シリーズの最後にあたり、伝達技術としての強調のコツについて考えてみます。既にご理解いただけている通り、プレゼンテーションの技術を駆使するだけでは「生徒の認識から漏れることなく強く印象を刻む」という本来の目的を果たし得ないものになりかねません。それぞれの技術を使う上でのポイントを抑え、効果的に利用したいところです。
2014/10/21 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 大事なところほど、ゆっくり発音&欠かさず板書
大事なところで聞き間違いや聞き漏らしが生じては、強調以前の問題ですよね。強調すべき箇所に到達したら、強めのエンジンブレーキをかける感じで、ゆっくりと一音一音を丁寧に発音しましょう。
また、どんなにゆっくり、はっきりと発音しても、生徒が聞き間違える可能性は残ります。授業中に出てくる重要な語句は、たいていの場合、初出概念であり、生徒には馴染みがありません。
初めて聞く言葉を、これまでに経験した馴染みあるものに勝手に置き換えて誤解するのはよくあること。板書して目でも確認させましょう。
私自身、お恥ずかしいことに、「イベリコ豚」という単語を初めて聞いたとき、「イベリ子豚」であると勘違いしました。その後の会話がかみ合わなかったことは、言うまでもありません。
欠かさず板書、というのは聞き間違いを防ぐためだけのものではありません。板書して生徒が手を動かすように仕向け、ノートに残させてこそ後の復習での接触/再記銘の機会を作ることに繋がります。
❏ 板書を辿りながら行う添え書き
説明をしたり問題を解いたりしながら書き上げた板書を辿り直す中で、大切な考え方などを添え書きするのも印象強化に有効な方法です。
ひと通り理解したことがらに、後から意味づけをしていくことで、最初に聞いた時に見落としていたことを補わせることもできます。
板書を前から/ときに後ろから辿り直し、「ここでは何をしようとしたのか」「ここでのポイントは何であったか」と尋ねながら、色チョークで添え書きしていきましょう。
一度先まで学びを進めたあとですので、最初に聞いた/考えたときより全体と結び付けながら再理解できるメリットは小さくありません。
チョークの色を変えると生徒は筆記具を持ち替えますが、このこと自体も「大事なところなんだ」という認識を持たせるのに有効です。
❏ 後から行うハイライト/残しておいた空所を埋める
また、既に書いてある文字に下線を引いたり、枠で囲んだりするのも、板書の辿り直しの中で行う方がより効果的なことがあります。
先生が頭の中で前もってピックアップしておいた「大事なところ」を流れの中でハイライトつきの板書をしても、生徒はその意味を十分に捉えきれるとは限らず、機械的に書き写すだけになりがちです。
解を導く過程をひと通り経験した段階/学習内容の全体像を把握できた段階で、改めて全体を俯瞰しながら大事なところをピックアップした方が、深い内容理解を伴う強調ができることがあります。
少し変則的な方法ですが、「TIPS!空所を残した板書」でご紹介したように、文字を書かずに下線や枠だけを書いておいて、該当箇所の学びを終えてから、埋めるべき文字を書き込むという方法もお試しください。
項目名や単元名、表組の行/列タイトルも、最初は書かずに空白にしておき、後で生徒に考えさせてから埋めさせるのも、その部分の意味づけを改めて行うことになり、強い印象を残すのに極めて有効です。
❏ 「大事だよ/試験に出るよ」の連発効果は甚だ疑問
伝える側がどれほど丁寧に伝えようとしても、受け取る側が準備を整えていないと受け止めてもらえません。
ミットを構えていない相手にボールを投げたらどうなるか想像してみて下さい。相手はどこにボールが転がっていったかもわからず、投げた側がボールを拾いに走っていく羽目になりかねません。
ミットを構えさせるのによく使われる方法は、「ここは大事だよ」「試験に出るよ」という前ふりですが、その効果は甚だ疑問です。
授業で扱うことは基本的にどれも大事なので、勢い「大事だよ」 を連発することになります。狼少年のようなことになっては台無しです。
最も罪が大きいのは「試験に出るよ」の連発です。「テストという外的動機づけなしに勉強しない」という姿勢を助長するリスクを抱えます。
❏ 問い掛けによって、受け止める側の準備を整えさせる
弊害が少なく、且つ効果的な方法は、直前の問い掛けで生徒に考えさせて(頭を働かせて)、情報を受け止めやすい形にしておくことです。
何の前ふりもなしに「○○です」と伝えるだけの時と、「これってなんだっけ?」と問い掛けて教室を見渡したのちに「そう、○○だったね」 と確認する流れとを想像して比べてみてください。
問われることで少し考えることが、次に到達する情報を受け止める準備を整えるため、ボールを受け損ねるリスクは大きく減ります。
また、前々稿で申し上げた「学習項目ごとの重要度∽生徒に投じさせるエネルギー」に照らしても、一度考えてみることで使ったエネルギーが印象と記憶の強化に役立つことも見逃せません。
❏ 理解したこと/思考の結果を言葉にさせる
生徒にエネルギーを多く使わせる(=強い印象を残し、記憶に刻む)ためには、伝えたことを生徒自身に言葉にさせるのも効果的です。
言語化は、オウム返しに繰り返すことではありません。問いかけて考えさせ、思考した結果を自分の言葉で表現させることを指しています。
単純に「結局、どういうことなの?」「どうしてこうなったか、もう一度説明してみてくれる?」と尋ねたり指示したりすることだけでも、ここでの狙いは十分に実現します。
言語化した情報は、記憶にとどめることが容易になりますし、言語化できない限り、自分の考えに相手の理解や共感を得ることはできず、協働による課題解決が求められる場面でも役に立ちません。
隣同士で説明させれば十分なケースと、発表させて他者の意見に触れさせたり、それを評価させたりするところまで踏み込む必要があるケースとがあります。重要度の高いもの、定着しにくいものほど大きなエネルギーを使う活動を選ぶべきであるのは言うまでもありません。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一