【授業開きを起点に継続的に行う学習法確立指導】
授業開きや学習オリエンテーションでの指導はその場で完結するものではなく、新しく始まる学びに適合させる一連の取り組みの始まりに過ぎないはずです。指導で伝えたことは、生徒の学び方の改善、ひいては学力の向上という結果に結びついてはじめて意味を持ちます。
如上の場にどれだけ明確なメッセージを用意して臨み、雄弁に伝えたとしても、受け手である生徒の行動に好ましい影響を与えなければ/変化をもたらさなければ、指導に効果はなかったということです。
新学期の授業が始まったら、生徒が好ましい学習スタイルを確立できるまでの間、教室内外での学習行動にいつも以上の観察の目を向ける必要があるはずです。
2015/04/01 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 学習法の確立を早めるために観察と支援と刺激
高校での学びに必要な授業準備(予習)や、授業を終えてからの学びの仕上げ、あるいは授業の中でのふるまいなど、好ましい学び方を生徒がどれだけ早く確実に身につけられるかは、その後の学習成果に大きく影響することは言うまでもありません。
うまく流れに乗れなかった生徒が、焦りを感じたり自信を失ったりして学びに対する意欲や積極的な姿勢を弱めてしまっては一大事です。
授業が始まり、予習→授業→復習の各フェイズからなる学習サイクルを幾度か経験させる中で、各フェイズでの取り組みに戸惑いや不明が生じていないか、注意深く観察するようにしましょう。
予習で課したタスクが上手にこなせない生徒が多いようなら、授業中にそれと同じ作業をさせながら、やり方への習熟を図る必要もあるでしょう。周りの生徒がどうやっているかを知るのも有益です。
授業内での対話に上手く参加できない生徒がいたらフォーメーションを変えてみたり、うまく機能しているグループのやり取りを見学させてみたりといった手もありそうです。
事後学習では、予習と授業で得た理解や気づきをもとに所与の課題を仕上げることが中心になるでしょうが、最初のうちは形を整えるところで止まる生徒もいるはずです。きちんと仕上げることができた生徒の成果物(答案やプレゼン)に触れる機会を整えれば、生徒は課題にどう取り組むべきかを徐々に学んでいけるのではないでしょうか。
■ 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)
❏ 以前からのやり方に固執する生徒への対応
高校に入学した生徒は、それまで9年間の学校生活を送ってきており、その学習履歴の中で自分なりのスタイルを作ってきています。新学年に進級した生徒にもこれまでの学びで作った自分の方法があるはずです。
明らかに間違った方法が染みついてしまっているようなら、いちど壊して作り直させる必要がありますが、それまで勉強で困ることなく上手く行っていた生徒は、自分の方法が間違っているとは考えません。
自身の成功体験に縛られ、新しい学びが求めるものとのずれに気づかず以前からの方法に固執する生徒に、「そうじゃないよ」と伝えたところで「なるほど、そうですね」とはなりにくいはずです。
教える側にできることは、効率的に無駄なくタスクをこなしている同級生や先輩のやり方やそこで仕上げられたものに触れて、より良い方法が存在することを知る機会を作ることではないでしょうか。
もちろん、入学/進級前に様々な工夫を重ねて自分に合った好適な方法を確立している生徒もいます。課題に取り組んだ成果やパフォーマンスを観察・評価して問題がなければ本人のやり方に任せましょう。
上手く行っているときに何を言っても説得力はありませんし、別の方法を押し付けては、「角を矯めてナントカ」です。やり方を否定されたと反発を覚えては、その後の指導で先生の言葉が伝わらなくなります。
❏ 最初の定期考査の結果を踏まえ、学び方の振り返り
授業開きから取り組ませてきた「学び方の確立」がどれだけ成果を得たかは、最初の定期考査の結果が出た段階で確かめるようにしましょう。
考査の結果からは、それぞれの生徒の学びに不十分な箇所、改めるべき部分がある程度までは見えるはずです。
きちんと復習して覚えておけば解けたはずの問題で失点をしていたときと、予習の段階から自分で頭を使うトレーニングが必要な問題で得点できなかったときとでは、学び方の改め方には違いがあります。
最初の定期考査の出題内容を考えるときは、生徒が自らの学びを分析的に捉えられるような工夫をしっかりと盛り込みたいところです。
既習内容の定着を試す問題と、応用力・思考力等を試す問題とで集計を分けて、それぞれを縦軸・横軸においた散布図を答案返却時に提示し、生徒に散布図上での自分の位置を確認させることで、学びの振り返りを支援することも可能です。詳細は下記ご参照ください。
■ 考査問題における得点集計(集計の取り方と活用法)
❏ 生徒と同時に、先生も自分の指導を振り返り
最初の定期考査の結果に照らしてそれまでの行動を振り返るべきは生徒だけではありません。先生方も、授業の進め方や生徒に求めた学び方に改善の余地がなかったかを検証すべきです。
クラスには、授業開きで伝えた/学習の手引きやシラバスに記載した学習方法をきちんと実現できた生徒とできなかった生徒がいるはずです。
前者の比率があまり大きくならなかったとしたら、学習法確立に向けての指導が不十分であったか、指導法が拙かったかのいずれかです。
それまでの行動観察の記録に照らして両者を分けてみたとき、前者と後者で成績等に有意な差が生じていなければ、生徒に求めた取り組み方が妥当なものであったかどうか改めて考えてみるべきだと思います。
一回の考査結果だけでは判定できない部分もありますので、中間考査と期末考査の双方を見て、成績の伸びに差があるかも確認しましょう。
もしかしたら、考査問題そのものが測るべき学力を正しく点数に換算する機能を欠いていたのかもしれません。この辺りは別稿「考査問題の妥当性を評価し、最適化を図る」をご参照ください。
逆に、大きく伸びた生徒と低迷した生徒を分けてみれば、前者に共通する学習行動が見えるかもしれません。次のタームや年度で生徒にどのような学び方/取り組み方を提示するか考える際のヒントになります。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一