スクール形式で行う、一見すると講義形式のような授業スタイルでも、頻繁に問いが発せられ、生徒の発言をきちんと拾い上げて次の問いに繋ぐという流れができていれば、生徒の頭を十分にアクティブな状態にすることができます。問いを重ねるということは、思考を掘り下げることであり、また見落としを減らし視座を広げることに繋がっていきます。
もちろん、協働性を身につけさせる場では、各地で研究されどんどん開発されている”アクティブ・ラーニング的な手法”を採り込んでいくのが効果的な場合が多いですが、生徒同士の話し合いにすべてをゆだねてしまうより、先生との問答が適切に挟まることで、前提の共有、議論の方向付けといった、実のある対話を実現する要件が整いやすくなります。
2015/04/23 公開の記事をアップデートしました。
❏ 板書を使ったインタラクション
発問で引き出した生徒の発言をもとに次の問いを立てて、思考を深め視座を広げていく過程で、最初の問いが生徒の認識からこぼれはじめてしまうこともあります。
また、「今の問い」の前提となっている他の生徒からの直前の発言を理解し損ねていると、問いが発動する思考も方向違いなものになります。
こうしたちぐはぐが起きないようにするのに積極的に使っていきたいのが、ここで紹介する「板書を使ったインタラクション」です。
板書を使ったインタラクション(イメージ)
まずは、クラス全体に問いを投げかけ、反応を観察した上で、生徒の発言を取り上げます。ここでのポイントは、机間指導などを通じてそれぞれの生徒の状況をよく観察しておくことです。
問いそのものを、黒板に書き出しておくと、考えたり調べたりしながら問いに立ち戻れるので、思考の躓きから生徒が回復する助けにもなります。発問の瞬間に、 他のことに気を取られている生徒だっています。
また、後でノートを見直したときに、どんな問いであったかを思い出せることは、前稿で触れた「発問そのものを真似る」ことができる状態に導く上でも有効です。
❏ 誰に発言させるかを決める前に、きちんと観察
さて、問いを投げかけたら、次は生徒の発言を取り上げる場面です。生徒の手元を覗きこんだり、隣同士で話し合っているのに聞き耳を立てて、「良い答え」を持っている生徒を探しましょう。
ここで言う良い答えとは「正解」のことではなく、正解にあと一歩の答えです。生徒自身がじっくり考え、正解に近づいた痕跡が見られる答えからは、クラス全体でシェアすべき学びが生まれやすいはず。──どこかで写してきた模範解答のような答えから、発想を拡充し、正しい考え方(論理性)に導く「次の問い」に繋ぐのは困難です。
また、発問に触れて答えを探そうと、教科書の少し先を読み始めたり、副教材・資料集のページを開いているような生徒がいたら、考えているところをちょいと発言させてみたいところですよね。授業前に提出させておいた課題に予め目を通しておくことも、発言させてみたい生徒を見つける手掛かりになります。
観察なしに指名しては、何も用意できていない生徒を指名して発言ならぬ沈黙を引き出してしまいます。まったく的外れな答えしか持っていない生徒を当てては、恥をかかせるだけで次の問いに展開できません。
必ずしも「指名」という形を採らずとも、答えに近づいている生徒はアイコンタクトだけでも発言してくれるようになります。但し、「間違いであっても肯定的にその発言を取り上げる」ことを習慣にしておくことが前提(詳細は次稿)です。
❏ 生徒の発言を元に、次の問いを立てるのが鉄則
このようにして正解に近づくステップになり得る発言を引き出したら、その発言内容を板書してクラスで共有しましょう。
黒板に書き出して目で確認させ、手を使って書き写させることで、生徒はその発言をより良く観察できるようになります。
精緻に観察できなければ、見落としている箇所、考え違いを含む箇所を見つけて掘り下げて行くのは容易でないはずです。
中間段階を板書で固定・共有しながら問い掛けを重ねていくことでこそ、密度の高い「対話」がスクール形式の授業の中でも生まれます。
板書なしで進めた場合、他の生徒が、問いの流れを把握できないこともありますし、何よりノートに残せないため、復習するときにも思考のプロセスが再現できず、「どこかで出来上がった答え」を覚えるだけの学習になってしまいます。
自力で答えを導けるようにすることが学習指導の目的であり、答えを覚えさせることではありません。
せっかく対話を重ねても、最終的には先生が用意しておいた模範解答をドーンと板書して見せるだけになっては、答えを導く途中の過程には意識が向かなくなりますよね。
■ご参考記事:
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一