新しい学力観に沿った学ばせ方の転換を図ろうとするとき、学びのプロセスを「インプット」と「インテイク」に分けてみると、様々な着想が得られたり、見落としていたものに気づきやすくなったりします。
ともに知識や情報を外から内に入れることには変わりませんが、専ら外からの働きかけで行われる「入力」と、不明を見出したり、興味を持ったりしたときに、自ら求めて行う「取り込み」とは別のものです。
❏ インプットとインテイクの違い(ここでの定義)
インプットとインテイクの区別は、様々な分野や領域でそれぞれの定義に基づいて行われていますが、ここでは仮に、
- 他者が構成した知識や情報が既に用意され、それをそのまま受け取り、覚えることをインプット
- 課題解決の必要や興味などを起点に、自ら知識を取り込み、理解しようとすることをインテイク
としておきたいと思います。例えば、先生の話を聞いたり、板書を写したりしているだけなら「インプット」ということになります。
単語集の暗記でも、「明日は小テストだ」という外圧が働きかけるだけの丸暗記ならインプットの域を出ないのではないでしょうか。
他方、先生の話や教科書に書かれていることに何かの疑問を見出して、それを解消したいとの欲求から自分で調べたり、質問したりし始めたなら、そこで行われているのは紛れもなく「インテイク」です。
質問されて、覚えていたはずのことが思い出せず、教科書やノートをめくって答えの所在を探そうとしているのも、インテイクの一つです。
❏ インプットとインテイクの境界を越えさせる働きかけ
教える側がお膳立てを整え、生徒は覚えるだけで良いというのでは、インテイクの要素はゼロだと思います。“正解を言って欲しい”と言う生徒の要求には安易に応えるわけには行きません。
こちらから問いを投げかけたり、生徒自身に問いを立てさせたりすることは、インプットで立ち止まらせず、インテイクの要素を増やしていく上で最も効果的な方法の一つです。
問われてこそ、不明の所在に気づけます。わかっていない/知らないでいることに気づけないことには、調べたり解き明かしたりしようとする欲求は生まれません。
正解を安易に教えてしまうのではなく、解くべき問いを与えて、解き方から考えさせる/話し合って見つけさせる場面を作ることが大切です。
解決しなければならない課題を認識することで、不明解消への動機、すなわち「学ぶことへの自分の理由」が生まれ、それがインプットの域を飛び出し、生徒をインテイクに向かわせるカギです。
❏ インプットだけで構成される学びが抱える限界
間もなく2つ前の時代になってしまう昭和であれば、「先生が丁寧に教えてくれたこと」(教師によるインプット)を、きちんと覚え込み、スピーディ且つ正確に再現できれば十分だったかもしれません。
しかしながら、世の中の知識量が爆発的に増え、解決すべき問題は複雑化していく中、生徒たちがこれから先を生きていくのに必要なことをすべて揃えて見せてあげることは不可能です。
生徒自身が、目の前や周囲に転がっている「解消されずに残っている不明/未解決のままの課題」の所在に気づき、必要な情報を自ら集め、解決のための方策を考案する力を身につけさせることが必要です。
そのためには、インプットに偏ることなく、生徒自身を主体とするインテイクの比重を高めた授業デザインが求められます。
生徒が自発的に学ぼうとしていたとしても、教科書や資料を、そこに書かれているものに疑問を持ったり問いを立てたりすることなく、順番に読んで理解するだけでは、インテイクの要素が十分とは言えません。
単元を行き来しながら、必要な情報を拾い上げさせる、単元融合型の課題も必要でしょうし、教科書に書かれていることにも「なんでそう言えるの?」と問い掛けてあげることも大事だと思います。
❏ インプット、インテイク、そしてアウトプット
知識は考えるための道具です。きちんと揃えさせなければいけません。インプットの不備は、問題発見と問題解決の力に大穴を残します。
習ったことをそのまま再現すれば良いという「都合の良い問題」はむしろ稀ですから、インテイクの力を養う機会の整備も必要です。
これら2つ(インプットとインテイク)がきちんと機能したかどうかを確かめるのが、アウトプットです。
インプットに不備がなかったか、インテイクが十分に行われたかは、それらの成果を使うことを求める課題への答えという形でアウトプットさせてはじめて確かめられるとお考え下さい。
導入フェイズで示した問いに、学び始める前に仮の答えを作らせれば、本時の学習内容に対して「学ぶことへの自分の理由」が作られますし、学び終えてじっくり課題に取り組ませ、答えを仕上げさせれば、答えの変化の中に、生徒一人ひとりの学びの成果が表れるはずです。
インプット、インテイク、アウトプットの3つがそれぞれ授業内外の学習をどのくらいの割合で構成しているか、ときどき振り返ってみるのは意味のあることだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一