自由研究/課題研究は狙い通りの成果を得たか?

夏休みが始まって間もないのに「何、このタイトル?」と思われたかもしれませんが、タイトルの問いは、先生方がお盆過ぎに思い浮かべたのでは遅すぎかも。与えた課題の効果を測定するには準備も必要。当然ながら時間もかかるので、今のうちにスタートした方が良さそうです。
夏休み中に取り組ませるタスク(宿題)は既に提示しているはず。履行にかかる時間を生徒に投じさせる以上、所期の成果が得られたかどうかは、タスクを与えた側で責任を持って効果を測定すべきだと思います。
成果も検証しないまま、同じ課題を慣習的に与えていては、効果のわからないものに投資を強いていることになります。逆に効果が出ているなら、それをエビデンスで示し、取り組みへの熱を高めるべきです。効果測定は、理解者と賛同者を増やすために行うものです。

❏ 長期休みに取り組む自由(課題)研究の意義は?

子どもの頃(昭和です)を思い浮かべると、夏休みの宿題にはたいてい自由研究が含まれていましたが、「やりたい生徒が自由な発想と方法で研究っぽいことを経験する機会」だったように思います。
自分の関心に基づいて取り組むことや、観察・実験・調査・考察の成果をまとめることは今も昔も同じですが、「総合的な探究の時間」が導入されたことで、育てたい資質・能力が意識され、テーマ設定から始まる一連の「探究プロセス」が重視されるところなどに違いがあります。
探究活動の年間(あるいは複数年を跨ぐ)指導計画の中での位置づけとして、探究テーマの具体化に向けた調べ学習、先行研究の文献調査などのタスクが「自由研究」の代替となるケースも増えていると思います。
最終的な成果(論文や口頭発表など)を目指す以上、プロセスの各フェイズでの積み上げ(成果)が必要です。そのため1学期のうちに事前指導が行われ、2学期には中間発表での「振り返り」も待っているはず。
探究学習プログラム全体の流れ(構成)の中に置いたときの「夏休み中に、自らの関心に沿って取り組むタスク」の意義を生徒がどこまで理解していたか、それに沿った行動が取れていたかは、指導者として観察の目を向けなければならないところです。
年間指導計画の中での位置づけを十分に考慮し、どんな観点で生徒の取り組みとその成果を評価するか、しっかりと考えておきましょう。

❏ 夏の「成果」を観察して、1学期の指導を振り返る

学校をお訪ねして自由研究の成果展示を拝見すると、しっかりテーマを設定してきちんと調べ、考えた痕跡が見えるものも結構な割合で見かけます。ご指導に当たる先生方の努力と工夫の賜物と拝察いたします。
その一方で、材料やストーリーが予め用意されたものを手順に従って完成・再現しただけ?としか思えないもの、あるいは、ただ集めただけ/記録しただけで考察の痕跡が一つも見て取れないものも少なからず…。
もちろん、様々な現象を実際に目で見て/経験して、それを記録することだけでも貴重な体験ですが、決められた手順/既にわかっている結果を「再現」して形を整えたりするだけでは「研究」にはならず、そこで身につくものも限られたものになるのではないでしょうか。
自由研究や課題研究を課しているのなら、生徒に何を求め、どんな成長を期待しているのか、そのためには事前に何を学ばせ、どんなことを出来るようにさせておくべきか、きちんと考える必要があったはずです。
夏休み中の生徒の活動の成果は、そこに至るまでの先生方の指導の効果を表すものです。生徒が頑張ったかどうか以上に、指導に当たる側の計画と実行のスキルが十分だったかに意識を向けるべきです。そこでの気づきを活かしてこそ、より良い指導が実現に向かいます。

❏ 積み上げてきた体験を学びに再構成する機会として

これは夏休みに取り組ませる自由(課題)研究に限りませんが、生徒が小学校などで体験してきた(学んだ)ことをしっかりと踏まえて、その先に歩を進めさせないと、より遠くまで到達することはできません。
教室と違う環境で知的な刺激を受ける経験をさせれば十分、という考えも昔はあったかと思いますが、カリキュラムが「窮屈」になった今、その程度の「あいまい」な意図で、忙しい生徒にタスクを課すのは不合理でしょう。提出物を点検しなければならない先生だって大変です。
小学校で生徒たちが行った横断的・体験的な活動(生徒に訊いてみるのが一番早い)を、ある程度は知った上で、各教科の学びの中で習得しつつある探究のスキルを活用できたら、効果の最大化が期待できるはず。
現象を観察して、その背後にある仕組みを考えて仮説を起こし、それを実証する方法を考えて実験してみる。こうしたプロセスを各教科の教室での学習に加え、夏の活動でも体験すれば、より確かな学びに再構成され、「探究スキル」の獲得も進んでいくのではないでしょうか。
夏休みに取り組ませる自由(課題)研究は、単発の宿題ではないのは明らか。これまでの経験を統合し、再構成する機会と考えましょう。たとえ、調べ学習、文献調査といった「読む活動」がメインでも、生徒がこれまでに蓄積してきた体験と知識がより大きな気づきを作ります。
生徒一人ひとりの「夏の成果」を評価するときには、彼らが小学校から積み上げてきた体験や学びが統合されたかどうか(=夏の活動にどう生かされたか)にも、しっかりと目を向ける必要があります。

❏ 夏休み明けには、「研究」の振り返りと仕上げ直し

夏休みが終わり、生徒が自由研究/課題研究の成果を提出した後の指導も大切です。当然ながら、先生が評価/採点して、成果品を並べて展示すればOKということではありません。

先生が評価するだけでは、「より良いものにするのに、この後どうすれば良いか/何をしておくべきだったのか」を生徒が見出せるとは限りません。展示に並ぶ他の生徒の成果物に触れた気づきを、言語化させて、より深いものにしなければ、通り一遍の学びで終わってしまいます。
展示されている各生徒の展示物を、生徒の目で評価させながら、良さの所在とその理由を言語化させる活動の場はしっかり作りたいものです。その時に用いるワークシートにも、単にABCDなどの段階評価をつけさせるだけでなく、評価の理由を言葉にさせるべきだと思います。

他の生徒の成果に触れることで得た刺激(気づきや学び)を携えて、自分の取り組みを振り返るとともに、夏の終わりの時点での「成果物」にもう一度手を入れさせていきたいところ。
せっかくの気づきもそのまま放置しては、時間とともに消失していきますが、「成果物の仕上げ直し」というタスクを通して、あいまいだったところを消し込み、ブラッシュアップに具体的に手を動かせば、学びはより深く確かなものとして、生徒の中に根付くはずです。
そんな時間はないとお考えになるかもしれませんが、既に夏休みの貴重な時間を投じさせた以上、このフェイズの指導を疎かにして投資の多くを無駄にしてしまうことこそ、避けるべきところではないでしょうか。
実際に時間が取れない場合でも、成果展示を見て回った後で、自分の取り組みや成果に対する振り返りだけはしっかり行わせ、リフレクションログに残させるべきだと思います。



そもそもですが、夏休みの自由研究/課題研究は、「日々の授業の中で見いだした興味を掘り下げる場」として位置付けるのが好適。新たに課す宿題という「足し算」的な扱いはなじまないと思います。
先生方が普段から十分に「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計を意識していれば、日々の忙しさから解放された長期休みにやることは、生徒がそれぞれ見つけているはず。生徒が自ら「やること」そのものを選び、取り組むのは、最も望ましい形ではないでしょうか。
データを集めて解析してみるにも相応の時間が必要ですが、夏休みはそのチャンス。探究活動やPBLを通して涵養すべき統計スキルも実際に使ってみる機会になれば、生徒のもつスキルはより高次に昇華します。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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探究活動、課題研究Excerpt: 1 横断的・体験的な調べ学習の先にある探究活動1.1 高校生にとっての探究活動 1.2 PPDACサイクルを用いた課題研究(その1) 1.3 PPDACサイクルを用いた課題研究(その2) 1.4 『TOK(知の理論)を解読する』 を読んで 1.5 中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」 2 探究型学習がつなぐ各教科の学び(合教科・科目型学力)2.1 探究を軸に教科の学びをつなぐ 2.2 教科固有の知識・技能を学ぶ中で 2.3 総合的な探究の時間 2.4 学習指導・...
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