どの学校でも作られている年間行事予定表。様々な行事が組み込まれ、生徒には行事にじっくり向き合える、忙しすぎない学校生活を送らせてあげたいと思っても、そうそう行事の整理・再編は進みません。
すべての行事を3年間/6年間のカレンダーに落とし込むだけでも容易ではなく、分掌や学年、生徒会との調整に当たる先生のご苦労ばかりが目に浮かびます。
どうにか行事を配列できても、それでOKという訳ではありません。年間行事予定が本来の機能を発揮し、それを使った指導に役立てられるかを分けるのは、もう少し深いところにありそうです。
2014/07/24 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 指導計画立案の前に、到達目標の配列を
そもそも、行事の一つひとつはそれ自体が達成すべき固有の目標を持つと同時に、次の行事に向けて「レディネス」を整えるための準備(事前指導)という位置づけも併せ持ちます。
指導計画をまとめようとするときには、行事をカレンダーに配列することで、生活・学習・進路の三領域において段階的に設けた目標を、時系列の中で整合づけるという意識を常に持つことが大切です。
当然ながら、各領域での目標、育てたい生徒像が、指導に当たられる先生方の間で、明確に共有されていることが前提条件です。
建学の精神や校訓、学校の教育目的に立ち返って、生徒に期待する行動や思考とその変容(成長)、獲得を目指す姿勢や資質をきちんと定めておかなければ、個々の行事の目標は設定できず、指導計画を起こすことも、それを年間行事予定に落とし込むこともできません。
教育課程の作り直しなど、大きな見直しをする/したときには「どんな人材を育てようとしているのか」という問いにじっくり向き合い、その答えを校内で共有しておくべきなのは別稿にも書いた通りです。
❏ 到達状態を評価の規準として書き出すところから
目標は検証可能性を備える必要があります。個々の目標を達成したときに観察されるであろう生徒の行動や思考がきちんと言語化されていなければ、達成検証はできず、「目標としての要件」を満たしていないことになります。
如上の行動などを、生徒を主語にしたセンテンスで書き出しておけば、それに照らし「A達成した」「Bもう少し」「Cまだまだ」に「S想定以上」を加えた段階的評価が行え、生徒にも自己点検をさせられます。
SABCの分布やその変化を数値として把握しておけば、集団としての成長の度合いや指導の効果を測定することもできます。
年間行事予定の起草/指導計画の立案とは、
- こうした評価規準をまずはずらっと書き出して、
- ベーシックなものからより高次なものへと順番に並べて
- 3年間/6年間の成長を描き出し、
- それらの実現に必要な指導機会をカレンダーに配置していく
という一連の作業を指すもの、と考えるのはいかがでしょうか。
❏ 教育目的の再解釈、建学の精神の読み直し
個々の指導の目標は、建学の精神や校是、学校の教育目的などのもとで設定されるべきものですが、社会の変化に伴い、学力観も学校への期待も変わってきた以上、建学の精神/教育目的も現代的な読み直しが必要だと思います。
学力の三要素や21世紀型能力を構成している様々な資質や能力の一つひとつに照らし合わせながら、建学の精神や教育目標/教育方針に書かれていることに、より具体的・現代的な定義を与えていく作業です。
不易と流行。軸をブラすことなく、しなやかに変化したいものです。
学校生活を通して育む能力、資質、姿勢を先生方の間で共有するには、繰り返しになりますが、明確な文言(=成否判断が可能なセンテンス)を備えた目標=評価規準の書き出しが必要です。
ルーブリック評価の導入はなぜ必要なのかでも書きましたが、方法を考える前に、目指すべき到達状態をきちんと規定しておきましょう。
❏ 年間行事予定表のフォーマット
年間行事予定表の様式や記述法にはいくつかのパターンがあります。
形態面では、12ヵ月間の暦に全学年の予定を書き込んだもの(A)と、学年ごとにカラムを分けたもの(B)との2種類に分けられます。
正確に数えたわけではありませんが、7:3くらいの割合で(A)の形を採っている学校が多数派という感じでしょうか。
段階的到達目標を時系列の中に配列するという考え方に沿えば(B)の方が好適です。整理もしやすく、補足の記述も加えやすいはずです。
ちなみに、どちらのパターンでも「行事名だけを並べたもの」が大半で各々の目的や実施方法などが添え書きされているものは、むしろレア。どんな行事なのか、これから経験する生徒には想像すらつきません。
❏ 学年ごとにカラムを分けるのが基本
1年間のカレンダーに全学年の行事を書き込むスタイルは、限られた紙面の中に情報を効率よく配置したい、あるいは、校内の行事を月ごとに把握するのに便利という作成側の都合によるものかと思われます。
年間行事予定を見る側/使う側の認識のあり方や、使いやすさという点はあまり考慮されていないように感じます。
入学してくる生徒が、これから過ごす3年間/6年間を見渡すにも、進級した生徒がこれからの1年を考えるにも、全学年の行事が入り組んだカレンダーより、学年でカラムが分けられていたり、1年の次に2年、2年の次に3年と「通し」で配列されていたりする方が良さそうです。
年間行事予定を見て、入学してきた生徒/学校を選ぼうとしてくれている生徒が、「自分がこれから歩むストーリー」を順序を追ってイメージできたら、学校の魅力を伝えるツールにもなり得るのですが…。
❏ 先を見越せば、準備もできる
進路の手引きでも同様ですが、自分がこれから経験していく行事がどんなものか、イメージできることは重要だと思います。
数か月先、半年先に控える選択の機会や乗り越えなければならないハードルを認識させることで、それを念頭に今のうちにやっておくべきこと/身につけておくべきことを考えさせるのも、「年間行事予定を使った指導」を通して目指すべきところのひとつです。
例えば、「夏休みに大学訪問があるから、6月のガイダンスはそのつもりで参加しなければ」という意識を持てば、それに備えた準備もしますし、心構えも作れます。
先を見据えた準備が必要なのは生徒だけではありません。指導に当たる先生方もまた、生徒がこれから臨もうとしている分岐やハードルをきちんと把握しておかないと、それに備えさせるのに必要なこと(指導や観察)を見落としてしまうのではないでしょうか。
日々の多忙に拍車がかかる中、目先のものを一つひとつこなしていくだけという状態になっては、先を読んだ戦略的な思考がお留守になりがちです。年間行事予定は、先生方も(特に着任間もない先生は)しっかり読み込み、行事と行事の関連性を把握しておきたいものです。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一