新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図ろうとするとき、学ぶ過程を「インプット」と「インテイク」に分けてみると、様々な着想が得られたり、見落としていたものに気づきやすくなったりします。
ともに知識や情報を外から内に入れることに変わりありませんが、専ら外からの働きかけで行われる「入力」と、不明を見出した/興味を持ったときに、自ら求め、工夫して行う「取り込み」とは別ものです。
2019/03/22 公開の記事をアップデートしました。
❏ インプットとインテイクの違い(ここでの定義)
インプットとインテイクの区別は、様々な分野や領域においてそれぞれの定義に基づいて行われていますが、ここ(本稿)では仮に、
- 他者の手により既に構成されている知識/集められた情報を与えて、理解・記憶させることをインプット
- 課題解決の必要や興味などを起点に、自ら情報を集めて、知に編み、理解しようとすることをインテイク
と呼ぶことにしておきたいと思います。例えば、先生の話を聞いたり、板書を写したりしているだけなら「インプット」ということです。
単語集の暗記でも、「明日は小テストだ」という外圧が働きかけるだけの丸暗記ならインプットの域を出ないのではないでしょうか。
他方、先生の話や教科書に書かれていることに何かの疑問を見出して、それを解消したいとの欲求から自分で調べたり、質問したりし始めたなら、そこで行われているのは紛れもなく「インテイク」です。
新しい学力観の下では「(先生方が)教え込む」から「(生徒自身に)学ばせる」への転換が進みましたが、インプットよりもインテイクの方が学びに占める割合が大きくなったと言い換えることができそうです。
一つの行動にも「インプットの要素」と「インテイクの要素」が混在し得ます。どちらかにきれいに分類されるというより、連続的な尺度の中での位置取りという捉え方のほうが妥当だと思います。
例えば、質問されて、覚えていたはずのことが思い出せずに、教科書やノートをめくって答えの所在を探しているのは、再インプットであると同時に、初歩的ながらもインテイクの要素を含む行動と言えそうです。
❏ インプットとインテイクの境界を越えさせる働きかけ
教える側がお膳立てを整え、生徒は覚えるだけで良いというのでは、インテイクの要素はゼロだと思います。“正解を言って欲しい”と言う生徒の要求には安易に応えるわけには行きません。
こちらから問いを投げかけたり、生徒自身に問いを立てさせたりすることは、インプットで立ち止まらせず、インテイクの要素を増やしていく上で最も効果的な方法の一つです。
問われてこそ、不明の所在に気づけます。わかっていない/知らないでいることに気づけないことには、調べたり解き明かしたりしようとする欲求は生まれません。(cf. 隠されているものは覗きたくなる)
正解を安易に教えてしまうのではなく、解くべき問いを与えて、解き方から考えさせる/話し合って見つけさせる場面を作ることが大切です。
解決しなければならない課題を認識することで、不明解消への動機、すなわち「学ぶことへの自分の理由」が生まれ、それがインプットの域を飛び出し、生徒をインテイクに向かわせるカギになるということです。
❏ インプットだけで構成される学びが抱える限界
昭和や平成の前半までなら、「先生が丁寧に教えてくれたこと」(教師によるインプット)を、きちんと覚え込み、スピーディ且つ正確に再現できれば十分だったかもしれません。
しかしながら、世の中の知識量が爆発的に増え、解決すべき問題は複雑化していく中、生徒たちがこれから先を生きていくのに必要なことをすべて揃えて見せて(教えて)あげることは不可能です。
生徒自身が、目の前や周囲に転がっている「解消されずに残っている不明/未解決のままの課題」の所在に気づき、必要な情報を自ら集め、解決のための方策を考案する力を身につけていくことが必要です。
そのためには、インプットに偏ることなく、生徒一人ひとりを主体とする「インテイクの比率を高めた学び」の積み上げが求められます。
生徒が自発的に学ぼうとしていたとしても、教科書や資料を、そこに書かれているものに疑問を持ったり問いを立てたりすることなく、順番に読んで理解するだけでは、インテイクの要素が十分とは言えません。
単元を行き来しながら、必要な情報を拾い上げさせる、単元融合型の課題も必要でしょうし、教科書に書かれていることにも「なんでそう言えるの?」と問い掛けてあげることも大事だと思います。
❏ インプット、インテイク、そしてアウトプット
知識と理解は考えるための道具であり、適切に揃えさせなければいけません。備えている知識の量が違えば、立てられる問いも異なります。
多くを知り、広く物事を捉えられるようになるほど、より良い問い(=問題の本質に正しく切り込むための入り口)が立つようになります。
インプットとインテイクを効果的に組み合わせて、生きて働く知識・理解を着実に形成していくことの大切さは、今の時代も変わりません。
インプットに不備がなかったか、インテイクが十分に行われたかは、それらの成果(獲得した知識・理解)を用いることを求める課題への答えという形で「アウトプット」させてはじめて確かめられます。
導入フェイズで示した問いに、学び始める前に仮の答えを作らせれば、本時の学習内容に対して「学ぶことへの自分の理由」が作られますし、学び終えてじっくり課題に取り組ませ、答えを仕上げさせれば、答えの変化の中に、生徒一人ひとりの学びの成果が表れるはずです。
インプット、インテイク、アウトプットの3つがそれぞれ授業内外の学習をどのくらいの割合で構成しているか、ときどき振り返ってみるのは意味のあることだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一