質問や相談が上手にできない生徒

学校生活を送る中で生徒は様々な悩みや問題を抱えます。生活、学習、進路の各領域で成長を遂げようとする中、自分の中に蓄えてきた知識や経験だけでは判断がつかないことや解決できない問題に遭遇します。
しかしながら、そうした悩みや問題を抱えたときに適切な相談ができていない生徒もいます。周囲に信頼して相談できる人がいても、自分が抱えている悩みや相談の正体を捉えきれなかったり言語化できなかったりしたら、何をどう相談して良いかすらわからないはずです。

❏ 抱えている悩みや問題を言語化することの効能

悩みを抱えているというのは、「困った」「どうにかして欲しい」と追い込まれた状態でしょう。問題を外から捉える(眺める)ところに視点を移せば、見え方も違ってきます。
そのための方法のひとつは、抱えている悩みや問題を「文字」に書き出し、目で見えるところにおいてみること。紙の上の文字になっただけでも、問題は自分から切り離され、客体化(外在化)が進みます。その分だけ、問題の正体も冷静に捉えられるようになるものです。
経験がないと「問題の正体が掴めない限り、言語化もできないのでは」と思ってしまいがちですが、実際にはその逆で、書き出して外に置いてみる行為そのものが、問題の正体を徐々に浮き彫りにしていきます。
頭の中が整理できない(悩みを抱えた、追い込まれた)ときこそ、頭の中にあるものを文字にして外に置いてみましょう。断片的にしか言葉にならなくても、付箋に書き出してみれば、整理も進んでくるはずです。
まずは日々の生活や学習、進路選択などの中での疑問などをきちんと言語化させることを求めたいところ。その中で、「言葉にすることを通じた問題を正しく捉える方法と習慣」の獲得を図らせることが肝要です。

❏ 様々な場でリフレクション・ログを起こす中で練習

日々の授業や生活、進路行事、課外活動など、様々な場面でポートフォリオに残すリフレクション・ログの起草は、進捗を捉えながら、改善課題(問題)を捉えるための言語化の練習にうってつけ。経験の中でその効能を知れば、振り返りと言語化へのモチベーションも高まります。

最初は通り一遍の内省しかできないかもしれませんが、文字にしたことを掘り下げる「先生からの問い掛け/フィードバック」に答えることを繰り返す中で、生徒はより深い内省ができるようになるはずです。
こうした指導を行うにも、生徒自身が「頭の中にあることを文字にして見えるところに置く」ことが大前提。言語化して、外に置いてくれないことには、先生方に限らず、他者はそれを捉えようがありません。
また、頭の中を覗き込むには「対話」がベストですが、対面の時間がいつも確保できるとは限りません。一方、ログに起こしておけば、互いのタイミングで、(時間をずらした)対話を積み重ねられますし、記録が蓄積されることで、解析や指導にAIを活用するのも容易になります。
内省を深めさせ、状況を客観視させるような「問い」を返すことに注力しましょう。「答えを示すこと」に指導者側の意識が傾くと、生徒が自らの悩みや問題に向き合う力を獲得する機会を奪いかねません。

❏ 相談することへの抵抗や躊躇を覚えていたとしたら…

内省を通じて、生徒自身が悩みや問題に向き合い、正しく捉えることも大事ですが、相談することそのものに抵抗や躊躇がある生徒もいます。
問題がもやもやしてわからないときにこそ、自分が感じていることを精一杯の言葉にして相談者にぶつけ、対話を重ねることでその正体を知ることができるもの。相談を躊躇うのでは手詰まりに向かうだけです。
相談の場を通して悩みが解決した経験が乏しい生徒は、対話の中で問題の正体を探るという発想も思い浮かびにくいのではないでしょうか。
先生方との面談を幾度も経験していても、先生が用意した調査項目について「尋問」を受けるようなことばかり、あるいは一方的に答えを示されるばかりでは、「言葉にすることから始まる対話の中に気づきが生まれる」ということにすら、想像が及ばないこともあろうかと思います。
判断というのは、様々な考え方に触れる中で、どこに軸足を置くかを決めることで行います。自分の頭の中だけで堂々巡りしていては、多様な価値に触れる機会も持たぬまま、正しい判断から遠ざかるばかりです。
テストを受けていて、選択肢を全部読まないうちに正解を見つけたような気になるような「愚」は生徒に犯させたくないものです。
できる限りのことを調べ上げ、自分の中で内省を深めても、どこかに見落としや気づき損ねがあるもの。信頼できる相手に相談をするのは足りない気づきを補うことであり、より良い判断・選択には欠かせません。

❏ 信頼できる相談者をきちんと選ばせる

相談は誰にしても良いというものではありません。友達同士では相談に応えるための知識も経験値も足りないでしょうし、先輩に訊いたところで、個人の経験則に過ぎないものをすべてのように語られかねません。
身近な人に悩みを知られたくないからと、ネットのお悩み相談サイトを利用したりする生徒もいますが、信ぴょう性の担保もない、無責任な助言(妄言?)が、要らぬ問題を膨らませる危険も少なくありません。
悩みや問題を相談するときに、信頼できる相手をきちんと選ばせる必要がありますが、真っ先に思い浮かべて欲しいのは学校の先生です。

先生方は、学習や進路について十分な専門知識を携えているというだけでなく、多くの生徒を見て来た中で成功例と失敗例を「相対化」できているという、生徒の周囲にいる他の方々にはない強みをお持ちです。
生徒が悩みや問題を抱えたときに、どれだけ親身に耳を傾け、真剣に対話に臨むことが「先生が最善の相談者」と認識してもらうための必須の要件だと思います。(cf. 生徒と信頼関係を構築する
教職に就かれて間もないなど、生徒の悩みを相対化するだけの事例に触れていなかったとしたら、前もって生徒の悩みを聞いて(=ポートフォリオにしっかり目を通す、事前アンケートを実施するなど)おき、学年団の先生方や進路/教科の先生方に考え方を尋ねておきましょう。
相談者としてのスキルは、生徒だけでなく、指導者である先生方にとっても、日々の努力で磨き続けていく必要があるものだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一