本シリーズでは、「授業改善行動の実効性を高めるために」と題して、改善課題の特定から、改善に向けたプランの作成、その実行と改善行動の効果測定までの流れについて、考えるところをまとめてみました。
授業改善を継続的、効果的に進めるには、如上のPDCAサイクルを適切に回せるだけの環境や準備が整っていることが前提要件。本稿では、シリーズの追記として、この辺りを考えてみたいと思います。
もし、現状を鑑みて不十分と思われるところがあれば、次のフェイズに向けて「改善のための準備」を改めて整えていきましょう。
2018/04/17 公開の記事をアップデートしました。
❏ まずは、校内での「目指すべき授業像の共有」から
どんな授業を目指すのかを明確にした上で、先生方の間で方向性の共有を図っておくと、その実現に向けて先生方がそれぞれに凝らした様々な工夫の成果を互いに利用しやすくなります。
一人で試行錯誤を繰り返すよりも、誰かが見つけた手法/得た知見をシェアして、それを土台に進めていく方が、はるかに効率的なはずです。
また別の先生が試してみて効果がなかった失敗を不要に繰り返すのも、時間と労力の無駄ですし、それに巻き込まれるのは他ならぬ生徒です。
学校には、生徒募集活動で謳った「教育活動で目指すところ」を実現する責任(生徒募集を通じて入学前の生徒と交わした約束)があります。
教育活動の柱である授業についても、学校として実現をめざすものを、すべての教科・科目の先生方でしっかり共有しておかなければ、歩を進める方向がバラバラになり、「約束」を守れなくなってしまいます。
❏ 共有には「構成要件の言語化」が欠かせない
授業像に限らず、何かを共有するとき、その概念を曖昧/感覚的に捉えていては、解釈が人それぞれになってしまい上手くいかないはずです。
構成要素をひとつひとつ書き出して、言語化しておくことが必要です。
言語化したものは、授業観察や相互参観で使用する「観察シート」の観点と規準や、生徒による授業評価アンケートの「評価項目/質問文」で文字に起こすことで、明文化を図りましょう。
文字に起こしたものを先生方の間で読み合わせてみることで、校是たる授業像の共有をより確実なものにすることができるはずです。
ちなみに、管理職の先生方は「授業観察」を行いますが、その際には、如上の観点と規準を高い水準で満たしている実践(授業)を探し、見つけたものを校内に伝えていくこともまたお仕事の一つとお考え下さい。それができる立場にあるのは、授業観察を業務とする管理職だけです。
❏ 実現に向けた方法を互いに学ぶ機会を確保
校是たる授業像が共有されたら、その実現に向けた具体的な方法(授業デザインや教え方の工夫)を先生方が互いに学ぶ機会を整えましょう。
それぞれの先生が既に持っている知見や手法から学ぶことはもちろん、互いの発想を交換することで、課題解決(=目指すべき授業像の教室での実現)に向けた新しい手法を開発していくことも必要です。
教科会での協議に加え、相互参観などの機会確保も不可欠ですが、校務や時間割などの都合でうまく集まれないのなら、電子会議室や校内サーバーに蓄えた授業動画などを活用するという手もあるはずです。
❏ 相互参観で得られる知見を大きくするひと工夫
相互参観を活発に行っても、一人ひとりが授業を観るだけでは、気づきは個人に閉じたままです。観察で得た所感を対話の中で相互に交換してこそ、得られる知見は大きくなります。
別稿「研究授業の実りをより大きくするために」でも書いた通り、互いの気づきを言葉にして共有する機会が必要です。日程は、早いうちからカレンダーの中に組み込んで、確保してしまうのが好適です。
相互参観を集中的に行う期間を、年間予定の中に設けている学校でも、実態が「空いている時間に、たまたまやっている授業を無作為に覗いているだけ」の場合、あまり効果は上がっていないようです。
模試の成績伸長や授業評価の集計値の違いなど、データを使って好適な実践を選び出し、参観の対象に指定している学校の方が、授業改善のスピードに勝るのは改めて申し上げるまでもありません。
❏ 改善課題の形成と改善行動の効果検証に使う「指標」
授業に限らず、何かを改善しようとするなら、「現状の把握」と「改善行動の効果検証」に用いる指標の設定(データの確保)が必要です。
ダイエットを思い立ったら、何はさておき体重計を用意するはずです。
改善行動の中で好適な(=大きな成果が得られる)手法が見出されてもデータを使ってエビデンスを示さないと、その手法への理解や共感も集められず、せっかくの好適な取り組みも校内に広がっていきません。
- 模試の成績などを用いて、学習者集団の成績の伸びや学力層ごとの分布の変化などを、きちんとデータとして把握できているか(cf. 共有すべきは付加価値の大きな指導)
- 生徒による授業評価アンケートの結果から、優良実践の所在が特定でき、改善の様子を把握できる集計法になっているか(cf. 授業評価アンケートを行うときの最小要件)
この2点に「本校/自教科はバッチリ」と自信を持って答えられる状態でなければ、現在位置を見失って進む方向を誤ったり、改善の手応えを感じ取れずに取り組みへの意欲を維持できなくなったりしかねません。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一