記事まとめ(大学編~より良い学びの実現へ)

中高に限らず、大学の授業でも「何をどのように教えるか」に加えて、「学生の学びをどのように支えるか」が問われています。授業評価アンケートでも、昔からの「わかりやすさ」や「面白さ、役立つ度合い」に加えて、学生側での学習活動に焦点を当てる項目も織り込まれます。
例えば、「学んだことをもとに課題の解決法を考える機会」「周囲とのやり取りで得る気づき」がどのくらいあるかを尋ねる項目や「自分なりの目的をもって学びに参加している」「科目の学び方が身についた」といった中高の授業評価で、目的変数たる「学びの成果」への大きな寄与が観測される事柄は、大学などでも説明変数として不可欠です。
これらの評価項目のデータをどう見るべきかは、中学や高校での解析から得た知見が参考になるはずです。お時間の許すときに、「授業評価の結果から(記事まとめ)」にリストアップした記事もご高覧ください。
一方で、大学には固有の事情もあり、それらを考慮した分析と対策も必要です。以下は、これまでに大学の授業評価アンケートの解析をする中で気づいたことを少し掘り下げて、記事にまとめたものです。より良い授業の実現に、少しでもお役に立つ部分があれば、幸甚に存じます。

1. 授業評価の結果をより良い学びに活かす~大学編

授業評価アンケートは、学生の学びの質を向上させるための重要な手段の一つですが、アンケートが実施されても、それが実際の授業改善に十分活かされていないケースが多く見られます。授業評価の目的は、単なる数値の比較ではなく、教育の質向上に繋げること。本記事では、評価結果が活用されにくい要因を整理し、授業改善のための大学側のサポートのあり方や、前回の評価結果を踏まえた改善行動の効果測定の重要性についても考えます。

2. 大人数授業での質問対応の工夫[大学編]

大学の授業では、履修者数が多いこともしばしば。その中で、学生の疑問や「わからないこと」にどう向き合うかは、教える側にとって悩ましいテーマです。大人数でも学生の質問をうまく拾い上げ、クラス全体の学びに活かしていく工夫について考えます。質問フォームの活用や、学生どうしのシェア、TAの関わり方など、少しの手立てが状況を大きく変えることもあります。「質問という活動を通じて学生が成長していける学ばせ方」を実現しましょう。

3. 到達目標は適正な水準にあるか~大学編(前編後編)

​大学生があまり勉強しない――批判的な文脈でよく耳にする話題です。欧米の学生と比べても、学習時間が極端に短いと…。でも、データを見ていると学生ばかりを責めるわけにはいかないようです。問題なのは「授業時間以外、ほとんど勉強していない」という学生でも「授業の目標が達成できた」と回答している授業です。クロス集計などの手法を併用して、到達目標の水準そのものが適正であるかどうかを調べた上で、評価の結果を見ましょう。

4. 学修時間を延ばすには(大学編)(全4編)

授業準備や、事後学習に投じる時間(所謂「授業外学習時間」)の十分な確保は、大学でも長らく課題です。関心が高まったのは、平成24年に中央教育審議会が答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」を出した頃。以来10年余りが経過しましたが、大学生の学修時間はあまり伸びていません。授業と自習の境界が曖昧になったコロナ禍の遠隔授業中は時間が伸びましたが、その後は、多くのケースで元の水準に戻っています。

5. シラバスを熟読・活用させることの効果

大学での授業評価アンケートの集計結果を分析したところ、「シラバスを熟読している学生ほど、科目の到達目標を達成できる見込みが高まると同時に、学習したことへの興味が膨らみ、発展的な内容を学ぶことへの意欲が向上する」という傾向がありました。高校でのシラバスは、”講座選びのカタログ”としての大学シラバスとは性格が異なるため、同じことがそのまま起きるとは限りませんが、きちんと読ませれば、それに見合う効果が期待できそうです。

■関連記事: 授業改善行動の実効性を高めるために(全5編)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一