カラムを分けた板書で押さえる共通点と相違点

ものごとを理解するときは、それを単独で扱うよりも、生徒がある程度まで理解している何か対照となるものを引き合いに出し、互いの共通点と相違点を整理しながら学んだ方が、本質的なところ(意義や抱える課題など)を押さえやすくなることが多々あります。
ある時代・地域の政治制度を扱うときに現代日本のそれと照らし合わせたり、バイオームを学ぶ中、サバンナを既習のステップと比べたりするイメージです。共通項を押さえつつ相違点にフォーカスすることで、それぞれが持つ特徴が強固に印象に刻まれ、本質が捉えやすくなります。
この場面で効果的に使えるのが、黒板を左右あるいは上下にカラム分けした「対応する項目をパラレルに配置したレイアウト」です。
❏ 生徒にも情報を拾い整理する工程を体験させる
共通点を押さえ、相違点にフォーカスすると言っても、既に整理した結果を提示するだけでは、生徒は「対比」「整理」という思考プロセスを先生に肩代わりされてしまうことになります。
生徒自身で体験させない限り、そこで使ったスキルを獲得する機会にはならず、整理された結果を知識として覚えるだけ。情報に整理をつける中で新たな知を生み出すすべを学ぶこともありません。
生徒の発言を拾い上げながら生徒の面前で板書に起こし、テクストなどから拾い上げた情報を整理していきましょう。
問い掛けを重ねることで、教科書や副教材、資料から情報を読み取らせたり、生徒自身に考えさせたり、話し合わせて気づきを膨らませたりしながら進めることが、情報整理の工程を生徒自身にも体験させることになるはずです。
❏ 上下/左右に並べた、構造的にパラレルな板書
生徒の発言を拾い上げるといっても、体系的な理解を作るのに都合の良い順番に発言が出てくるわけではありません。
発言を出てきた順番に拾い上げる時は、比較するAとBを大きく分けられるよう、前もってスペースを十分に確保しておきましょう。
余白を大きめにとって板書していけば、既に発言が出ていて書き出してあるものと内容的に近い/関連性のあるものが出たら互いが近くなるように書き込んでいくだけで、ひと通り発言が出そろった段階では、ある程度の関連性と構造を持った「メモ」が出来上がっているはずです。
ここからが整理の工程です。如上の手順を踏むことである程度の関連性が位置関係で表現されたものになっているとはいえ、所詮はランダムに出た発言を書き出しただけのものです。
改めて、整理してみないと見落としている観点や漏れている重要項目があるかもしれませんし、全体像を言語化しようとしてもあちらこちらに情報が分散しており、なかなか簡単にはいかないはずです。
❏ メモをもとに表題と表側を設定した表組に
冒頭でも書いた通り、「共通点と相違点」をしっかり認識させることで本質的な理解を形成しようとするからには、比較を行っているAとBが観点や整理軸に従って、パラレルに配置されている必要があります。
直交する行×列で構成された表組(マトリクス)は、パラレルな関係性を表現するには最も手軽に使えるぴったりの様式です。
AとBを横方向に(=左右に列を分けて)配置し、比較するときの観点を縦方向に並べていけば、表組のフレームが出来上がりますので、あとは各セルを埋めていくことで板書は完成に近づいていきます。
黒板に展開された項目群を見ながら、整理の軸(観点:表組で言えば、表頭や表側)に何を置くかを考えさせつつ、最初に起こした(ある程度まで構造化されている)メモから項目を拾っていきます。
整理の軸(=観点)も、先生が設定を先回りするより、生徒に考えさせてみた方が、学びは深まりそうな気がしますよね。
最初のメモは思いつくままのものですので、用語集などを参照しながら正確な語句に置き換える必要もありますし、単なる語句の羅列にならないよう、センテンスに起こし直した方が良いこともありそうです。
❏ 例題の理解を類題で確認するときなどにも応用
パラレルにレイアウトした板書は、初出概念を導入するときに例を挙げて/例題を使って説明をした後で、似たような問題や別の事例を使って理解を補足・拡充を図る場面にも応用できると思います。
最初の説明で板書した箇所の左右あるいは下にスペースを残しておき、別例を用いた説明ではそのスペースを使うことで、双方に共通することをパラレルに配置することができます。
双方の共通項/相違点を問い掛けて気づかせてから、色チョークなどでマークアップすれば生徒の頭には必要なことをきっちり刻めます。
また、既習内容と関連性のある初出内容(例えば、地震波→音波など)を学ぶときにも、既習内容の確認を問い掛けで行った上で、そこで残されたものをベースにすれば、パラレルな板書を作ることができます。
細かなことで恐縮ですが、こうした板書に展開しようと考えているときは、予め生徒に「ここは空けておいてね」 と一言かけておきましょう。行間も空けず、余白なしにびっしりとノートを取られては、教える側が意図したパラレルな構造も生徒のノートに再現されません。


追記: 調べたことを整理する手法に習熟させておくことの生徒側でのメリットは、その教科・科目の勉強に限ったものではないと思います。例えば、本稿で取り上げた共通項と相違点をパラレルにレイアウトすることで整理する手法は、進路選択の過程で学部・学科研究に取り組むときにも使えます。経営学部を単独で調べるより、商学部と比較した方が経営学部で学ぶことがよりすっきりとイメージできるように思います。
■関連記事: 情報の整理・構造化のやり方を板書で学ばせる

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一