習ったことを使ってみる機会を調えることが学びをより深く確かなものにするのは、このブログでも繰り返しお伝えしてきた通りです。
授業で学んだことを土台に思考し、解を導くべき課題を導入フェイズで示しておけば、学習目標の理解がぐんと高まり、目的意識を持った学びの実現が期待できますし、ひと通り学び終えてから課題に立ち戻って、答えを仕上げるようにさせれば、欠けていたものも補っていけます。
これらの相乗的な効果に加えて、具体的な課題の存在は、その解決への協働にも目指すべきものを持たせるため、対話を通じた学びも活性化が図れます。対話的、主体的な深い学びを実現するカギは、まさに適切な課題を設定できるかどうかにあると言って過言ではありません。
しかしながら、せっかく活用機会(=習ったことを使ってみる機会)を設けても、そこまでの理解の確認を欠いては、課題に挑んでも跳ね返されるリスクが高まるばかりです。課題解決の機会を整備したら、挑ませる前にそこまでの理解確認をしっかり行うようにしましょう。
2019/11/05 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 知識活用の機会を設けても、理解確認が不十分では
下図は授業評価アンケートのデータ(n=4,749)で作成したものです。横軸には「Ⅵ活用機会」(習ったことをもとに考える機会が、課題などで整っている)、縦軸には「Ⅳ理解確認」(先生は、生徒の理解を確かめながら授業を進めてくれる)の換算得点を配しました。
座標面を区切る縦・横の破線は、それぞれの軸に置いた項目の中央値の位置を表します。なお、全授業を「Ⅶ学習効果」(授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる)の得点で3分割し、上位と下位それぞれ3分の1に含まれる授業だけを表示してあります。
散布図からは、左右方向のみならず、近似曲線を挟んだ上下方向にもばらつきが大きいことが見て取れます。実際、Ⅵ活用機会とⅣ理解確認の間に観測される相関係数は 0.67 に過ぎません。
知識や理解を活用する場面を十分に整えながら、理解確認が十分に図られていない授業、あるいは「理解の確認」は手厚く行っていても生徒が自ら知識を生きて働くものとして活用する機会を整えていない授業が、一定の割合で存在するということです。
前者は「課題に挑ませて生徒が返り討ちに合うリスク」をコントロールできていないことになりますし、後者は、「生徒は習ったことを覚えただけ」であり、知識が生きて働くものとして獲得できているかをきちんと確かめられていない可能性が大です。
❏ 知識・理解を使ってみる前に、そこまでの理解を確認
学びを深く、確かなものにする上で不可欠な「習ったことを使ってみる機会」を具体的な課題としてセットしたら、それに挑ませる前に、そこまでの理解が正しく形成され、知識が確保できているかの確認です。
知識や理解が不足するまま課題に挑ませても、返り討ちに会うリスクが高まるばかり。真面目に授業を聞いていたつもりなのに、問いに答えが導けない/課題が解決できないという場面を繰り返し経験するうちに、生徒は学びへの自己効力感を失い、苦手意識を膨らませて行きます。
前提となる知識や理解が不足する状態では、不明に躓いて、考えあぐねているうちに貴重な時間をどんどんロスしていきます。他の学習活動に充てるべき時間をいたずらに圧迫する事態にもなりかねません。
また、理解を確認した後のフォローに不要な時間を取られないことにも注力したいところです。生徒が自力でできること(教科書を読む、参照型副教材を活用するなど)を増やしておく事前指導などが大切です。
❏ 理解したこと、考えたことを話し合わせてみる
生徒の頭の中で何が起きているかを観察するには、思考を言語化させてみる必要があります。問いかけや指示を通して、理解したこと、考えたことを言葉にして表現させていきましょう。(cf. 対話で行う理解確認)
例えば、例題を使って説明したことの理解を確かめるなら、生徒にペアを組ませて、類題や練習問題の解き方を相互に説明させてみるのも好適です。やり取りに耳を傾けていれば、どこまでわかっているかある程度まで把握できるはずです。(cf. 活動させるのは観察のため)
仮に理解が不十分であっても、互いに説明し合う中での、教え合い・学び合いで、かなりのところまでその補完は図れるはずです。
クラス全体の様子を窺っていて、教え合い・学び合いだけでは解消しきれないほどの不明が残っているようなら、仕方ありません。先生の責任において、最初の説明とは違ったアプローチで理解の再形成を図りましょう。(同じ説明を繰り返しても大した効果は期待できません。)
該当箇所をピンポイントで扱っている授業動画(他の先生が作成したものでも、どこかで探してきたものでも)を用意しておき、必要な生徒に視聴させてみるのもひとつの手です。
❏ 「言語化させて観察する」以外の様々な方法
課題に挑ませる前の理解確認には、如上の「理解したことを言語化させて、その様子を観察する」のが効果的、かつ汎用性に富む方法ですが、各地の教室を覗いていると、これ以外にも様々な工夫が見られます。
たとえば、サブノート式のプリントを用意しておき、聴く/調べる/話し合うといった活動を終えた後で、生徒一人ひとりに穴埋め(求答式/簡略な記述式)のタスクを課し、そこまでに得た知識に欠落がないかを確認させていくというやり方をしている先生がいらっしゃいました。
穴埋め式のプリントは、たいていの場合、それに沿って授業を行い、順番に空所を埋めていくだけになりがちですが、ひと通りの学びを経た後の「確認フェイズ」で用いるようにするだけで、単なる穴埋めだった作業が「知識の再構成や再記銘」という意味合いも持つようになります。
空所という形で提示された「問い」を突き付けられたことで、そこまで得たものに欠落しているものに気づき、それを「自力で探して埋める」という作業になるため、記憶への刻み込みも強固になるようです。
また、教科書に立ち戻って通読しながら、そこまでに理解したことや知ったことが教科書のどこにどう書かれているかを、マーカー片手に確認していくのも大きな効果を得ているように見受けられました。
教科書のどこに書いてあるかを確認しておくだけでも、後で課題に挑もうとしたときに「自力で調べようがない/知識の不足を補い得ない」といった事態は避けられますし、知識の体系化にも効果大です。
資料集などの副教材にまでその範囲を広げておけば、さらに広く、深く知ろうとした場合の取っ掛かりも得やすくなるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一