学習指導・進路指導を通じた汎用スキルの獲得(その2)

汎用スキルの一部をなす 「批判的思考」 は、教科学習指導や進路指導を行う上できちんと整えておきたい土台の一つです。その能力は、それだけを取り出して訓練するより、具体的な場面で教えるやり方(文脈モデル)の方が所期の成果を得やすいとのこと。学習・進路の指導に、どんな発想を持って臨んだらよいか、もう少し考えてみたいと思いますのでおつきあいください。
❏ 言語活動を自己目的化させない
自由研究や自主レポート、読書感想文など、言語活動に力を入れている学校は少なくありません。生徒が、好きに書くことに楽しみを見出してくれることは、表現への抵抗をなくし、表現への意欲を高めるという 「目的」 を達したことを示しています。しかしながら、その先の進歩に繋がっているケースばかりではなさそうです。
書くことそのものを自己目的化させてしまっては、言語能力をさらに高めさせていく機会と方法を失います。自分が書いたものを批判的に見直す、書き出した文章を鏡に内省を深めるように導くことが必要です。
指導者側からのフィードバックや、自己批評を通じてより良いものが書けるようになる中で、自分自身の進歩が実感できることで、書くこと自体に見出した喜びを維持・強化していくことができるはずです。
こうした働きかけが十分に機能せず、書くことの喜びがしだいに感じ取りにくくなっていたとしたら・・・。結果的に、次の学年に進んだころには提出数が急激に減ってくるのは当然です。ある先生は、「部活や勉強で忙しくなって時間が取れないということと、表現意欲の低下が相俟って、こうしたことが起きてくる」と分析しておられましたが、私もまったく同感です。
❏ 進路指導の場面でも
自分の行動に対する批判的思考(=内省)がうまく働かせないことには、進路意識を作っていく場面でも看過できない状況を作ります。
例えば、夏休みを利用して大学のオープンキャンパスに参加させて「大学訪問レポート」として提出させても、目標設定、情報収集、客観的評価を、自分自身の行動に対して行わなければ、「電車に乗って大学に行った」 ことが、進路意識形成にまったく寄与しなかったり、誤った考えを抱かせてしまうこともあります。
オープンキャンパスに足を運ぶ前に、
・調べるべきことを調べつくしていたのか(情報収集)
・その大学を訪問先に選んだ理由をきちんと言えたか(整理する)
・何を知り、何を確かめるために大学を訪ねたのか(問いを立てる)
といった事柄にYESを揃えられていた生徒と、それ以外の生徒とではレポートは全く違ったものになっていたはずです。
大学訪問という経験を、きちんと自分のものにできなかった生徒に対して、足りなかったものに気づかせ、キャッチアップのための行動を取らせるのに必要なのが、批判的思考をつかった「内省」ではないでしょうか。具体的な行動をとる場面であるからこそ、リアリティをもって必要な能力・姿勢を身につけていけるはずです。
❏ グループで行う、レポートの輪読と相互批評
大学訪問レポートを生徒のグループで、輪読&相互評価を行わせ、レポートがどんな要件(内容や書き方)を満たすべきなのかを考えさせた学校があります。要件を付箋に書き出させて、KJ法で整理させ、チェックリストに仕上げさせていました。その上で、チェックリストに沿って、自分が書いたレポートを点検させ、リライトと再提出を求めるという進め方です。
はじめて行った取り組みだったこともあり、現場の先生方も事前に「チェックリスト」に相当するようなものは用意できなかったのですが、輪読してからの討論という手順を採ったことで、想像以上にしっかりとしたリライトができたようです。
この手は、進路意識形成プロセスの中に、ほぼ例外なく配置されている「職業調べ」や「学部・学科研究」などの場面でも同じように使えます。多くの部分が生徒自身、あるいは生徒相互に進めていくものですから、先生方のご負担増加も過大なものにはならずに済みそうです。


参考記事
年間行事予定の書き出し方
先に控える選択の機会をいつ認識させるか

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

学びの技
玉川大学出版部
後藤芳文

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