学びへの目的意識~データと考察(その2)

前稿(その1)でご紹介したデータを国社数理英の教科に分けて学年毎の集計値分布の推移を調べてみると、以下のような結果になりました。なお、グラフ中のブルーの破線は「教科別中央値」です。

(クリックで拡大)


予想通り、どの教科でも例外なく、「中間学年」は教科別中央値を下回っており、中弛みが観察されますが、その下がり具合や、最終学年での戻り方には、教科ごとの特徴のようなものも見て取れる気がします。
また、どの箱も一定の長さ(=授業間の差)があり、上下のひげを含めれば相当な違いがあります。Ⅶ学習効果への影響も大きい項目であり、もし、箱の下端に届かない位置にいるようなら巻き返しが必要です。

❏ 目的意識の変化には各教科の特性が現れる

上図のデータから、教科×学年ごとの平均を算出し、一覧にしてみると下表の結果になりました。教科ごとの違いが改めて見て取れます。


例えば、国語。他の4教科よりも箱の位置は低く、教科別中央値は最も高い数学を1ポイント以上も下回ります。何をどう学ぶのか捉えにくい教科とのイメージを持つ生徒も多い教科ですが、データも一致します。
一方、中央値の学年変化が最も大きいのは数学(次は理科)です。学習内容の高度化で、理解できないところが増えるにつれて、科目学習への自己効力感が薄れ、意欲を失うことの多いためと考えられそうです。
外国語/英語は、外部検定への挑戦機会も多い上、大半の生徒は受験科目としても必要であり、もっと箱の位置が高くても良さそうですが、箱の下端が+3以上に達しているのは中1だけです。客観的な必要性と、主観としての「学ぶことへの自分の理由」は別物と考えられそうです。

❏ グラフに照らして担当授業の「相対的な位置」を知る

アンケートをご利用の学校にお勤めなら、集計結果(個人票)の裏面にあるクラス別の集計値を、上図に照らし合わせてみると、ご自身の授業の「教科×学年内における相対的な位置」を知ることができます。

ご利用のない学校でも、同じ質問と選択肢でアンケートを取ってみて、ご自身が担当するクラスの位置も把握してみては如何でしょうか。


もし、ご自身が担当する授業が、相対的に低い評価(例えば、各箱の下端に届かないなど)なら、改善のために有効な手立てを講じましょう。
前稿でも申し上げましたが、目的意識は学びの成果(学習効果)を押し上げる強力な要因の一つですので、改善の遅れは放置できません。


逆に、高い目的意識(+学習方策)を備えているようなら、負荷の不足がないか注意しましょう。難度を抑えて「できた気」にさせては、成長にブレーキがかかります。cf. 目的意識を高めると負荷耐性が上昇する

❏ 授業に臨む目的意識を高めるための様々なアプローチ

授業に臨むときの課題/目的意識は、「勉強の必要性」や「科目の大切さ」「学習内容の有用性」などを先生が熱く語って聞かせてみたところで、期待通りには高まっていきません。それだけで上手くいくくらいなら、どなたも苦労をしないはずです。
一つの手立てだけでは十分な改善効果は得られないかもしれませんが、複合的なアプローチを組み合わせて、粘り強く指導に当たりましょう。

まずは、新しい内容/単元を学ばせようとするたびに、学ぶことへの自分の理由を持たせていくことが肝要かと思います。
その単元を学んだ生徒に答えを導いてもらいたい問いを提示し、その時点(=学ぶ前)で導ける仮の答えを作らせる中で、解消すべき不明や掘り下げたい興味の所在に気づかせていきたいところです。
当然ながら、生徒にとっての自分事(身近な問題、社会の未来)などに関わる問いが立てられれば、学ぶ意欲はより強く刺激できるはず。進路希望を叶えるのに解けなければならない問い(生徒の志望大学群の出題例から引いてきた問題など)をぶつけてみるのも時に効果的です。

こうした仕掛けを講じておけば、授業/単元の学びを終えたとき、生徒は「本時/単元で学んだことの先にあるもの」を言語化できるレベルで認識できるようになっていくはず。より高次な「主体的な学び」に近づけるのではないでしょうか。
実際にリフレクション・ログに起こさせれば、認識を強化できますし、好適な記述をクラスでシェアすれば、周囲にも波及が期待できます。

また、学びを振り返る中で、自分の進歩(学びを通じた成長)をたな卸しするとともに、より良いパフォーマンスを得るのに何が必要かを考えさせ、それを次の機会での「自分の目標」にさせたいところ。
指導と評価の一体化でよく言われる「進捗と改善課題を捉えた学び」の実現が、「粘り強く取り組む姿勢」と「自らの学びを調整しようとする姿勢」を育みます。

ちなみに、学びの成果をたな卸しするには、如上の仮の答えを記録に残させ、学び終えて仕上げた答えと見比べさせるのが簡単で且つ効果的な方法の一つです。cf. 最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果
これをやろうとすれば、導入フェイズでの学びの意識づけも同時にできる上、答えを仕上げる中で学びは深まる効果もあり、一石三鳥です。
学びの振り返りは、日々の授業以外でも、きちんと取り組ませたいもの。模試や考査の結果を正しく振り返ることは出来ているでしょうか。間違い直しだけでは不十分ですし、反省だけなら誰でもできます。

蛇足ながら、学習以外の場面(生活や進路)でも、的確な振り返りが行動の変容(=生徒の成長)には欠くことができません。お時間の許すとき、「振り返りと行動変容(まとめページ)」も併せてご高覧下さい。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一