半年ほども前になりますが、平成29年4月25日に「地域学校協働活動の推進に向けたガイドライン」 が文科省から公表されました。従来からの地域による学校の「支援」から、地域と学校のパートナーシップに基づく双方向の「連携・協働」へと発展させていくことを目指すそうです。
確かに、地域活動に参画することは生徒の視野を広げ、社会の中で引き受けるべき役割を知る機会であり、また、学校の運営に地域の協力を得ることの意義は大きいとは思いますが、あくまでも優先すべきは学校の教育目的の達成です。
地域との連携・協働は、自己目的化させることなく、いたずらに拡大しないよう、学校の教育目的達成の手段という位置付けを明確にしたうえで、費用対効果を冷静に見極めて選択に当たる必要があると考えます。
❏ 学校の教育目的の達成を優先し、取り組みは選択的に
多忙が限界を超えている学校現場にこれ以上のミッションを抱えこませる必要があるのか、甚だ疑問です。
地域との協働の中に、学校の教育目的を実現するのに有効かつ必要な部分があるようなら選択的に利用するという姿勢が求められるはずです。
学校が掲げる教育目的を達成するために配列された、生活、学習、進路の各領域における指導目標を達するために、地域との協働が好適な機会となるケースもあろうかと思いますが、あくまでも優先すべきは教育目的の達成です。
優先順位を取り違えて、地域協働活動の充実を自己目的化させて教育活動が膨らんでしまっては、各指導目標の達成が遠のく可能性も否定できません。これでは本末転倒です。
限りある教育リソースの最適配分という観点で、地域との連携(地域からの支援、地域活動への参画)が教育目的や指導目標の達成にどのように寄与するかを冷静に見極める必要があろうかと存じます。
❏ 中学までの横断的・体験的な学習を踏まえてその先を
そもそも高校は、通学圏が小中学校よりはるかに大きく、「地域」と呼ぶべきエリアの境界があいまいであり、帰属意識を持って生徒が地域活動に参加できるかどうか微妙に感じます。
次期学習指導要領では、総合的な学習の時間が、小中学校での横断的・体験的なものと、高等学校での探究的なものとに区分けされ、名称も「総合的な探究の時間」に変更されます。
小中学校の横断的・体験的な総合的な学習を推し進める上では、地域の方々の協力を得たフィールドワーク的な学習や、実際に地域の中に飛び込んで活動してみることも必要でしょう。
一方、高校では、中学までの横断的・体験的な学びの上に、進路を含めた探究活動を積み上げていく以上、中学までに経験したことを繰り返すのではなく、その先の展開を見据えた機会設計が必要です。
まずは、入学してきた生徒が小中学校でどんな活動を経験し、何を学んできたかを確かめた上で、高校でどんな体験の場を用意すべきかを考えるという手順をしっかり踏まえたいところです。
❏ 地域の中での体験以外にも目的に近づく方法がある
地域との協働活動に参画することで、「地域への関わり方を生徒が考えられるようになる」という変化が期待されると思いますが、こうした変化をもたらし得るのは参画体験だけではないはずです。
いわゆる探究型学習をへて広がる興味の方向は様々なはずです。
進路探究の中で、地域への関わりへの意識が高まった生徒が、教室内外での自らの気づきを実際の場面を経験して確かめる必要が生じたときにこそ、学びの深まりも期待できるのではないでしょうか。
事前学習が不十分でレディネスが整わないうちに体験を先行させても、得るものはあまり大きくありません。
また、「地域」というエリアに限っては、生徒の社会的自立に必要な力を育むのに好適な場面が用意できる保証はなく、職業・学問といった領域も含め、より広いエリアに体験の場を求める必要もありそうです。
地域学校協働活動の理念には、共感する部分もありますが、実際に学校の教育活動をデザインしていく上では、前もって考えておかなければならないことが沢山あります。
地域との協働の場面を作ることを優先して、学校の教育目的との関連付けが後回しになるようなことがないようにしたいものです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一