学習効果が期待値を下回るとき(その2)

目的もしっかり示し、活用機会も十分、しかも「わかりやすさ」も十分に備わっているのに、学習効果だけが思ったように向上しない。そんなときに「当座の目標を達成した先をイメージできているかどうか」 を点検してみましょうというのが、前稿のお話でした。本日は、その続きから。
❏ 当座の目標を達成した先にイメージできるもの
下図は、活用機会の得点から導き出した学習効果における期待値と実測値の乖離を、教科別に調べたものです。

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教科の特性から有意差が生じています。国語では4分の1の授業で学習効果の実測値が、活用機会から導かれる期待知を5ポイント以上下回っており、苦戦の様子が伺えます。
教科書を読んで内容を理解する(さらには表現する)というのは、パフォーマンスモデル(これまでに何を学んだか)における“当座の目的”です。これに対して、教科書を理解する過程で、読み方を身につけるというコンピテンスモデル(これから何ができるか)での目的とは似て非なるものです。
❏ コンピテンスモデルでの学習成果を目指して
別の言い方をすれば、文章の内容を理解させることと、読み方を身につけさせることはイコールではない、ということです。
「説明を聞いて内容はわかった、でも、それがどう役に立つの?」という疑問が、生徒の内にあるとしても、理解不能なことではありません。
授業内で学んだ「読み方」を、次の教材に取り組むときに生徒の側が試して、うまく行った(=前よりしっかり読めた)という体験を与えない限り、できるようになったという実感は持てないのではないでしょうか。
例えば、論説文を読み解く方法として頻出語句や接続詞をマークアップして、読み解く手がかりを探すことを教えたとしましょう。しっかりと時間を掛けて教えたのに、次の授業でも同じことを先生主導で繰り返しているのでは、生徒がその方法に実地のなかで習熟していく機会を奪ってしまいます。授業を通して教えた“方策”は、次の授業からは生徒自身に予習(あるいは授業内での活動)で行わせるべきことです。
❏ やらせて見せて、ほめて(=評価して)やらねば…
もちろん、一発で上手にできるようになるわけではありません。授業ごとに幾度もトライする中で、自分のものにしていけるように、生徒が自力でやってみたことを、先生からの発問で質したり、生徒どうしで点検させたり、教え合わせたり―あらゆる機会を使って手順への習熟を図っていきましょう。
先生が黒板で示したモデルを幾度も目にするだけで身につけることができる生徒もいるかもしれません。しかしながら、多くの場合は、実際に自分の手を使って試し、後で示されるモデルと見比べ、修正を重ねてようやく、方法への習熟が図られるのではないでしょうか。教えたことを生徒にやらせず、先生ご自身が反復してこなかったか、この機に振り返ってみましょう。
❏ 期待値を平均で下回るのは、国語のほかに数学と英語
数学では、既習事項への習熟が不十分なまま、難易度を引き上げてしまうと無理がかかり、却って学習効果を低下させます。
課題を与えるときは達成可能性を担保するのが鉄則です。カリキュラム上のスパイラルを利用しながら、理解を“重ね塗り”したり、定期考査の出題範囲に次の単元の関連既習単元を組み入れて学び直しを促したりするなどの対策も有効です。
英語については、国語(特に現代文)と似たような問題を抱えるケースがあります。例えば、教科書の英文の内容を理解するのは、その単元をしっかり読んだことを意味しますが、「これから先できること」が増えたとは限りません。
シラバスに「自転車の発達の歴史について理解する」などと書かれている場合、コンピテンスモデルでの目標意識があまり十分でない可能性を疑ってみる必要があるかもしれません。そもそも、先生が丁寧に読んで、内容を理解させたとしても、自分で読めたかどうかわかりませんよね。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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