知らないことや経験したことのないことが山ほどあり、認知の網を十分に張れていない高校生に、脇見や寄り道をせずに「10年後、自分が何をやっているか」を考えてまっすぐゴールを目指せ、というのはあまりにも酷。選択肢を見せる前に正解を選べと言っているようなものです。
前稿で繰り返し使った「偶然との出会い」を生徒が持てるよう、社会との関わりや、学ぶべきことの所在を探れる機会の整備こそ先決です。
職業調べや学部・学科研究に取り組ませる前に、身近なところを起点にして世の中の仕組みや人の営みへと広く認知の網を張らせていく仕掛けが十分に整っているか、指導を振り返ってみる必要があります。
2014/05/29 公開の記事をアップデートしました。
❏ 身近なところを起点に社会の営みを広く知る
身近な出来事や話題のニュースを起点に、世の中の仕組みを考え、そこに関わる人々の営みに思いを巡らせる場をプロデュースしましょう。
例えば、毎年のように気を揉まされるニュースにウナギの稚魚の不漁がありますが、この報道に触れさせて生徒に調べ学習を課したら、生徒はどこまで認知の網を広げ、思いを巡らせることができるでしょうか。
ウナギ養殖や水産業の実態をネットで調べて、それらしき情報を見つけただけで調べ終わった気になっている生徒もいるかもしれません。
ここで何の手も打たなかったら、それ以上に発想は広がらず、興味のない生徒とっては「ふ~ん」で終わりです。
もう少し深く、広く調べさせるために、生徒をグループに分けて、多少の「競う」要素を取り入れてみたり、調べたことや知っていることを互いに共有できる場を設けたりする「仕掛け」が欲しいところです。
ウナギの例に限らず、認知の網を広げていくきっかけは日々の生活の中にいくらでも見つかるのではないでしょうか。
少し前には、コンビニ弁当がどうやって作られているか、元を辿りながら生産者の活動やそこでの問題まで調べ、考えさせるというプログラムもよく見かけましたよね。
❏ グループワークで情報の共有と発想の交換を促す
調べ学習に取り組ませたところで、生徒一人ひとりに机に向かって考えさせているだけでは、なかなか発想は膨らみません。
生徒がそれぞれ調べたことを、全員が見えるところで共有するのがここでのポイント。グループ間での競争心のようなものを刺激したりすることも、議論を盛り上げるのに一役買ってくれるはずです。
大きな紙のまんなかに「ウナギ」と書いて、調べてきたこと/知っていること、その場で思いついたことを、放射線状に書き込ませていきましょう。出来上がっていくものはこんな感じでしょうか。
書き出してシェアすることで他の生徒の発想をさらに刺激し、そこから飛び出してきたものがさらに周囲の思考が刺激されて、教室の中に新たな着想が生まれるという「連鎖」が起きます。
付箋に書かせて貼りださせれば、あとで場所を移動させたり、同じようなものを重ねて整理したりするようなこともできますよね。
最終的には、項目間の関連を表現するレイアウトを作らせたり、マインドマップを書上げさせたりすれば、汎用スキルの一つである「情報整理の技術」を身につけさせる機会にもなるはずです。
❏ 知るところが広がったら、学部・学科、学問研究へ
さらに調べていくうちに、そうしたことを勉強できる学部・学科はどこだ、企業はどういう活動をしているんだという進路研究にもスムーズにつなげていくことができるはずです。
中には、価格の高騰から「投機」にイメージが転じて、金融商品の開発の現場に立ったり、開発に必要な高度な数学を学んだりしている自分を思い浮かべる生徒も現れるかもしれません。
“土用の丑の日”に着目した生徒は、「食文化」という括りに止まらず、平賀源内が出てきて江戸時代の学問体系にまで興味を持つかもしれませんし、その先に踏み込んで、歴史考察の方法論研究にまでたどり着く生徒がいたらすごいことですよね。
たとえ面白いと感じることがあっても、何もしなければそのままです。興味を掘り下げ、広げていく場を私たちがプロデュースしてこそ、「学んでみたいこと」へ、「それを学べる学部・学科への興味」へと、生徒の認識の及ぶ範囲は広がっていくのではないでしょうか。
さらに、その学部・学科はどの大学に設置されているか、A大学のB学部とC大学のB学部とではどんな違いがあるのかを調べていけば、受験科目と偏差値以外のモノサシを進路選択に持ち込めるはずです。
追記: このように考えてみると、探究活動や課題研究は、進路指導(特に進路希望を作るフェイズでの指導)との親和性は非常に高く、むしろ両者の間に明確な境界はないと言えるのではないでしょうか。
ゴールを決めさせ、最短距離を歩ませるというのとは違ったアプローチでの指導が、これからの時代には必要になります。新学習指導要領で名称を変えて始まる「総合的な探究の時間」や新設される「〇〇探究」の各科目は、進路指導と一体で設計してこそ活きるはずです。
以下の記事も併せてお読みいただければ幸甚です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一