家庭学習の習慣化を妨げるもの~原因から考える対処 #1

家庭学習の習慣の形成と維持は、程度の差はあれどの学校でも課題として認識され、様々な対策が講じられていますが、成果が十分に上がっているケースばかりではなさそうです。「一日あたり2時間の家庭学習」をお題目のように繰り返し、家庭学習の重要性を訴え続けるだけでその目標をクリアできたという話は聞いたことがありませんし、各教科で宿題を増やすという戦略もあまりうまく機能しないようです。
家庭学習時間の延伸を目指して対応策を考えるときに、最初に考えるべきは「なぜ、生徒は家庭学習に十分な取り組みを見せてくれないのか」という問いへの答えではないでしょうか。原因の切り分けをしっかり行わないと、対応策を誤るリスクが高まるばかりです。

❏ 適切な対策を講じるには問題の切り分けから

家庭学習が不十分になっている原因には様々なものがありますが、次のようなものがその代表格かと思います。

  1. やろうと思ってもできない(レディネスが整っていない)
  2. やるべきことが明確になっていない(指示が具体性を欠く)
  3. 机に向かう時間が取れない(優先順位が付けられない)
  4. やらなくても特に困らない(ペナルティを甘受すればそれで済む)
  5. 取り組みに喜びが見いだせない(達成や自分の進歩の実感なし)

複数の原因が組み合わさって問題をややこしくしていることも少なくありませんが、障害となっている要素を一つひとつ解消する以外に「授業外学習の習慣化/家庭学習時間の延伸」という所期の目的を達する方法はないはずです。

❏ 複線的なゴールと教室を出る前のレディネス形成

最初に挙げた「やろうと思ってもできない」というケースは思いのほか多いのではないでしょうか。
予習に際して「知らない単語は調べてきなさい」という指示にしても、辞書の使い方を事前に学ばせておかないことには正しく行える生徒ばかりではありません。
見出し語をやっと見つけても、最初に出てきた太字の訳語を強引に当てはめ支離滅裂な「訳文」を創作してしまうことだってあります。
センテンスの構造把握ができないと、多くの用法から該当するものを特定できず、ときには連語であることを見抜くこともできません。活用形から原型を探せないことだってあるでしょう。
問題集から何問か選んで次の授業までに解いてきなさいという課題にしても、多少もがくことになっても何とか解ける生徒にはチャレンジングなものかもしれませんが、全く手が出ない生徒にとっては科目への自己肯定感を奪う存在に過ぎないのではないでしょうか。
中長期的な視点に立ち、いずれは予習・復習に回したいタスクは、まずは教室内でやらせてみて、どこまで生徒がこなせるかを見極めながら、徐々に授業外学習の課題に振り替えていくのが好適です。
また、すべての生徒が同じ歩調で学習者としての成長を遂げるわけではありませんから、
「全員が最小限達成すべき水準」

「余力のある生徒を対象とする上位課題」

「授業で飽き足らない生徒を刺激する任意課題」
といった具合にハードルを複線的に設ける工夫なども必要です。
最大限の網をかけて全員に課す「団体行進」的な課題の付与は、仕上げ切れない生徒を増やすばかりですし、個別化の時流にも馴染まないように思います。以下の記事もお時間の許すときにご高覧下さい。

❏ 学びの深まりに繋がり、達成感が得られる明確な課題

2番目に挙げた「やるべきことが明確になっていない」というのもかなりの割合で発生している問題だと思います。
先生に「ちゃんと予習してきなさい/しっかり復習すること」と言われても、生徒によっては何をもって「ちゃんと」なのか、「しっかり」なのか掴みかねているのではないでしょうか。
予習の範囲が示されても、具体的なタスクなしでは、指定範囲をひと通り読んだとしても、その後に何をすべきかイメージできず、そこで予習を終えてしまう生徒がいても不思議はありません。
予め具体的な問いを与えておき、教科書の該当箇所を通読した上で自分なりの答えを作ってきなさいというのであれば、読み終えた先にもやるべきことがありますし、答えようとする中でわからないことがあれば調べる必要にも気づくはずです。
授業後の学習(≒復習)に際しても、本時の学びをもとに答えを導くべき問いを与えておき、その答えを仕上げることを求めれば、「何をするかわからない」という状態にはなりません。
こうした具体的なタスクがなければ、習ったことを見直して覚えるだけの復習になってしまい、思考力を高める機会にも、学びを深く掘り下げる場にもなりません。
こうした予習・復習の指示に際しても、前述の「レディネス形成」は重要な土台作りになります。課題を与えられても手が出なければ失敗体験を積ませるばかりです。授業内での「予行」を十分に重ねておけば、指示そのものもより良く理解できるようになります。
その2に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一