苦手意識が膨らんでしまったら(後編)

苦手意識が膨らんでしまった(=学びに自己効力感を持てなくなった)生徒には、様々な方法を組み合わせて「自信回復」に導く必要がありますが、確実に行うべきは、前編で触れた「既習内容の確認」でしょう。
苦手意識を抱えるようになると、自ずと学びは消極的になり、これまで学んだ内容の理解も浅く、定着も不完全になっているもの。それを土台に次の学びを積み上げようとしても、不確かな足場に思い通りに歩を進められません。その「徒労感」は苦手意識をさらに強めてしまいます。
既習内容の確認以外にも、不足しがちな理解力を底上げするための仕掛け、学習の改善に向かわせる振り返り、学びの成果(=自分の進歩)をしっかり認識させることなども、苦手意識からの救出には不可欠です。

❏ 板書の徹底、教え合い、目標提示で理解力の底上げなど

科目を苦手とする生徒は、既習内容の理解が不足ぎみ。新しく入ってきた情報(知識)を記憶に繋ぎ止めるための「アンカー」が足りなかったり、理解を中期記憶に渡すのに時間が掛かったりします。
この状態で「口頭での説明」が続くと、大切な情報も片っ端からこぼれ落ち、学びが記憶の中に構成されていきません。しっかりと「問い掛け→確認→板書による固定」というサイクルを回すことが大切です。
板書は「ここまで何をやってきたか」を視覚的に示せる便利なツール。現在位置を常に示すことで、苦手な生徒が迷子になるのも防げます。
また、思考は既得知識を土台に行われるもの。既習内容の不確かな理解は「思考」を妨げますので、科目を苦手とする生徒が多い環境では、教え合い・学び合いで「理解の補完」が働くようにすることも大切です。
実際、活動性を高める(=対話の充実を図る)ことが、苦手意識の発生を抑える効果を持つことを示すデータもあります。

理解力の底上げを図るには、目指しているところを明確に認識させるのも効果的です。授業評価アンケートでも、「本時の目標をはっきり伝えている授業ほど、説明がわかりにくいという回答が減る」との傾向が明らか。目標に照らして、個々の説明をより良く理解できるためです。
具体的なゴールをイメージさせるのに、最もシンプルで確実な効果が期待できるのは、解くべき課題で示すことです。学び終えたときに答えを導くべき問いを、導入フェイズで示すだけでも状況は一変します。
提示と同時に、手持ちの知識で「仮の答え」を作らせれば、必要なのにかけている知識(不明の所在)も明らかになり、参照型副教材の活用を促せえるという「好循環」に生徒を置くこともできます。

❏ 考査や模試、課題に取り組むたびにきちんと振り返り

苦手意識というのは、言い換えれば、学び方がわからなくなっているということ。知識の不足は、参照型副教材を使ったり、AIに尋ねたりすれば、クリアできますが、それだけでは問いに答えは導けません。
思考のプロセスを正しく辿れてこそ、正解に至れます。ここに問題を残しては、勉強しても正解できるようにはならず、「やっぱり自分はこの科目に向かない」と思い込んでしまう結果にもなりがちでしょう。
問題にチャレンジして解けなかったのにも、きちんと理由があるはず。解に至るプロセスを分解して、どこに躓きがあったかを特定していかないと、解けなかった理由の解消には向かえません。

定期考査で成績が振るわなかった時も、「頑張りが足りなかった」「苦手科目だから」という理由付けでは、何ら問題は解決に向かいません。
なぜ、この領域で点数が伸びなかったのか、どう勉強を進めていれば、もっと点数が取れたのかを考え、次の機会でそれを実行してみる。この繰り返しの中で、自らの学習を調整していく(学習の改善を図る)ことが苦手を克服する、数少ない、確実な方法の一つでしょう。
こうしたことも、苦手意識に苛まれている生徒が自ら思い付き、実行に移していくとは思えません。先生方からの働きかけと支援(見守りや、躓いたときに最小限の手を差し伸べること)が頼りなはずです。
苦手意識を抱えた生徒たちが、互いに励まし合い、学びの改善に取り組む場を作ってあげることも大切な仕事と考えましょう。

❏ 必要な情報を集めて知に編む方法と姿勢を学ばせる

前段の「振り返りを通して図る学習の改善/調整」と並行して、生徒にしっかり取り組ませたいことは、わからないことがあったときに、それを解消する方法と姿勢を学びとること(学習方策の獲得)です。
以下の別稿でも書いたことですが、不明の所在を自ら知り、不足する情報を信頼できるソースに当たって補っていけるようにならないことには学習者としての自立には向かえないはずです。

本時の目標をダイレクトに表現する「ターゲット設問」(学び終えたときに答えを導くべき問い)に、手持ちの知識・理解で「仮の答え」を作ろうとすれば、不明の所在には自ずと気づけるもの。
その不明を解消するには、教科書や資料を読んだり、参照型副教材に当たったりしながら、必要な情報を集め、問いが求めている知に編むことになります。この行為(インテイク)の繰り返しが、不明解消の方法と姿勢(学習方策を構成する一要素)を生徒に獲得させます。

❏ 学び終えたときに、最初の自分と比べて「進歩」を確認

苦手意識のもう一つの側面は、「取り組み(学習)を通じた進歩を実感できないこと」です。頑張っても伸びている実感を欠いては、「どうも向いていないらしい」と思ってしまうのも当然の帰結でしょう。
導入フェイズで作った「仮の答え」(前述)と、学び終えて仕上げ直した「納得の答え」の差分には、学びの成果が端的に表れているはず。

漫然と答えを眺めるのではなく、採点(評価)の基準と照らし合わせてみれば、進歩の度合いとそれが持つ意味をより明確に捉えられます。
こうしたことも、特に指導もなしに放置した生徒が自ら思いついて行うとは思えません。「仮の答えを作らせる」「記録しておく」「学び終えたら最初の問いに立ち戻り、答えを仕上げる」「最初の答えと比べ、進歩を分析的に捉える」ことを先生が求める必要があるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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