年度末を迎え、進級を間近に控える1年生、2年生には、ゼロ学期のうちに是非ともやっておいてもらいたいことが幾つかあります。その一つが「これまでに受験した模擬試験と定期考査のやり直し」です。
ちなみに、最上級生になる2年生に限れば、志望理由を言葉にしてみること(第一志望宣言)にもきちんと取り組んでもらいましょう。
2018/02/21 公開の記事をアップデートしました。
❏ 一定の時間を経たところで「学びの重ね塗り」
模試にしても定期考査にしても、答案返却に際して、間違い直しを指示していることが少なくないかと思います。
その場で真面目に取り組んだ生徒は、問題が求めている知識を補い、理解も作り直したはずですが、それからある程度の時間が経過していますので、保持されていない/想起できなくなっている記憶も多いかと。
年度末などの「区切り」でもう一度、同じ問題を解いてみると、抜け落ちた部分に重ね塗り(再記銘)ができ、記憶はより確かになります。
授業で学んだり、解答と解説を読んで学び直し/間違い直しをしたりすれば、同じ(ような)問題なら「解ける」ようになりますが、「直近の記憶の再現」だけで正解を導いているというケースもままあります。
一定の時間が経過して、記憶が多少なりとも薄れたときに再チャレンジしてみると、考えて解かなければならない部分も増えるもの。
その中で改めて、思考(=知識を組み合わせて、問いが求めるものを導きだす)の手順に習熟が進むという効果も期待できると思います。
模試や考査のやり直しで、必要な知識が余さず備わっているか、きちんと理解できているか(=知識が生きて働くものになっているか)の確認ができれば、進級後の学びへの備えも整ってきます。
❏ 教科書やノートを読み返す中で、周辺知識も確認できる
生徒の手元には、間違い直しに際して朱入れした答案や、解答と解説の冊子なども保存されているでしょうが、年度末での再チャレンジでは、問題冊子以外はしまっておかせましょう。
どうしてもわからない(思い出せない、考え出せない)ところは、教科書や副教材、授業のノート/プリントを見直すようにさせることで、周辺の関連事項も含めた復習がより広くできるはずです。
選択式の問題では、尋ねられている知識の有無しか試せない上、うろ覚えでも答えが選べてしまいますので、なぜその答えなのか、他の選択肢ではいけないのか、理由を言語化するタスクを加えるのも好適です。
記述・論述タイプの問題では、改めて作った答えと、模試や考査で初めて解いたときの答え、その後に直した答えの3つを比べてみると、「忘れていたところ」を思い出すだけでなく、「その後の学びで深まったところ」を洗い出せ、ここまでの学びの成果のたな卸しもできます。
❏ その後の学びと結びついて得られる新たな気づき
模試や考査の日から、生徒は(他教科も含め)新しい単元をいくつも勉強して、科目の内容をより深く、広く知るようになってきています。知識や理解を蓄えるだけでなく、思考や表現の力も高めているはずです。
こうした新たに獲得したものを駆使して、以前に解いた問題に答えを作り直してみれば、最初に解いたときには見落としていたことや、わかった気になっていたことに気付くことがあります。
これまでの学びの成果を「たな卸し」する中で、問題へのアプローチ、勉強の仕方などに、改善すべき点を(少なくともある時点までは)抱えていたことに気づけば、これから先、何をどう学んでいくかを考える機会を得て「より良い学びの方策」の獲得に向かえます。
模試や考査のやり直しも含む「学び直し」は、メタ認知・適応的学習力の向上を図るためのもの。勉強を好きにさせる学ばせ方にも通じます。
また、互いに関連付けられることなく、個々バラバラに覚えていたことが、背後で結びついていたことに気付いたとき、それらの知識や理解は統合され、それを機に「使える道具」に昇格することもあります。
こうした統合の積み重ねで、科目の全体像を捉えられるようになると、そこに「科目の学びに対する自己効力感」が生まれます。何となく抱いていた苦手意識を上書きできれば、より積極的に学びに向かえます。
科目の内容をひと通り学び終える学年末に行う学び直しには、如上の効果が(学期の途中で行う場合より)さらに大きく期待できるはずです。
❏ 精選された問いを使って効率的に学び直し
年度末は授業のない日も増えますが、生徒の持ち時間は有限ですから、そこでの学び直しも、できる限り「効率的」に行わせたいところです。
定期考査は、試験範囲から特に大事なものを先生方が選び出して問いに調え、配列したもの。模試も出題頻度や近年の入試での問われ方などに照らして、試すべきと判断されたものが出題されています。いずれも、効率的な学び直しには、最適な材料のひとつだと思います。
定期考査で出題したのは、「大事なところ」と判断したからでしょう。曖昧な理解と記憶のままで先に進ませてはいけないはずです。
ただし、出題研究の成果を踏まえて、考査問題のアップデートをきちんと行っておかないと、やり直しが新しい学力観に沿った学びにはなり得ず、余計/無駄なエネルギーを使わせてしまうことになります。
春休みの宿題には「新しいもの」を課すのも結構ですが、生徒が1年間の学びを振り返り、やり残しているものを選び出して、個々に取り組むことも大切です。考査や模試の問題へのリトライを、その「入り口」にさせましょう。(cf. 春休みの宿題~やるべきものを選ばせる)
❏ 一人ひとりに合わせた課題の付与にも繋がる
これまでの勉強に不足があった(サボった、学び方がマズかった)生徒は、やり直しにも相応の時間がかかるはず。じっくり取り組んでもらうことで、一年間の学びの総浚いをしっかり行わせましょう。
一方、授業をしっかり受け、復習も的確に行ってきた生徒は、模試や考査のやり直しといっても、あまり時間をかけずに終えられます。
こうした生徒にこそ、しっかりと「学びを拡張する機会」を用意して、伸びしろを最大限に活かせるようにしてあげたいところです。
時間があるときにチャレンジさせてみたいと考えていた問い/課題があれば、この機に生徒の目に触れるようにしてみましょう。
問題を目にして、解いてみたいと思う生徒がいたら嬉しい限り。先生方の指導が生徒の興味や関心を刺激したということに他なりません。「答えができたら持ってきて/送信して」と一声かけておきましょう。
単元を学んだときから時間が経ち、その後の学びを進めたことで、生徒の問題意識は様々なところに向かっているはず。こうした問いが探究活動の入り口になったり、進路希望に繋がっていく可能性も膨らみます。
生徒一人ひとりの状況に合わせて必要な学習課題を的確に割り当てるのは容易ならざることですが、こうした指導機会は、学びの個別化への対応を(たとえ部分的にでも)実現するチャンスのひとつです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一