授業動画で優良実践の共有と教材観の擦り合わせ

ご自身の授業を動画に撮ってみる機会は、どのくらいの頻度であるでしょうか。別稿「自分撮りのススメ~自分の授業を客観的にみる」でも書いた通り、カメラを通して自分の授業を観てみると、セルフイメージが更新でき、それまで気づかずにいた改善課題の発見にも繋がりますが、残った授業動画を他の先生方と互いに共有してみるのもお奨めです。

❏ 自撮りした授業動画には、様々な活用場面

ご自身の授業を動画に撮っておくと、様々な使い道があります。撮影機材の準備などの面倒はあれど、手間に相応の「実り」は期待できます。

  1. 新たな工夫を重ねているときに、その進み具合/改善効果を確かめ、次のステップに進むための課題を見つける。(cf. 前掲記事
  2. 生徒の成績や授業評価の結果が伸びたとき、そこでの工夫や取り組みを教科内外に伝え、改善のヒントを提供する。
  3. 複数の先生が共通教材/指導案に基づいて授業を行っているとき、その解釈にズレがないかを点検したり、拡張を図ったりする。

これ以外にも、どのクラスでも着実に知識や理解の形成を図らなければならない項目(単元固有の学習内容)を解説したときの動画は、欠席者等のフォローや、次年度の授業で「予習補助教材」にも転用できます。
必須の(どの生徒にも解かせる)問題の解説も、学習支援パーツとしての動画にしておけば、生徒は必要に応じて視聴ができ、待たせたり、急かせたりすることも減らせます。(cf. 動画をパーツとして利用
毎回の授業で動画を撮るのでは手間が増えるばかりですが、如上の目的に照らして必要性が高いと判断できたときは、カメラを教室に持ち込んでみるのも悪くないような気がします。

❏ 優れた工夫への理解を深めてもらうために

このブログでも度々書いてきたことですが、先生方が重ねてきた工夫が大きな成果を得たなら、ご自身の中に閉じることなく、教科内外に伝えて、より良い学びをより多くの生徒が享受できるようにすべきです。

その際に、実施した授業の指導案などを提示するだけでは十分な情報は伝わらないはず(建築物で言えば平面図だけを見せるようなもの)ですし、細かな説明を書き連ねるのも(書く側、読む側ともに)難儀です。
また、学習活動の配列を示し、先生の行動や発言を言葉で伝えるだけでは、どんな学び(主体は生徒)が実現したのかは伝わりません。
先生がデザインした学びを、具体的に且つ効果的に伝える最善の方法の一つは動画の提供です。もちろん授業を公開して参観してもらえばOKですが、互いの時間割の都合もあり、機会の確保も容易ではないかと。
カメラは授業の開始から終了まで回しっぱなしにしておき、「全体の流れ」も記録した上で、ポイントとなる場面に焦点を当てて視聴してもらえば、伝達の効率も高まるかと思います。

❏ 指導の成果を伝える材料も添えて

大きな効果を挙げた工夫や取り組みも、それを紹介するだけでは、「こんなことをやりました」という報告に過ぎず、「自分の授業にも採り入れてみようかな」という意欲を喚起できるとは限りません。
繰り返しになりますが、優れた実践を伝えるのは「より良い学びをより多くの生徒が享受できるようにする」ためなので、知ってもらうだけでは不十分。取り組みへの理解者と賛同者を増やしてこそです。
その工夫がもたらした効果を、エビデンス(=効果測定の結果)を添えて伝えることで、理解と共感を得るようにすることが大切です。

効果を伝える材料には、生徒が残した答案やリフレクション・ログなどのほか、場合によっては授業評価アンケートの集計結果も使えます。
ただし、授業改善へのアイデアを得て、工夫を重ね、改善が十分な成果を得た後の状態だけを示すのでは、工夫がどんな効果をもたらしたかは伝わりにくいかもしれません。工夫前の状態との比較もしたいところ。
何らかの工夫を行ったということは、解決すべき課題を感じ取った瞬間があったはずです。そのときの状態を伝える材料(答案やログ、評価結果など)も残しておき、ビフォー/アフターの比較に使うと好適です。
その日の授業に限った効果も、「こうした学習活動を挟むことで、生徒の答案はこれだけ進歩した」という示し方もできると思います。

❏ 動画を使った突き合わせで教材や指導案の解釈を拡充

共通教材で(あるいは共通指導案まで踏み込んで)授業を行っている場合も、教材や指導案の解釈に担当者間で違いが生じます。
目の前にある教材や指導案が同じでも、その解釈は、それぞれの先生の学力観や指導観、あるいは備えている指導の手札(技術群)に照らして行われるため、解釈の結果=実際の授業は違ったものになり得ます。
先生方それぞれの解釈に沿って最善と思える授業を行い、その成果(生徒の成績や学習行動の変化)を比べて、より良いものを選びだし、それを土台に、さらなるブラッシュアップを図るのが、「組織的で継続的な授業改善」ですが、如上の解釈のズレが残ったままでは、改善への協働も進みが悪くなります。
書面の共有や言葉のやり取りだけでは、解釈のズレは容易に埋まりません。実際の教室の光景、とりわけ先生の指示や働き掛けに対しての「生徒のレスポンス」などを目にしてもらう必要があろうかと思います。
自分の持つ手札だけでは、引き出せていなかった生徒のレスポンス(学びへの取り組み)を目にする中には「なるほど、こうやれば良いのか、こんなアプローチもあったか」という気づきもあるはず。その積み重ねは、教材や指導案の解釈の擦り合わせと拡充に欠かせないものです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一