日々の教育活動の中で生じた課題の解決を図ろうとするとき、あるいは新課程の対応などで従来のやり方を変更しようとするときに気をつけなければならないのは、部分を最適化しようとして全体のバランスを崩さないようにすることです。
全体のバランスを保つには、個々の教育機会の指導目標の上位に、学校の教育目的がしっかり据えれられていることが何よりも重要です。
大きな変革を迎え、あちらこちらに修正の手を入れていく前に、
- 本校が実現を目指している教育は何か
- どんな人材を育てようとしているのか
という問いに、学校全体(すべての先生、各組織)で一つの答えを共有できているかどうか確かめてみるべきではないでしょうか。
2018/05/30 公開の記事をアップデートしました。
❏ 目の前の課題に気を取られるとゴールが見えなくなる
例えば、これまで教養主義を掲げてきた学校が、大学合格実績が伸びないからと言って、私大型の教育課程に切り替えてしまっては、看板と実態がかけ離れてしまいます。
地域に貢献できる人材を育てると言いながら、それを意図したプログラムを躊躇なく削減して、他の行事や活動に配当する時間を増やすというのも、おかしな話です。
思考力・判断力・表現力を養うことを校是に謳いながら、日々の授業では、そうした場面の拡充にではなく、副教材を増やし覚えることを求める方向に力を入れてしまうというのもちぐはぐな感じが否めません。
これらはいずれも、眼前の課題を解決しようとする意図(善意)から生じた行動であり、それ自体は批判されるべきものではないでしょうが、結果的には目指すゴールと違う方向に舵を切ったことになります。
❏ 個々の教育活動は、校是実現への貢献度で評価
分掌・教科・学年といった組織で、それぞれ指導目標を立てているはずですが、個々の目標は「学校が目指すものを示したグランドデザイン」の中にきちんと位置付けられているでしょうか。
指導計画の改善を協議したり、指導方針(先生方が共通理解としてこだわりを持つべきところ)を打ち出そうとしたりするとき、冒頭の問いに対して同じ答えをきちんと共有した上で、議論がなされているか、常に点検の意識を持ちたいところです。
また、個々の教育活動の効果を検証したりするときも、その活動だけを「単体」でみて、「上手く行った/所期の成果を得た」という局所的な評価に止まらないようにしましょう。
教育リソースの総量に限りがある以上、学校が目指していることの実現にどのくらい貢献したかに焦点を当てた評価をしないと、全体での最適化は図れません。
評価に用いる「モノサシ」も、学校の教育目的などと整合を保っているか/関連付けが明確かという視点で、点検が必要だと思います。
❏ 問いへの答えは、生徒や保護者とも共有する
建学の精神や教育目的/理念に照らして考えた「本校が実現を目指している教育は何か」「どんな人材を育てようとしているのか」という問いへの答えは、先生方の間だけではなく、生徒や保護者を含めたすべてのステークホルダと共有する必要があるのではないでしょうか。
生徒募集での学校広報から始まり、新入生オリエンテーションや授業開き、主要行事での開会式などあらゆる場面で、その「答え」に言及する機会を持つようにしましょう。
ただし、お題目のように繰り返すだけでは、具体的なイメージは伝わらず、解釈にもばらつきが大きくなります。別稿でも申し上げたように、相応の具体的な働き掛けを重ねて行く必要があるはずです。
生徒や保護者と「答えの共有」を図る前には、先生方の間での「目線合わせ」として、指導場面(生活、学習、進路の各領域 ✕ 学年、学期)に応じた、具体的な解釈をきっちり共有しておくことが先決です。
先生方の事前打ち合わせというと、手順の確認が主になりがちですが、目標と確認や目線合わせにこそ十分な時間をかけるべきだと思います。
❏ 校内外に謳ってきたことに立ち戻って
高校では新課程に移行して間もなく1年が経過します。新課程の下での指導を振り返るべきタイミングと言えます。
これまでの取り組みを振り返るにも、その結果を踏まえ次の年度の計画を起こすにも、如上の問いへの答えを意識の真ん中に置かないと、議論はかみ合わなくなり、方向性を失ってしまいかねません。
まずは、学校ホームページや学校案内(パンフレット)などでの記述に改めて目を通し、どんな価値を謳い、どんな人材を育てると宣言してきたか、しっかりと確認してから、教育活動全体を考えたいところです。
万が一、それらの記述に「あいまいなところ」「不整合が生じているところ」などが見つかったら、それをどう修正して、より良いメッセージに起こし直すか、議論を尽くす必要があろうかと思います。
新年度を迎えて間もなくすると、再来年度の新入生を迎えるための募集活動(学校広報)も始まります。それに間に合うように議論を進めるとすれば、あまり時間の余裕はないように思います。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一