」と問いを立てて見せることを繰り返すことで、生徒は徐々にその真似ができるようになり、やがては自力で問いを立てる方法と姿勢を学んでいってくれるはずです。
日々の教科学習指導の中で身につけた「問いを立てる力」は、探究活動の中でさらに磨きをかけることで、身の回りの問題/社会が抱える課題に取り組むときに欠かせない「ファクトフルネス」として生徒の中に結実するものと考えます。
❏ 生徒が発言を躊躇しない環境を維持することの大切さ
生徒同士の問い掛けや先生への質問が持つ「気づきを拡張し学びを深める機能」も、生徒が発言を躊躇しては十分に発揮されません。
小中学校では盛んに話し合いや教え合い・学び合いをしていたのに、高校に進んでそうした場が減るにつれて、自分の頭に浮かんだ「問い」を言葉にすることに不安や戸惑いを感じるようになることがあります。
他の生徒も同じように疑問を感じていたり、わからないでいたりするのに、そうと知る機会が少なくなるにつれて、「わかっていないのは自分だけかも」「こんな質問はレベルが低いのでは」と余計な不安を抱え、疑問を言葉にできなくなる生徒もいます。
ペアワーク、グループワークなどを通して、生徒が自らの考えを言語化する場をしっかり確保するとともに、他の生徒の考えに触れる機会を作ってあげることが、発言への不安や戸惑いを減じ、教室の中を問い掛けで満たすための前提要件の一つです。
先生からの問い掛け(発問)にも、自分の答えに自信がなければ「わかりません」と口をつぐんだ方が、間違いに失笑を買うよりましと考える生徒もいるのではないでしょうか。
教室全体に問いを投げかけて、生徒の中に戸惑いが感じられたら、衆人環視の下で一人の発言に注目を集めさせてしまう前に、「隣同士でちょっと話し合ってごらん」とワンクッションを挟み、そのやり取りをよく観察したうえで指名する生徒を選ぶことも大切でしょう。
先生方のこうした配慮の一つひとつが、問い掛けの多い、深い学びをもたらし得る授業を作っていくのだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一