優良実践の共有~授業評価の結果を活かして(その2)

学校全体で授業改善を進めていく上で欠かせないのが、「データを用いて優れた実践の所在を明らかにした上で、それを教科内外で広く共有すること」であるのは言うまでもありません。
文字にすると、(やや長いとは言え)一文に収まる単純なことですが、実現にはいくつもの要件を満たさなければなりません。
魅力的に見える実践も、それを取り入れたことで生徒の学びに有意な効果をもたらしているかどうか確かめる必要がありますし、共有するには個々の先生の経験や感覚に依らずに誰もが再現できる「外在知」とする工程も欠かせません。また、共有する工程の「コストパフォーマンス」も授業改善を継続的な活動にするには不可欠な要素です。

2016/03/02 公開の記事をアップデートしました。

❏ 指導の前後の差分(変化量)で効果を測定

どれだけ教室が盛り上がろうと、その教室で学んだ生徒の成績やパフォーマンスが向上していなかったり、学びの意識や姿勢・意欲に好ましい変化がなかったりしたら、そこでの実践をコストを投じて(手間暇かけて/生徒を巻き込んで)まで共有する必要はないはずです。
指導に取り入れる前と一定期間を経たとき(あるいは、指導に採り入れたクラスと他のクラス)との間で、成績や生徒の意識、学習行動などに有意な差が生じているかを検証しないと、共有すべきものかどうかの判断がつかないということです。
別稿で書いた通り、指導の成果は多面的に検証する必要があり、様々な観点で、それぞれに応じたツールを使って評価(成果の定量化)を行わなければなりません。

授業評価アンケートが主に担うのは、科目の学びに対する生徒の自己効力感など、学びに対する意識の部分ですが、定期的に調査機会を設けてデータを蓄積し、時間の経過の中での変化やクラス間の差異を捉えられるようにすることが、「優良実践を正しく抽出する」ための要件です。

❏ 担当授業の相対的な位置を把握できることが大前提

授業評価を行っても、教科、科目、クラス、担当者などで集計結果を分けない運用をしていては、優良実践の抽出にデータを活用できません。
学校によっては「学校全体での肯定的な回答が占める割合」「教科ごとの換算得点の平均値」だけしか算出されていないケースもありますが、これでは学校/教科全体での状況をぼんやり把握するのが精一杯…。
先生方一人ひとりが、それぞれ最善と思う方法を試した成果を持ち寄り比較して、共有すべき優れた実践を抽出・共有していくことで組織的に授業を改善するという「授業評価の本来的な目的」には近づけません。

また、優れた評価/大きな指導成果を得た授業を担当していた先生に、ご自身の実践を発信してもらうには、担当する授業の校内/教科内での相対的な位置をご自身で把握できる仕組みも必要です。
学校全体や各教科での集計結果の分布がわかるグラフ(ヒストグラムや箱ひげ図)を調え、ご自身の担当クラスの位置を確かめてもらえるようにするのは、集計結果を取りまとめるときの必須作業です。


❏ 何が奏功した結果か分析し、理由を言語化してみる

大きな効果をあげている授業がどれか特定できても、何が奏功した結果なのか、理由がわからないことには実践の共有はできません。
授業を受けて生徒が実感する学力向上感は、授業評価を行うときの重要な指標ですが、これだけ訊いても、改善課題の所在が分からないだけでなく、日々の授業での工夫のどこに焦点を当てて実践を伝えれば良いかも特定が難しいはずです。

質問設計を最適化しておけば、個々の先生がご自身の授業を改善するのにどこに注力すれば良いか結果から判断しやすくなる上に、優良実践の共有にも方向性がはっきりするということです。
目的変数との相関係数なら、エクセルの関数を使えば簡単に算出できますし、少し手間をかけて分析すれば、学習効果への寄与度を(必要があれば教科や学年ごとに)推定することも可能です。
説明変数として設定した質問項目(理解の確認や活用の機会など)のうち、寄与度が特に大きい項目で高い評価を得て、且つ目的変数(学力向上感)でも高いスコアを得ていることが確認できれば、その項目に焦点を当てて日々の授業での取り組みや工夫を振り返ってみましょう。
これまでにやってきたことを改めて言語化してみると、案外、大切なことなのにあまり意識せずにやっていたことなどにも気づけます。自分の中で完結していたことを外に伝えてみることは、自分にとってもとても有益なことだと思います。

❏ メモを使って、実践を伝える場面での効率化

ここまでは優良実践を発信する側の先生の準備です。この先はいよいよ他の先生方に実践を伝える場面ですが、いきなり授業公開や研究授業に持っていくのは拙速です。
情報を受け止める側のレディネス(実践への関心とそれをもっと詳しく知りたいという欲求)が整っていない状態で発信しても、構えていない相手にボールを投げるようなもの。取り損ねたボールがグランドの隅に転がっていくだけです。
先ずは、効果を示すデータを添えて、実践を簡単なメモに起こして読んでもらうところからでしょうか。教科会で行う口頭での実践報告も良いのですが、他の議事を優先するうちに実践報告に割く時間が取れないのもよくある話です。報告を順延すればそれだけ改善が遅れます。
メモを配っておけば、補足説明に何分かを割いてもらうのもスムーズなはずです。興味を持った先生が質問をしてくれるかもしれません。また授業の動画を用意しておけば、そのURLをメモに添える手もあります。
メモベースなら個々の報告が短時間で済みますので、報告件数を増やすことも比較的容易です。(時には失敗例も含めて)多くの実践にふれることは、授業デザインの発想の拡充、手札の増強に欠かせません。
こうした実践報告を重ねておけば、「相互参観週間」を迎えたとき、より多くの先生が優良実践に対する関心と興味をもって臨めるはずです。相互参観の実りも従来よりぐんと大きくなるのではないでしょうか。



校内/教科内に既に存在する優れた実践の共有を進めるときのカギは、まさに「成果をあげた側からの発信」です。関わるすべての人の利益になることなのに「自分の手柄を自慢するようで…」と遠慮する先生もいらっしゃいます。積極的な発信への機運を高めるには管理職や教科主任の先生方の関与も必要かと思いますがいかがでしょうか。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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優良実践の共有~授業評価の結果を活かしてExcerpt: 校内に存在している優良実践が共有されず、学校全体での授業改善に足踏みがみられるケースがあります。生徒による授業評価アンケートを行いながら、残念ながら、その結果をあまり上手に活用できていない様子が窺われます。
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