高大接続改革とその先の本丸である次期学習指導要領に向けて、学力の三要素をキーワードに、新しい学力観に沿った学ばせ方への転換が急速に進んでいます。各地で行われている研修会やセミナーでも、新課程の中身(学習内容)を研究するもの、AL、協働、反転といった指導方法をキーワードに含むものがとても多くなりました。
その一方で、「評価方法の改革」 は動き出しが遅いような気がします。インターネットで「ポートフォリオ」や「ルーブリック」を検索しても前者のヒット数は増えたものの、後者は未だあまり多くありません。
意識からこぼれているのか、意識にあっても導入に向けた本格的な取り組みが少し遅れているだけなのか…。
❏ 指導方法の前に、目標の達成を検証する方法を考える
学びを通じて獲得させるべき能力・資質・姿勢(学習目標)が決まったら、次に考えるべきは、指導方法ではなく評価方法です。
様々な活動を授業に採り込んでも、それによってどんな状態に生徒を導くのか、どんな生徒を育てたいのかが明確にされ、効果が検証されなければ、教室を盛り上げるだけで終わってしまうかもしれません。
生徒一人ひとりの現状と目標との位置関係(距離と方向)をはっきりさせる手立て、つまりは評価の方法が整ってこそ、指導の効果測定もできれば、生徒一人ひとりが次に向けた課題を設定することもできます。
❏ テストで点数化できない学力を測るのがルーブリック
学力の三要素のうち、「協働性・主体性・多様性」は、通常のテストで評価できる「見える学力」ではありません。
そうした学力を、観点別の段階的評価規準に照合して評価するために考案されたツールがルーブリックです。
目標準拠評価(いわゆる絶対評価)が導入されて以降、質的違いを評価する方法として研究・導入が進められてきました。
簡単に言えば、
「こういう行動を取れるようになって欲しい」
「こういうことをできるようになってもらいたい」
という事柄を、生徒を主語にしたセンテンスで記述し、それに適合していればA評価を与えます。
目標に近づいているが不足があるB評価、目標に遠いC評価、期待を超えるパフォーマンスに与えるS評価にもそれぞれ、生徒の行動を記述したセンテンスを規準として用意します。
❏ ルーブリックの導入が生徒と教師にもたらす恩恵
こうした観点別の段階的な評価規準に示された「目指すべき到達状態」に照らすことで、生徒は自分がどこまでできるようになっているかを知り、もう一段上を目指すのに何が足りないかを知ることができます。
学習者としての自分を客観的に捉えて、次に何をすべきかを考えることで、主体的な学びも実現します。
メタ認知を形成する機会を設けず、「生徒が主体的に取り組まない」と嘆くのは、お門違いかもしれません。
指導に当たる先生方にしても、観点別の評価分布の変化を辿ることで、ある期間の指導の成果を客観的に捉えることができ、「これまでの指導はこの観点には有効だが、こちらの観点には効果が薄い」といった気づきにも繋がります。
また、複数の先生がそれぞれ最善と考える方法で指導を行い、その結果を評価の分布の違いで比べてみれば、共有すべき効果的な指導の所在を特定することもできるはずです。
❏ これまでの指導を通じた観察から好適行動を掘り起こす
ルーブリック評価という言葉や概念は確かに新しいものですが、それを構成するパーツは実はすでに先生方の手の内にあります。
これまで生徒を指導して観察してきた経験から、学習者として好ましい行動を、活動場面ごとに思い出してみましょう。
予習や授業準備、協働での課題解決、探究活動のテーマ設定や調査、学校行事や部活動、・・・様々な場面で「こうあって欲しい」という期待があったはずです。
生徒を指導していて「これは後輩にも倣わせたいな」「ずいぶん成長したな」「受験生らしくなってきたものだ」と感じた瞬間もいくらでも思いだせるのではないでしょうか。
先生方のこうした記憶を辿り、生徒に求めていた行動を書き出していけば、観点別段階的評価規準(=ルーブリック)を作成するためのパーツは揃ってきます。
一人の経験や観察では、偏りや漏れがありますので、大勢の先生が作成に関わり、それぞれの記憶を持ち寄ることが大切です。
❏ 「生徒に望む行動」を観点毎に順序をつけて並べてみる
それぞれの記憶と指導に込めた願いを付箋に書き出して、検討の場に持ち寄ってもらいましょう。
生活、学習、進路の三領域に大きく分けて、低学年でも達成して欲しい基本的なものから、難関大に進学して頑張っている卒業生が受験期に見せてくれた高度なものまで、順序を付けて並べてみれば、生徒に辿らせたい「ロードマップ」が徐々にその姿を見せてきます。
こうした作業を通じて、チームとして生徒の指導に当たる際の「目線合わせ」ができることも大きなメリットです。
持ち寄った付箋を並べていくうちに、それまで見落としていた観点や、踏ませるべきだったのに飛び越していた段階があったことにも気づくことも少なくありません。
指導観を更新する絶好の機会になるのではないでしょうか。そもそも、こうした作業は、一人で黙々とやるより大勢でわいわいやった方が効率的ですし、楽しそうです。
2020年以降、高校での評定や調査書、推薦書のフォーマットがどのような形になるのかは、今後の議論を見守る必要がありますが、第三の学力要素をこれまで以上に高い次元で獲得させる必要は変わりません。
そのために必要なツールがルーブリックです。本文に書いた通り、現段階からでも準備に取り掛かれる部分はありそうです。
次期学習指導要領で作成が義務付けられることが確定するのを待たず、今のうちから、少しずつ準備を整えていくことが、今、学校に通ってきている生徒に対してより良い指導を実現することに繋がります。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一