授業間の差が拡大したときこそ実践共有の好機

授業評価アンケートは先生方が個々に担当される授業について生徒の評価を得るものですが、結果を見るときには、教科(あるいは学年教科)としての集計値にも注目を向けましょう。
別稿でも書いた通り、授業評価アンケートを行う目的のひとつは、校内/教科に存在している優れた実践(授業)の所在を探し出すことです。そこでの工夫や実践を先生方の間で共有していけば、「より良い授業」を「より多くの生徒」が受けることができるようになります。
優良実践の共有は、校内/教科内での授業間の差が大きいときほど、必要性も高く、その効果にも大きなものが期待できます。(もともと差があまり生じていないときは、共有するものも限られがちです。)

❏ 授業別集計値の分布を箱ひげ図で把握し、前回と比較

以下の例(3つ)はいずれも、年に2回の授業評価アンケートを実施した学校の、ある教科におけるⅤ活用機会「習ったことをもとに考える機会が、課題などで整っている」の集計値の分布とその変化です。
どれも、平均値だけを見ると「前回との差はほとんどなし」ということになりますが、箱ひげ図にしてみたことで、それぞれの分布の変化に違いがあることが見て取れるようになります。


ちなみに、回答から得点への換算方法などはこちらをご参照ください。

❏ 分布変化に違いを生んだのは「実践共有」への取り組み

上左図の「例①」では、前回と比べて箱の下端に上昇が見られ、分布の尾も短くなっています。
前回は箱の上端と下端に10ポイントほどの差がありましたが、高い評価を得ていた(=上側のひげに含まれる)授業での実践が共有された結果、改善が遅れていた授業のキャッチアップが進みました。
ただし、箱の上端には動きは見られず、共有された優良実践をベースにさらにブラッシュアップを図るところにはあまり手がつかなかったのかもしれません。次回に向けた「宿題」というところでしょうか。
一方、上中図では、前回と比べて箱の上端は高くなっているのに対し、箱の下端に動きがありません。
好適な指導手法を確立しつつあった先生方が、さらに工夫を重ねて改善成果を得ていながら、その取り組みが共有されることなく、改善が遅れがちだった先生方が「取り残された」形になってしまいました。
上右図は、また少し違ったパターンです。工夫を重ねて改善が進んだ授業と、前回の評価を維持できなかった授業が混在しています。
合理的な改善プランを立てずに、あるいは手応えを確かめないまま、授業の改善を試みると、狙ったのと違うところに行き着いてしまうこともあります。
但し、このような状態になったときこそ、(冒頭でも書いた通り)改善が進んだ授業での実践や工夫を共有するチャンスではないでしょうか。
3つのパターン(いずれも、実際のデータでよく見かける典型的なものです)をお見せしましたが、他に「箱の上端が高まりつつ、それ以上のペースで下端が追い上げる」というのもあり、これこそが理想形です。
改善が遅れた授業のキャッチアップを支えるのも、より良い指導法を協働で考え出していくのも、教科という組織に期待される役割です。

❏ 散布図上のバラツキも工夫の共有で解消を図れる

授業間のバラツキは、各項目の集計値の分布だけでなく、目的変数(Ⅶ学習効果)との相関にも表れます。
下図は、Ⅵ対話協働とⅦ学習効果の相関を調べた散布図(同じ学校、同じ教科の前回と今回)ですが、回帰式の決定係数(R2乗)は、前回より大きな値(0.288→0.532)を示しています。


近似線から大きく外れる授業が減り、授業内に設けた対話や協働が学びの成果に直結している授業が以前より増えたことをデータは示します。
別稿「対話などの学習活動が、学びの成果に直結しない?」で書いた、様々な問題が解消されたことを意味しますが、ここでも先生方が知恵と発想を出し合い、ボトルネックの解消に取り組んだ結果だと思います。
集計結果を少し加工してみれば、Ⅵ対話協働の箱の上端を超え、且つ近似線の上側に位置する授業を特定するのは難しいことではありません。
特定された授業での工夫を教科会などでの実践報告や相互参観などで共有できれば、近似線から下方に離れていた授業が、回帰残差(近似線との距離)を縮める方策にも行き着きやすくなるはずです。
上右図(左図、中図と同じデータ)では、中央値や箱の上端が高くなっており、そうした共有の場を通して、対話や協働といった学習活動そのものの充実を図ることができた授業も少なくないようです。

❏ 実践共有は、ポイントを絞ってできるだけ簡潔に

授業評価アンケートの結果(に限らず、考査や模試の結果、ルーブリックを用いた行動評価等の記録)を用いて所在を特定した「優れた実践」を共有することで、教科/学校全体での授業改善が加速します。
しかしながら、研究授業は言うに及ばず、相互参観や実践報告にも相応の時間と手間がかかります。
焦点を設けずに報告や参観を行っては、コストパフォーマンスの悪い取り組みになり、継続することすら難しくなるのではないでしょうか。
Ⅶ学習効果を目的変数に、その他の項目のスコアを説明変数にした重回帰分析などで、目指すべき授業像に近づくための最優先事項にアタリを付けた上で、そこに焦点を絞った報告・観察・協議にしましょう。
実践を伝えるときは、「指導案や実際に使った教材を添えて、より具体的なイメージを持ってもらう」「授業動画を撮っているなら、それも活用」といた工夫も加えれば、確実性と効率も高まるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一