必要な事柄を不足なく記述したシラバスであれば、学習者に熟読させることで、学びを通して目指すものを理解させ、意欲的に学ぶ姿勢を引き出すことができます。cf. シラバスを熟読・活用させることの効果
活動評価のための観点別評価基準、記述問題の採点ルーブリックなども同様であり、そこに書かれていること(規準)を、導入時や学びが少し進んだところで、生徒にしっかり読み込ませることで、目指すべき到達状態を正しく捉えた「学びの方向づけ」ができます。
しかしながら、どこかで作り上げた評価基準が、そのまま「完成形」として使い続けられるわけではありません。基準そのものの不具合もあれば、生徒の実情に合わせた修正なども必要です。使いながらブラッシュアップを重ねて、より良いものに作り替え続ける必要があります。
2017/04/05 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 評価の規準に照らして行う、目標理解と振り返り
評価規準は、とりもなおさず目指すべき到達状態を記述したもの。その読み合わせは「生徒との間で目標を共有すること」と同義です。
現行課程では、ルーブリック(観点別に段階的な評価規準を記述したもの)が広く用いられるようになりましたが、作って配布しても、生徒に読み込ませないと、目標理解や振り返りの基準作りに役立ちません。
進捗と改善課題を捉えた学びの実現のために「振り返り」を行わせるにしても、目標(≒評価規準)を正しく理解している必要があります。
授業評価アンケートのデータでは、明確な目標提示と、振り返りによる課題形成は強固な相関関係にあり、学習方策や目的意識にも強く影響します。生徒の「メタ認知・適応的学習力」の獲得には、明確で合理的な評価基準が整備されていることが前提になるとお考え下さい。
評価規準を書き出すときには、生徒が振り返りを戸惑いなく、且つ正確に行えるよう、「生徒を主語にしたセンテンス」で、成否の判定が容易な書き方(表現)を心掛ける必要があるのは言うまでもありません。
❏ 使いながら、継続的にブラッシュアップ
活動評価や記述採点のルーブリックにしても、作っただけでは何の役にも立ちません。実際の指導場面で、評価とフィードバックに活用するとともに、科目や単元の目標を生徒に理解させ、振り返りの基準を持たせるために使ってこそ、作り上げたコストに見合う効果が得られます。
また、使いながらでなければ、改善も叶わないはず。実際の学習者行動を当てはめてみないと、成否を明確に判定できる記述かどうかの見極めもできず、表現の改善も評価項目の出し入れも進められません。
評価規準が求める「ハードルの高さ(難度)」が適正かも、使ってみないとわかりません。ある時期の評価で「A評価」の該当者が極端に少ないなら、その時期としては要求が高すぎるのかも。逆もまた然りです。
ちなみに、目標水準(=評価規準)が高すぎるなら、到達を目指す時期を先に延ばすか、指導を前倒しにして、到達可能性を高めるかです。
また、ある時点で規準を満たしている生徒のその後を追跡観察したときに、他の生徒と比べてパフォーマンスに有意な差が生じないようなら、その評価項目(規準)を設けておく必然性はなさそうです。
資格試験や検定では、識別指数など(別稿参照)を用いて、トータルのパフォーマンスとの相関が極端に低い設問は合否判定から外しますが、同じように「無駄な評価項目」は除外していくのが妥当でしょう。
評価を行うには、一定以上のコストがかかりますので、合理性が疑われる評価項目/基準を残すのは無駄です。コスパの悪さから、取り組みの熱意も失われやすく、形骸化が進むリスクも高まります。
❏ 評価基準の活用と更新に際して意識すべき5か条
評価基準に基づき、生徒一人ひとりの学びについて、進捗と改善課題を的確に捉えるには、以下の意識を常に持ち、基準そのものにも必要な修正を重ねていくことが重要です。やや多岐に亘りますが、一つひとつについて、徐々にでも「充足度」を高めていきましょう。
1.評価結果を突き合わせ、基準適用の精度を高める
同じ評価規準を目の前にしても、その解釈には「読み手」である先生ごとに違いがあるもの。先生方の間で解釈にブレを残していると、評価の公平性が保てず、評定への説明責任も果たせなくなります。
生徒が残したレポートや発表(動画で記録すれば、先生方が同じ現場に集まる必要もありません)に対し、指導に当たるすべての先生が評価を行ってみて、評価の結果と理由がどこまで一致するか、「同じ目線」で生徒の活動とその成果を観察しているか、定期的に確かめましょう。
こうした突き合わせを重ねることで、評価規準の理解も深まり、先生方の評価者としてのスキルも向上します。評価規準のアップデートも進むでしょう。生徒をさらに効率よく伸ばせる基盤が整っていきます。
2.評価のためには、観察の機会を整える必要がある
生徒が何もしていない状態では、評価も、その材料を得るための観察もできません。別稿の通り、活動させるのは観察のためであり、「観察の窓」を開くことが、評価を行うために最初に満たす要件です。
思考力を評価しようとするなら、問いを投げ掛けて生徒に思考をさせる必要があり、活動評価を行うなら必要な観察ができる、相応の活動を配列した授業をデザインしておかなければなりません。
毎回の授業が、評価に好適な活動を作れる内容とは限りません。年間/学期を通し、どの場面でどんな活動を通し、どの能力・資質を観察するか、前もって明確な見通しを立てて授業計画を起こしましょう。
3.行動評価の結果とテスト成績を突き合わせる
学習の成果(=生徒の成長)は多面的に測定しなければならないのは、以下の別稿でも書いた通りです。評価基準を意識的に起こすのは、行動評価のルーブリックや、論述タイプの答案を採点する基準くらいでしょうが、それらに照らして評価できるのは学力要素の一部だけです。
学びの場で正しい/好ましい行動を取れているかだけでなく、テストの結果で可視化される部分での学力も獲得が進み、伸長しているかを合わせ見なければなりません。そもそも、本当に好適な学習行動であれば、それを取れている生徒は成績も伸びるはず。
もし、行動評価の結果だけが良くて、可視化学力に伸びが見えない生徒が一定数を占めているなら、評価規準で求めている行動が本当に望ましいものなのか、疑ってみる(修正する)必要があると思います。
4.生徒が自己評価を的確にできることを目指す
ルーブリックを記述する言語(評価規準)には、生徒にとって深い理解が及びにくいものもあります。学習者として道半ばにあり、全行程を見渡せていない以上、想像できるところには限界があります。
しかしながら、それを放置しては、生徒は正しい「自己評価」を行えないまま。先生の評価とフィードバックがないと、自らの進捗も捉えられず、次に向けた課題形成もできないことになってしまいます。これでは学習者としての自立に近づけません。
評価規準の読み合わせを重ねつつ、生徒の答案や発表の相互評価を行う機会などを通じて、評価基準を正しく適用できるように育てましょう。そうした指導を重ねてもなお、どうしても意図が伝わりにくい部分(文言、評価規準)はリライトを視野に入れる必要があるはずです。
生徒が正しい自己評価をできるようになると、先生方の目による評価とのズレも小さくなるはず。自己評価と他者評価の乖離は、学習者にとってのストレスや不満の原因になりますが、その解消も期待できます。
5.リフレクション・ログも、基準更新の参考材料
学習者の内面とその変化を探るための評価ツールに、ポートフォリオがあります。特にリフレクション・ログへの記述は、生徒が捉えている自らの進捗と改善課題が読み取れる貴重なデータです。
リフレクション・ログにしっかり目を通すことは、生徒一人ひとりの状況を正しく理解し、観察の精度を上げるためにも不可欠です。
ログに現れるのは、生徒が振り返りを行った結果なので、先生方が事前に示していた到達目標や取り組み方のポイント、評価規準などによるバイアスを受けているはずです。評価規準に明記されていなかったことで内省が進まなかった部分(観点)もあろうかと思います。
先生方の認識として「もっと言及されても良いはず」なのに、実際の記述が少ないところは、評価基準に追記して、生徒の意識を誘導してくるような工夫も必要です。また、こちらの想定の斜め上をいくログもあるはず。他の生徒にも持って欲しい観点なら、評価項目に加えましょう。
ときには(定期的に)リフレクション・ログを解析してみるのもお薦めです。生成AIの普及で手間は大きく減り、精度も上がりました。
新しい学力観に基づく評価方法(記事まとめ)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一