学びの過程で、途中のどこかと仕上げの段階とで答えを作る場を2度おいてみると、最初の答えと最後の答えとの間には当然ながら違いが生じます。両者の違いには、その間に獲得した知識に加えて「積み上げられた生徒の思考」も含まれていますよね。
❏ 思考の広がりと深まりを見て、学習を評価
その違いを最も大きくするような授業が好ましい授業であることは言うまでもありません。教育経済学の言葉を借りれば、「付加価値が大きい授業」ということです。
知識は思考の道具であり、新たな道具を獲得したことで、思考は深まり・広がる可能性を得ます。
知識を与えても、深まり・広がりが見られなかったら、考えさせる方法が間違っていたということかもしれません。
❏ どのような材料・活動で不足を補うかが「授業設計」
知識にしろ、着想にしろ、課題の背景にある問題点にしろ、解を導くのに不足するものを補うのが指導の主眼。
どのような材料・資料をあたえ、どう読ませるか、どんな活動を授業中に配列するかを考えるのが「授業の設計」です。
教科書、副教材、追加資料に書かれていることなら読ませれば良いし、一人で読んでも理解しきれないところは、互いに教え合わせても良いでしょう。
生徒が自力で補えない部分、生徒同士だけでは気づきに至らない部分こそが、先生からの問い掛けで気づかせ、説明を行って、しっかりと「教える」部分です。
❏ スモールステップ化には直列タイプと並列タイプ
問いを解決するために様々な着眼点からの検討が必要な場合は、その一つひとつに焦点化した問いによってスモールステップに分割してあげましょう。
それらのステップを時間軸の中で直列に並べる方法もありますし、グループごとに取り組ませて並列に配置すれば知識構成型ジグソー法に近いものになりますね。
問いが求めるものが、思考の積み上げならば前者の直列タイプ、多角的な検討(その前提として知識・理解の拡充)が必要ならば、後者の並列タイプの使いどころです。
大きな課題をドンと与えて戸惑わせたり立ち止まらさせたりしては、あまり得るものはありません。
授業時間が足りなくなったり、答えが出る前に生徒が飽きてしまったりするのが関の山。学習が成果を結ぶのが遠ざかるばかりです。
❏ グループごとに課題を振り分けるときの注意点
焦点化設問の一つひとつを、各グループに割り振って取り組ませるときに気をつけなければならないことが一つ。
ひとつひとつに意識をフォーカスすることで、思考は深まります。また、自分たちだけで担当する問いがあるということは、果たさなければならない役割を持つということ。主体的・積極的な取り組みにも繋がるはずです。
しかしながら、担当外は無関係と思わせてしまっては、学びが局所的になり、全体理解が疎かになることも懸念されます。
他のグループの発表から、どれだけ学べるかという別のむずかしさがあります。傾聴の姿勢とスキルが求められるということ。
発表を聴きながら自分が考えたことをメモに起こす訓練を、指導計画の中に組み込んで置く必要があります。ワークシートを配って埋めながら聴くことを作業として課すだけでは足りないものもあるでしょう。普段の授業の中での「ノートにメモを取らせる指導」が欠かせません。
❏ 評価するには、思考力を構成要素に分けてから
「思考力」という一つの言葉ですべてを表現したつもりになっていることが、きちんとした評価を妨げます。
「○○について考える」と一括りに表現できる場合も、言い換えをするときに用いる動詞は違います。
「比較する」「分類する」「拡張する」「関連付ける」「選び出す」など、教科や科目、単元ごとに違う「動詞のセット」がありそうです。
「考えるための問い」を用意したら、それを解決するための工程をステップに切り分けてみましょう。そこで生徒に何を求めたか、頭の中がどう働くことを求めたのか、はっきりしてくるはずです。
❏ 構成要素(=対応する思考動詞)ごとの段階的評価
その思考プロセスの一つひとつについて、「自力で考えられた」「周囲からの示唆を得てできた」「出来なかった」などの数段階に分類することで、その課題を解く場面での思考を評価することができそうです。
学期や学年を通じて生徒に与えた「考えるための問い」で求めたことがらを、「思考する/考える」と置き換えるときに使った動詞で分類し続けていくと、思考を評価するときに用いる「思考動詞のセット」が出来上がるはずです。
如上の思考動詞(比較する、分類する、拡張する、関連付ける、選び出すなど)のそれぞれに、対応する好適なツールや方法があるはずです。それらを3か年/6ヵ年の指導の中で学ばせ、使い方に習熟させていくことが、思考法を獲得させるための指導ということになるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一