個人面談は、生徒一人ひとりの進路、学習、生活の悩みや課題を把握、共有し、その解決に向けた支援を行う貴重な指導機会です。面接を指導の要(かなめ)と位置づけ、年間5回以上に及ぶ全員面談を計画に組み込んで組織的な取り組みとしている学校もあります。
ただし、面談指導の効果は実施回数に比例するとは限りません。面談に臨むまでに重ねる準備(生徒/教員の双方)が成否を分けます。
2014/11/13 に公開した記事を再アップデートしました。
❏ 対話を通じて図る、相互理解と課題形成
生徒と膝を突き合わせて話をすることで知り得ることもたくさんあり、教員にとっても貴重な気づきの場ですが、生徒にとっても面談は次のステージの入り口をくぐるための、他に代えがたい貴重な機会です。
貴重な機会に対話が深まらず、所定の項目を聴き取って用紙に書き込むだけになっては、書面で提出させる「調査」と大差ありません。
それまでの見落としに気づき、視野を押し広げる機会を「対話」が提供してくれます。自分の考えを言葉にし、異なる考えに触れることで自分の考えを相対化してこそ、正しい判断/選択に向かうことができます。
向き合うべきなのに曖昧なままにしてきてしまった箇所を先生との対話の中で見つけ、明らかにしていく機会は面談以外にそうないはず。周囲との刺激を上手く消化できずにいるときの助けも面談でしょう。
その日以降生徒本人が取るべき行動に、具体的な課題や目標が設定できたら、面談は一定の成果を得たと評価できるのではないでしょうか。
❏ 面談を通じてどんな状態を目指すのか~目標の確認
面談指導に限りませんが、すべての指導には時期に応じた目的や課題があります。その時点での目的と課題をはっきりさせておくことが、面談に臨むときに最小限満たすべき要件です。
進路指導などのグランドデザインの中に位置づけられる「学年全体での指導目標」に加えて、個々の生徒についての課題があるはずです。
進路、生活、教務などの各分掌と学年団との間で、共通認識が欠かせません。面談シーズンを前に、学年の指導に携わる先生方が情報を共有する場を持ちたいものです。
それぞれの立場が持つデータや情報を出し合って面談に臨むための校内研修を実施しているケースでは、総じて、貴重な時間を投じただけの成果は上がっているように見受けられます。
❏ 生活・学習・進路の3観点で記述する段階的到達目標
どの学校にも、入学から卒業までの期間を通して達成を目指す、生活、学習、進路の3つの観点での段階的な到達目標があるはずです。
個々の先生が頭の中に浮かべるだけではなく、それらを一つひとつ言語化して下図のように明示的に配列しておきましょう。
時期や段階に応じた指導の設計も戦略的に行えるようになりますし、到達状態に照らした評価を行えば、個々の生徒の状況や課題のより正確な把握が可能になります。
別稿「年間行事予定の書き出し方」でも申し上げた通り、書き出しに際しては、「生徒を主語にしたセンテンスの形」にする必要があります。
例えば、「進路希望の明確化」といったフレーズで表現されていても、眼前の生徒が所期の状態に到達しているかどうかの判断がつきません。
これに対し、「進路希望先について、そこで学びたいことやその大学を選んだ理由を明確な言葉にできる」など、センテンスで書き出されていれば、その生徒に今、足りないものを特定しやすくなるはずです。
❏ 個々の課題は様々な立場での観察を集約して把握
集団として時期ごとに到達を目指す目標状態に加え、一人ひとりの生徒に固有な課題というものがあります。
先生方は、クラス担任、教科担当、部活顧問など様々な立場で生徒を観察していますが、見る側の立場が違えば違った側面を見ています。
その生徒を指導しているすべての先生方が観察して捉えたことを集約しないと、生徒個人の姿を多面的・総合的に理解することはできません。
また、その生徒が抱える事情を知っていれば、そこに焦点を当てた観察ができますが、事情を知らなければ観察での見落としも生じがちです。
教科担当や部活顧問に「何か気になる点はないか」と尋ねる場合も、担任が認識している当該生徒の事情を伝えた場合と何の情報も出さない場合とでは、尋ねられた側の記憶の呼び覚まし方に違いが生じます。
ポートフォリオなどの導入も進んでいるかと思います。様々な学習機会を経るごとの生徒自身の振り返りに加え、指導機会ごとに先生方が捉えたことをレコードに残していくようにしたいものです。
❏ 面談前の指導で、生徒の内省を深めさせておく
時期ごとに目指すべき到達状態まで確実に導くには、面談指導に臨ませるまでに整えておくべき「生徒側のレディネス」が重要です。
選択に向かう場面なら、しっかり情報を集め、じっくり考え、自分の未来にどう向き合うかを考えてこさせることで、面談での対話が活きたものになります。
準備なしで面談に臨ませても、目標状態に到達/接近は困難です。
面談指導に限りませんが、学習の機会、選択の機会をどのくらい前から生徒に意識させておくかは、指導の立案に際してしっかりと考えておきたいことの一つです。
期間が短すぎては十分なレディネスは備わりませんし、長すぎても意識が希薄になるだけです。
進路通信やホールムールを通じて、面談までに何を調べ、何を考えておくべきかを、適切な時期に予告しておくことが肝要です。
❏生徒は 数か月先まで見渡して日々を送れているか
毎年多くの東大合格者を出しているトップ校の一つでは、月1回以上のペースで発行される「進路通信」に、向こう3ヵ月の行事が掲載され、生徒も教員も自ずと先の予定を意識できる仕組みが整っていました。
この実践は、先に控える選択の機会をいつ認識させるかという問題への一つの模範解答のように思えます。
また、別の学校では、進路の手引きを「これを見ればすべてわかる」という内容・構成に仕立て、行事には必ず持参させているそうです。
事あるごとにページを開きますので、進路への意識の高い生徒たちは、そのたびに次のステップへの認識を新たに生活を送れているようです。
冊子形式を止めて、逐次ページを追加するファイリング形式の「進路の手引き」に変更した別の学校でも、3ヵ年の見通しを伝える進路指導カレンダーを年度冒頭に配布し、ファイルの先頭に綴じ込ませています。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一