学校説明会など次年度の生徒募集を見据えたイベントでは、学校が考える「望まれる学校/選ばれる学校」のイメージをもとに、これまでの取り組みに加え、今後の教育、学校づくりの方針が示されるわけですが、それが来訪者の心にどこまで届いたかしっかり確かめたいところです。
どれほど素晴らしい価値を打ち出したとしても、それが、受験生やその保護者、地域(小中学校の先生や塾関係者も含む)が求めるものとズレていては、狙っていたのと違う結果になるのも当然です。
そこで利用したいのが、学校説明会の来訪者アンケート。どの学校でも来訪者向けに何らかのアンケートを行っているようですが、それが「戦略的に練られた質問なのか」「集計結果が次の行動選択に正しく生かされているのか」には疑問を感じることも少なくありません。
来訪者の求めていたものに応えたか、学校が伝えたかったことが届いたかという2つの面を、それぞれしっかりと意識して質問設計にあたり、解析に備えたデータの収集を行うことが肝要です。
2015/09/30 公開の記事をアップデートしました。
❏ わざわざ足を運んでまで知りたかったこと
まずは、来訪者がどんな情報を求めて説明会に足を運んでくださったのかを知る仕組みを整えましょう。
知りたかったことは何かを複数選択で尋ねてみて、「スライドのこの部分で伝えたから大丈夫」と考えるのは早計です。選択肢にないところを聞きたかった来訪者もいるでしょうし、重みをつけるべきところを軽く扱い過ぎている(逆もまた然り)こともしばしばです。
前年度までのアンケートの記録や、学校が打ち出した価値、競合他校のパンフレットなどから、受験生、保護者、地域それぞれのニーズを十分に想定した上で、項目立てと訊き方の工夫を行う必要があります。
あまり多くなっては回答する側の負担も重くなります。項目数の上限は15くらいでしょうか。カバーしきれないものは、「その他」として、自由記述にするなど、優先順位に基づき、絞り込むことが大切です。
項目(例):
- 習熟度別指導や少人数クラス編成などの学習指導体制
- 補習・講習などの進学対策
- キャリア教育、進路指導での取り組みとこれまでの成果
- 体験型・探究型の学習プログラムの内容や目的
- 短期留学や語学研修などの国際化教育の在り方
- 学校行事の様子やそこに込めた教育的意図
- 部活動の様子(学業との両立、活動時間、指導体制など)
- 新しい教育への取り組み/特色ある教育活動
尋ねる項目が揃っても、質問設計は終了ではありません。回答データの分析を見越した選択肢の設定も大切です。
リストアップした項目のそれぞれについて、知りたかった度合と、得られた情報への満足度が一致しているかどうかを確かめるべく、一つの設問に以下A、Bの2つの選択肢群を用意するのが好適です。
選択肢群A(4段階または5段階スケール)
「非常に関心があった」⇔「まったく関心はなかった」
選択肢群B(3段階スケール)
「十分な情報が得られた」⇔「情報が大幅に不足している」
来訪者の興味や関心の大きさに比例して、発信する情報の質と量が備わらなければなりません。来訪者の属性によっても関心の所在は異なりますので、属性とのクロス集計も想定しておきましょう。
こうした解析をしておけば、次以降の説明会では、属性区分ごとの来訪人数を見ただけで、各項目の発信に適切な軽重がつけやすくなります。
❏ 学校が発信した価値が、どこまで届いたか
尋ねるべき事柄のもう一つのカテゴリーは、その日の説明会で触れた事柄/学校が伝えたかったことが、どこまで来訪者の心に届いたかです。
パブリックリレーション(PR)の基本的な考え方ですが、何かを選んでもらうときには、「認知」「理解」「共感」「選択」という4つのステージを通過しなければなりません。「どこまで心に届いたか」は、言い換えれば、4つのステージのどこまで到達できたかということです。
説明会用スライドで謳った項目の中から特に伝えたかったことを10個程度選んで、説明会終了後のアンケートで来訪者の反応を質してみましょう。ここでは選択肢の作り方がポイントです。
同じ情報に対しても、「初めて知ったが、共感できた。でも、まだよくわからない」という方もいれば、「前から知っていたし内容もよく分かったけど、共感は覚えない」という方もいます。
これらをきちんと分けて集計結果を把握するためには、以下のようなマトリクス型選択肢も検討してみましょう。
選択肢群C:
A~Cの各列について、よく当てはまる方を1つお選びください。
A列 | B列 | C列 |
はじめて知った | 内容がよくわかった | 共感できた |
前から知っていた | よくわからなかった | ピンとこない |
データを正しく「解釈」するには、回答分布を把握するだけでは不十分です。クロス集計を始めとする様々な統計的手法も活用しましょう。
正の字を書いて各項目の回答を数えた結果だけ残っていても、解析に利用できるデータは取得できず、項目間の連関などは掴みようもありません。回答者ごとのローデータをきちんと残す必要があります。
また、回答が十分に集まらなければ、集計や解析の結果にも歪みが出ます。来訪者からどれだけ多くの回答を得るかも策を考えるべきところ。
WEB上のアンケートも簡便なサービスを利用できますが、回収率は伸び悩みます。より多くの意見を集めるには、やはり質問紙を作って出口で回収するという「アナログ」な方法に分があるようです。
対象人数が一定以上の規模ならマークシートを用いてOMRを回すのが得策ですが、自由記述もデータ化したいなら、パンチ入力ができる業者さんを探すのが好適です。入力作業に時間と労力を投じるのではなく、データの解析とそれに基づく戦略立案にリソースを集中させましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一