異校種の授業を参観する機会はどのくらいあるでしょうか。育てている生徒が進学後にどんな学びに挑むのかを知ることや、迎え入れた生徒がどんな学びを経験してきたかを知ることは、どんな力を獲得させるべきか、何を前提に指導を設計すべきかの判断の際に欠かせないものです。
学習指導要領がこれまでにない大きな変更を受けた以上、お隣の校種で何をしているかは、改めて確認しておく必要があろうかと思います。
中高一貫校なら中学と高校の先生が相互に授業を観るのに大した制約はないはずですが、それでも定期的に参観の機会を確保しているケースは多くないように感じます。ましてや、設置者が異なる学校の間では参観のチャンスも少ないのではないでしょうか。
2014/05/14 公開の記事を更新しました。
❏ 今教えていることが、次の学習にどう繋がるのか
小中高連携の一貫で、小学校から高校まで異なる校種の先生方が集まって研究授業を定期的に開催しているケースが各地で見られます。その一つを見学させていただき、ご参加の先生方にお話を伺ってみました。
小学校から参加された先生は、数年前に自分が教えていた生徒の成長した姿に喜びを感じておられると同時に、小学校と中学校での授業の違いに驚きも感じておられる様子でした。
担当している生徒が上級学校に進学してから経験する学びを改めて知って、日頃の教室でどんな指導をすべきか考え直す必要があるとの趣旨のご発言が印象に残りました。
こうした気づきは、今後の授業を考えるための大きなヒントになるでしょうが、逆に言えば、これまでの指導は次のステージの学びへの接続をきちんと想定できていなかったということかもしれません。
小中高、あるいは小中、中高の先生方が一緒に行う研究授業/相互参観が目的とするところのひとつは、子どもたちの学びをより広いスパンで俯瞰的に捉え直すことだと思います。
今、生徒が学んでいることが、次のステップでどのように生きるのか、どのように使うことが求められるのかを十分に把握しておかないことには、個々の単元の項目の扱い方や達成水準の設定にも判断を誤ります。
❏ 教材研究は次のステージの学びを知ることから
教材を順に辿り、目の前の学習内容を扱っていくときに、進学後・進級後の必要を十分に踏まえての教材解釈が行われている場合と、そうでない場合とでは大きな違いが生じます。
高校3年間の中でも、出口学力で求められるものを大学入試などの出題研究を十分に行ったうえでの授業と、教科書だけを見て「教科書を教える」ことに偏っている授業とでその成果が大きく変わるのと同じです。
出題研究が不十分な授業では、「今教えていることがどのように問われるのか、どのように使うことが求められるのか」という視点を欠き、教えたことを記憶して再現することを求めるのに偏りがちです。
高大接続改革では、学習型問題などで大学に進んでからの学修に必要なコンピテンシーを身につけているかを測ろうとしています。
それを知らずに、従来のパフォーマンスモデルによる学力観が優位だったときに効果的であった「丁寧に教えきって、しっかり覚えさせる」という戦略だけで授業を設計しても、良い結果は引き寄せませんよね。
これと同じことが、上級学校での学びに十分な関心を向けていない小中学校の授業で起こりやすくなります。
❏ 生徒が学んできたことを知らずに授業は設計できない
中学と高校の先生が、生徒たちがそれまで勉強してきた小学校や中学校の教科書に目を通す機会もそれほど多くなさそうです。
実際にお尋ねしてみると、大抵の先生方が「あまり/全く見たことがない」とのお答えです。定常的に熟読しチェックを怠らないというのは、自校の入試問題作成を担当する先生に限られるかもしれません。
しかしながら、学習指導要領の改訂ごとに教科書は大きく様変わりしており、特に今回の改訂では「学ぶ内容」もさることながら、「学び方/学ばせ方」にも大きな変化があり、教科書もそれに合わせて改編されています。
入学してくる生徒がどんなふうに勉強してきたか、どんなことができるようになっていたかを知らないことには、迎え入れた生徒の指導をどこから始めれば良いか判断を誤ります。
以前の(遠い?)記憶で隣の校種の教科書や学習の姿をイメージしていては、指導設計の土台を間違え、貴重な教育リソースを無駄遣いすることにもなりかねません。
❏ 各教科の学習内容以外にも把握しておくべきこと
各教科の知識や理解、技能の習得状況については、入学試験での答案分析でかなり正確な把握ができるでしょうが、どんな学び方を身につけているかは、実際の教室を覗いてみないとわからない部分があります。
実際に教室に足を運んでみれば、小中学校の先生が作っているプリントや生徒が書いたレポートなどにもついでに目を通すことができます。
教科学習指導以外にも現場を目にして把握しておくべきことは沢山あります。「総合的な学習の時間」での取り組みなどはその一つでしょう。
出願書類などを読んで推測できる範囲は限定的です。小学校や中学校の成果発表会などを覗きに行く方が、よほど短時間で有為な示唆が得られそうな気がします。
小中学校での学習発表や成果品展示を観に行く機会があるかと尋ねてみると「なるべく行くようにしている」という答えすらレアです。確かに、多忙を極める校務の中で時間を捻出するのは非常に困難なことだと思います。
しかしながら、それまでの学習の成果を踏まえて指導を設計しないことには、校種間の接続という視点を欠いた重複や抜けの多い指導計画で貴重な教育リソースを無駄遣いするリスクが増えます。
その結果、却って必要な投資量を増やしてしまうようであれば、異校種間で行う相互参観の機会を作ってしまった方が、トータルでの労力削減が図れるのではないでしょうか。
その2(授業公開と研究協議~指導に込めた意図の共有)に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一