授業評価アンケートの標準的な質問設計の中に「宿題や課題など、習ったことを使ってみる機会が整えられている」かどうかを尋ねる項目【活用機会】を設けてあります。
この質問で尋ねていることのメインは、言うまでもなく文の後半です。文頭に付いた「宿題や課題」は、後半部分を実現するための手段例であり、「など」が含意する通り、ほかにも実現の手段はあり得ます。
要は「習ったことを使う機会」が整えられていれば良いのですが、習ったこと(=獲得した知識)を使う(=活用する)機会と言えば、まっさきに思い浮かぶのは、解決すべき課題/解くべき問題です。
拙稿「学習目標は解くべき課題で示す」で申し上げた通り、導入フェイズで生徒に学習目標をきちんと理解させるにも、学び終えて学習目標が達成されたかを検証するにも、ターゲットとなる問いは欠かせません。また、学びを終えたときに改めて課題に向き合い、自分の答えを仕上る中でこそ学びは深く確かなものになります。
❏ 習ったことを使ってみる機会の意味するところ
質問文のメインパートの主語に当たる「習ったこと」というのは「授業を受けて獲得した知識や理解」を指します。
単元固有の知識や理解だけでなく、解内在型の問題(=正解が決まっており、それを導く過程も既に明らかにされている問い)に正解を得るための手順(=解法)や、ものごとを理解するための先人が成立させたフレーム(=捉え方)などもここに含まれます。
これらを「使ってみる機会」と言えば、新たな問いや課題に答えを導いたり、解決方法を考えたりする場面にほかなりません。
新テストなど、高大接続改革以降の入試では、「読んで理解したことをもとに思考し、その結果を第三者の理解と共感が得られるように表現する力」がこれまで以上に重視されますが、これはまさに冒頭の質問文が求めている「習ったことを使ってみる機会」、すなわち「授業を受けて獲得した知識や理解」を用いて「問いに解を導いたり、様々な課題に解決方法を考えたりする」機会の中で獲得されていく力です。
実際、新テストの試行問題などを見ると、「演習などを通じて、解法を知っている問題を増やして受験会場に臨む」という戦略だけでは通用せず、「その場でどこまで理解して、考えることができるか」が勝負を分けるシーンが増えてきそうです。このあたりについては、お時間の許すときにどんな問いを立てるかで授業デザインは決まる、学力観の変化は良問と悪問の分け方を変えるをご参照ください。
❏ 宿題を課すのは前提ではなく授業デザイン上の必然
求められる学力観が変わってくる以上、「丁寧に教えて理解させ、しっかり覚えさせる」というところに立ち止まらず、冒頭の質問文が表していることを満たした授業を実現し、新しい学力観が求める力を獲得する鍛錬の場を作ることが授業をデザインする側の重要な仕事になります。
習ったことをそのまま覚え、答案の上に再現するだけでは「使う」ということにはなりません。獲得した知識や理解に新しい組み合わせを与えることが「使う」ということであり、そのキュー(きっかけ)となるのが先生が提示した/生徒自身が立てた問いです。
冒頭にも書きましたが、授業のたびに宿題を課すことは前提要件ではありません。要は、授業内外に適切な課題や問いが用意され、生徒が自力で/協働でそれを解決したり、答えを導ければそれでOK。授業内で完結できれば、それに越したことはないでしょう。
しかしながら、授業の中で先生の説明を聞いたり、自分であれこれ調べたり、友達同士で話し合ったりして得た知識や気づきもそのままにしては深く確かな学びにはなりません。
十分にわかっていないことがあれば、さらに調べてみる必要がありますし、自分の答えがしっくりいかなければ練り直すべきです。見落としや誤解を孕んだままになってはいけませんよね。また、再記銘の機会を作らずに放置してはせっかくの学びも記憶から消えて行きます。
拙稿、答えを仕上げる中で学びは深まるで書いた通り、課題に立ち戻ってじっくり答えを仕上げる中で学びは深まり、確かなものになります。
そうした場面をきちんと作らせるには、家に持ち帰って/教室を離れて自習室で、課題と向き合う時間が必要であり、結果的にこれが「宿題」ということになるとお考えいただくのが好適ではないでしょうか。
■ご参考記事:
- 課題の仕上げは個人のタスクに(前編)、(後編)
- 協働学習を”集団としての調和”で終わらせない
- “アクティブ・ラーニング”で学習時間が減る?
- 学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められる
- 次回の予習ができる状態を作って授業を終える
- 単元を跨いで作る、習ったことを使ってみる機会
問いや課題は、教科書や問題集の中にとどまらず、現実社会にも存在します。生徒の手には余るかもしれませんが、よりリアリティをもった問題として生徒の興味や関心を刺激することは大いにあり得そうです。
教科書で学んだことをベースに、新聞記事などを検索し、より深く・広く知るための調べ学習をタスクとするのも面白そうです。次回の授業までに、全員に課すのでは忙しすぎる/負担が大き過ぎる可能性もありますので、発表の順番を決めておき、一定の準備期間を与えるぐらいがちょうどよいかも。特に、現代社会や保健、家庭などの教科は、教科書での学びと現実世界での諸問題がリンクしやすく探究活動の入り口としても好適です。
ちなみに、テストをペースメーカーに進めていく副教材単独学習という形の「宿題」では、習ったことを使うことにならず、冒頭の質問文が求めていることを満たしていないことは言うまでもありません。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一