授業評価アンケートの標準的な質問設計の中に、「習ったことをもとに考える機会が、課題などで整っている」かを尋ねる項目(Ⅴ活用機会)を設けてあります。ちなみに、Ⅶ学習効果への寄与度は「最大」です。
この質問の焦点は、言うまでもなく「習ったことをもとに考える機会」の部分。「課題などで」は実現の手段の例示に過ぎず、要は「獲得させた知識・理解に生きて働く場が与えられているか」が重要です。
ある日の授業を終えたとき、あるいは単元を学び終えたときに、そこで学んだことを土台に思考を重ねて解決すべき課題、答えを導くべき問いをきちんと用意すれば、アンケートの答えはYESに集まります。
別稿の通り、導入フェイズで生徒に学習目標を正しく捉えさせるにも、学び終えて学習目標が達成されたかを検証するにも、ターゲットとなる問いは欠かせません。また、学びを終えてからも、改めて課題に向き合い、自分の答えを仕上る中でこそ学びは深く確かなものになります。
2019/09/02 公開の記事をアップデートしました。
❏ 習ったことを使ってみる機会の意味するところ
冒頭にも書いた通り、「習ったこと」とは「授業を受ける中で獲得した知識や理解」を指します。当然ながら、先生の説明を聞くだけでなく、自力で読んだり、話し合ったりする中で得たものも含まれます。
単元固有の知識や理解、解内在型の問題(正解が決まっており、それを導く過程も既に明らかにされている問い)に正解を得るための手順[解法]のみならず、ものごとを構造化して理解するためのフレームといったものも含め、生徒が学ぶものは広範に及びます。
探究的な学び(各教科でのPBLや総合的な探究の時間での諸活動)では、その進め方や各フェイズで活用すべき手段なども学んでいるはずです。(cf. 総合学習/探究活動における「知識の活用」)
これらを「生徒が自分の手と頭で使ってみる機会」をきちんと整えていないと、せっかく学んだことも生きて働くことのないまま記憶の奥底に眠らされることになり、使える道具に昇華できなくなってしまいます。
高大接続改革以降の入試で重視されている「読んで理解したことをもとに思考し、その結果に第三者の理解と共感が得られるだけの表現を与える力」の養成にも「習ったことを使ってみる機会」は不可欠です。
実際、近年の入試を見ると、「演習などを通じて、解法を知っている問題を増やして受験会場に臨む」という戦略だけでは通用せず、「その場でどこまで理解して、考えることができるか」が勝負を分けそうです。
このあたりについては、どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる、学力観の変化は良問と悪問の分け方を変えるもご参照ください。
❏ 宿題を課すのは前提ではなく授業デザイン上の必然
求められる学力観が変わってくる以上、「丁寧に教えて理解させ、しっかり覚えさせる」というところに立ち止まらず、冒頭の質問文が表していることを満たした授業を実現し、新しい学力観が求める力を獲得する鍛錬の場を作ることが授業をデザインする側の重要な仕事になります。
習ったことをそのまま覚え、答案の上に再現するだけでは「使う」ということにはなりません。獲得した知識や理解に新しい組み合わせを与えることが「使う」ということであり、そのキュー(きっかけ)となるのが先生が提示した/生徒自身が立てた問いです。
適切な課題や問いが用意され、生徒が自力/協働でそれを解決したり、答えを導ければそれでOK。授業のたびに宿題を課すことは必須要件ではありません。授業内で完結できるなら、それがベストでしょう。
しかしながら、授業の中で先生の説明を聞いたり、自分であれこれ調べたり、友達同士で話し合ったりして得た知識や気づきを、より深めて確かな学びにするには、生徒が個々に取り組む課題が必要です。
また、授業内での対話や協働にも、相応の準備を経てから臨まないと、ただ話をしている(あるいは聞いている)だけにもなりかねません。
仕上げのフェイズでは、課題に立ち戻り答えを練り直す中で、理解が足りないところに気づけば、さらに調べてみるべきですし、自分の答えがしっくりいかなければ考えたり話し合ったりする必要があるはずです。
見落としや誤解を孕んだままになってはいけません。拙稿、答えを仕上げる中で学びは深まるで書いた通り、課題に立ち戻ってじっくり答えを仕上げる中で学びは深まり、確かなものになります。
また、再記銘の機会を作らずに放置してはせっかくの学びも記憶から消えたり、想起できない状態になってしまいます。
そうした場面をきちんと作らせるには、家に持ち帰って/教室を離れて自習室で、学んだことと向き合う時間が必要であり、結果的に「宿題」という形になるとお考えいただくのが好適ではないでしょうか。
■ご参考記事:
- 課題の仕上げは個人のタスクに(前編)、(後編)
- 協働学習を”集団としての調和”で終わらせない
- “アクティブ・ラーニング”で学習時間が減る?
- 学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められる
- 次回の予習ができる状態を作って授業を終える
- 単元ごとに設定するターゲット設問
- 単元を跨いで作る、習ったことを使ってみる機会
問いや課題は、教科書や問題集の中にとどまらず、現実社会にも存在します。生徒の手には余るかもしれませんが、よりリアリティをもった問題として生徒の興味や関心を刺激することは大いにあり得そうです。
教科書で学んだことをベースに、新聞記事などを検索し、より深く・広く知るための調べ学習をタスクとするのも面白そうです。
次回の授業までに、全員に課すのでは忙しすぎる/負担が大き過ぎる可能性もありますので、発表の順番を決めておき、一定の準備期間を与えるぐらいがちょうどよいかも。保健、家庭などは、教科書での学びと現実世界での諸問題がリンクしやすく探究活動の入り口にも好適です。
ちなみに、テストをペースメーカーに進めていく副教材単独学習という形の「宿題」では、習ったことを使うことにならず、冒頭の質問文が求めていることを満たしていないことは言うまでもありません。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一