満たせるところに期待を集める~良好な関係作りのために

様々なところで「学校と生徒・保護者の関係が変化してきている」と言われ始めたのはずいぶん昔のことです。今もなお、生徒や保護者からの要求は、ますます多岐にわたるようになり、より強いものになってきているようにも感じます。
こうした「膨らみ続ける要求や期待」に学校がどこまでも応えきるのは現実的には不可能。生徒・保護者からの要求とその出処である「学校への期待」の所在を上手くコントロールしないと、真っ当な(=本来学校が応えるべき)期待に応えることすら叶わなくなってしまいます。
できることには限りがあるでしょうが、ニーズと期待の所在を「自校が満たせるところ」に集める手立てを積極的に講じていきましょう。
❏ 学校がどこまで責任を持つか、明確に方針を示す
学校と生徒・保護者に限りませんが、「関係性」とは、互いが相手に期待する役割によって決まるもの。良好な関係を築くカギは、互いが相手に求めるものと、相手から得られるものとが一致することにあります。
学校が生徒・保護者に提供する中で、何よりも優先されるべきは、「学校生活における安全・安心の確保」と、生徒が未来を拓く/生きる力である「学力の形成」の2つであるのに異論はないでしょうが、それ以外の部分では双方が考える「相手への期待の範囲」は曖昧になりがち。
互いの役割をあらかじめ明確にしておくことが、「こじれることのない信頼関係」を築くための前提条件の一つだと思います。
学校がどこからどこまで責任を持って指導に当たり、どの部分は生徒・保護者に役割を果たしてもらうか、校内で十分に議論した上で、内外のステークホルダーに対し明確な「方針」を示していくことが重要です。
ここで言う、ステークホルダーには、生徒・保護者だけでなく、自校の教職員や、将来の生徒になり得る受験生やその指導に当たる人々、さらには教育活動に関わってくださる地域の方々なども含みます。
学校が掲げる教育目標や指導方針に理解と共感を持ってくださる方々で構成されるコミュニティを校内外にしっかり形成しないと、教育目標の達成に協働者として参画してもらうことは叶いません。
❏ 役割分担についての合理的な説明と事前の周知
経済学には「比較優位」という考え方がありますが、学校教育にも当てはまるはずです。
学校がその施設や環境、教職員の専門知識と技術を持って当たった方が効率に優れる(=コストパフォーマンスが高い)ところは、学校がきっちりと責任をもって取り組むべきであるのは言うまでもありません。
しかし、学校がそうした「優位性」を持たないところまで責任の範囲を広げたら、限りある教育リソースはあっという間に枯渇し、本来なら高いパフォーマンスが期待できた「本業」にも手が回らなくなり、結果的に、相手(生徒・保護者)にも不利益を被らせることになります。
学校が担った方が効率に勝るところ/確実な成果が期待できるところは学校がきっちり責任を果たすことを大前提に、他の部分では生徒の自助努力を促したり、家庭の協力を取り付けたりせざるを得ないはずです。
こうした役割分担について、明確な説明も、方針の表明もせずに、曖昧なままにしているケースは思いのほか多く、生徒・保護者からの要求や期待を一層コントロールの難しいものにしているように感じます。
いざ、事が起きたときは、相手の言葉に真摯に耳を傾け、対話を重ねる必要があるのは言うまでもありませんが、明確で合理的な方針を打ち出して校内外に周知を図っておくかどうかで対話の中身も違ってきます。
❏ 期待の所在を収束させるのは学校広報
一方的に「お願い」を繰り返しても、「勝手なことをぬかすな」との反論が出るのは必至ですが、合理的な説明と納得を得るだけのエビデンスを添えれば、方針への理解と共感を得る可能性は確実に高まります。
様々な学校の学校評価アンケートのデータを見ると、「教育目標や指導方針がわかりやすく示されている」と答える生徒・保護者の割合が増えるにつれて、学校生活全体に対する満足度が目に見えて高まっていくほか、個々の指導場面についての評価も跳ね上がります。
学校に対する肯定的な認知(=不満や批判が少ないこと)が高まることは、回答者(生徒・保護者)が期待する役割を学校が不足なく果たしてきたということ。
目指すべきところ(=教育目標)やその実現方法について十分な説明をすることが、期待の所在を収束させ、満たしやすい状況を作ることが、如上のデータからは推測できます。
 ■ 教育目標や指導方針をちゃんと伝える
また、指導方針や教育活動への取り組みだけを伝えても、その成果に対して十分な認識を持ってもらえなければ、理解や共感は得られません。
学校が、何を目指しているか、そのために何をやっているかに加え、どのような成果が得られているか、絶え間なく発信しましょう。
効果測定をきちんと行い、成果を分かりやすく伝えるべくデータに適切なデザインを与えるのが重要であるのは当然です。
成果を伝えるには、生徒がポートフォリオに残したリフレクション・ログも好適な材料の一つです。また、生徒に校内記者になってもらって、生徒目線で学校の取り組みと成果を伝えていくのも効果的です。
 ■ 学校広報の充実に”校内記者”
 ■ 生徒が作る、受験生向けの学校広報誌
 
❏ 指導の場面が近づいたところでもタイムリーな発信を
学校内では、生活・学習・進路の全領域について3ヵ年/6ヵ年を通した確固たる「指導方針」を持つべきですが、生徒・保護者に対してそれらを一度に伝えても、不足なく受け止めてもらえるとは思えません。
ごく基本的なところ(すべての場面に共通するもの)は、「教育目標/教育方針」において、生徒募集の段階からある程度まで周知を図るにしても、個々の場面を想定したものまで最初から一度に伝えようとしては伝わるものも伝わりません。
実際の指導の場面が近づくのを待って、具体的な指導内容とその目的、学校が責任を持って取り組むところと生徒に期待するところなど、的を絞った広報を、学年通信/進路通信などを利用して行いましょう。
また、個々の場面で情報/メッセージを発信するときには、学校全体に通底する「基本的な方針」との整合性が読み取りにくくならないことにも細心の注意が必要です。
個々の広報に、学校ホームページの「教育方針」「建学の精神」などで使っているワーディングを欠かさず組み込むようにするだけでも、読み手は、個々のメッセージの意味を全体像の中で捉えやすくなります。


生徒・保護者と学校の関係(=互いに期待する役割)は状況とともに刻一刻と変化します、別稿でご紹介した方法などで、学校が果たすことを期待されている役割を把握し、認識を常にアップデートしていくべきであるのは言うまでもありません。時代や周囲が変わっているのに何の対応もしないのでは、取り残されていくばかりです。
また、生徒や保護者からの要請に、個々に応えていくうちに、全体としてのバランスを欠くようなことが起きてはたいへんです。学校が実現すべき価値に対する認識のアップデートと、その結果の校内でのしっかりとした共有は常に心掛け、実践していくべきことだと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一