第3期教育振興基本計画と"総合的な探究の時間"

先日パブリックコメントの募集が終了した第3期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方では、今後の教育政策に関する基本的な方針として以下の5つを挙げています。

  1. 夢と自信を持ち、可能性に挑戦するために必要となる力の育成
  2. 社会の持続的な発展を牽引するための多様な力の育成
  3. 生涯学び、活躍できる環境の整備
  4. 誰もが社会の担い手となるための学びのセーフティネットの構築
  5. 教育政策推進のための基盤の整備

 

❏ 探究活動・課題研究などに期待されるところ

このうち、学校の中での教育活動が実現への役割を期待されているのは、1.と2.でしょうか。
そこに含まれる「夢と自信を持ち」「可能性に挑戦する」「社会の持続的な発展を牽引」といった文言は、その理念には反対する理由こそ見つからないものの、実現への具体的な方策は容易にイメージできません。
それでも、様々な学校が意欲的な取り組みを始めており、探究型学習や課題研究、国際交流や地域連携などを通じ、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」を生徒が実体験に基づいて考える場が作られています。
SDGsベースで発展途上国に対する支援策を考えるという意欲的な取り組みも少なからず見られます。
年度末には各地の学校で成果発表会も行われており、時間を見つけては方々を見学させてもらっていますが、どこをお訪ねしても、指導に当たられている先生方のご尽力には頭が下がるばかりです。

❏ 生徒は「自分ごと」として取り組んでいるか

しかしながら、その一方で、そうした活動に生徒が「自分ごと」として取り組んでいるかというと、疑問に感じることも少なくありません。
「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という視点に欠けた”他人事としての調べ学習”では、「社会の持続的な発展を牽引する」というミッションを担う覚悟は作れないような気がします。
一部の学校では、もう一歩踏み込んで「自ら立てたプランを実際に行ってみる」ところまで活動を広げているケースもあります。
しかしながら、そんな学校でもポスターセッションで生徒に訊いてみると、こんな答えが幾度も返ってきました。

自分たちには問題を解決する力はないので、問題を広く紹介することで、将来、解決する力を持った人の登場を待つことにした。

体験を通して、生徒たちが、課題の大きさに比べた自分たちの無力・非力を感じた結果、自らの関りを持たない他人ごとに戻してしまっているようにも思え、ことの難しさを改めて感じます。
地域の人と一緒に汗を流して感情をシェアすれば「自分たちにできること」の捉え方が少し違ったのではないかと思いました。

❏ 解決策を考え出すプロセスをきちんと踏めていない

これまでに誰も経験していない新たな問題に遭遇し、その解決に当たらなければならないケースが今後増えていくと思われます。
そこでは、状況を詳しく調べ、問題の原因を想定し、解決への仮説を立て、検証を経て、より良い解決策を決定するというサイクルで物事を進めていく必要があります。
しかしながら、発表を見ていると、「プランを立てて終わり」「とりあえずやってみた」「検証したがその後のアクションなし」という段階で終わっているケースも少なくありません。
課題解決に向けての行動手順に対する理解そのものが不十分なのかもしれないと、感じることが多々あります。
PPDACサイクルを用いた課題研究でも書きましたが、活動そのものにきちんとしたフレームを与える必要があろうかと思います。
そうした手順に習熟することは、生徒一人ひとりの課題形成力と課題解決力を高め、ひいては「可能性に挑戦する姿勢と自信」を与えることになるのではないでしょうか。
インターネットを介して、表層的に(お気軽に)知り得た情報だけを頼りに、問題の原因を考え、その仮説を検証もしないうちに解決策をぶち上げるのでは、得るものは少なそうです。

❏ 次期学習指導要領での「総合的な探究の時間」

現行の学習指導要領では、小中学校での横断的・体験的な総合学習と、高校での探究的な総合学習の境界があいまいなことも、プログラムの設計を中途半端にしてしまっているように感じます。
次期学習指導要領では、高校の総合学習が「総合的な探究の時間」に名称を改め、位置づけが明確にされる見込みです。
これにより、現状での問題点の多くは解消されるかもしれませんが、総合的な学習の時間が何を目指してのものなのか、現場の先生方がじっくりと考えないと、問題の幾つかは残るのではないでしょうか。
また、単年での総合的学習では成果発表を以て活動が終結してまうことも、せっかくの探究活動・課題研究の成果を曖昧なものにしています。
ファースト・トライを経て、更なるアイデアが浮かんだ生徒が、探究を続けられるような”次年度オプション”を用意できたら、新しい可能性も見いだせるような気がします。



プレゼンテーションスキルの獲得や、グループ活動を通じた協働の喜びを知ることもまた、小さからぬ成果ではありますが、探究活動や課題研究に投じた多大な時間とエネルギーに見合ったものかというと心許ないところもあります。
せめて志望理由書を作り上げる土台、そこに添える「実績」になるような仕上がりは目指したいところです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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