生徒が自力で学べる範囲を広げ、再びの休校に備える

新型コロナの感染が再び拡大しており、これから先、どこにクラスターが生じるかわからない不安も感じます。緊急事態宣言の時と同じような一斉臨時休校は、家庭の不安、教育の保証などの問題もあり、要請される可能性として高くはないと思いますが、校内で感染者が確認されての臨時休校は想定しておく必要がありそうです。

❏ ICT環境の整備は必須だが、それだけでは…

緊急事態宣言の下での一斉休校では、通信環境や機器の整備が遅れていたことや、リモートでの指導ノウハウが未確立だったことなどで、課題を与えての自学自習以外に手が打てなかったケースもありました。
当該期間中の学習が十分な成果を得ておらず、該当箇所の学び直しが必要とされるケースが多いとの調査結果も散見されますが、感染の第2波が現実となりつつある中、休校解除後にリモート指導の環境と指導法の整備はどのくらい進んだでしょうか。
自治体単位、あるいは学校ごとにオンライン学習の「体制」の整備を進めていたり、生徒の家庭にWi-Fiとパソコンの用意をお願いしたりと、環境整備を急ぐ様子も見受けられますが、もう一方のリモートでの指導におけるノウハウの開発・確立に向けた取り組みは如何でしょうか。
また、リモート環境下でもしっかり学べるよう、生徒の側での学習方策や学びの姿勢を養っておくことも忘れてはいけません。

❏ リモート指導のノウハウ作りの歩みを止めずに

休校要請から非常事態宣言解除までの期間でも、オンライン環境を存分に活用して、対話的で深い学びを対面での指導に近い(場合によってはそれ以上の)レベルで実現できたという先生方もおられます。
その一方で、ハード面での環境は如上の先生方と同じだったにも拘わらず、昔ながらの長期休業期間(夏休みなど)の宿題と同じことしかできなかったというケースも少なくありません。
この差は、分散登校の開始から今日までの間に埋まったでしょうか。
優れた方法を見つけ出し、効果的な指導ができた先生方の実践を校内で共有することで、学校全体で指導ノウハウを確立しようとの取り組みにも、学校間で小さからぬ温度差があるように見受けられます。
休校期間中の指導で一定以上の手応えがあり、改善を重ねれば有効な指導法として確立できると思われた意欲的な実践も、分散登校開始後には校務の多忙に紛れてブラッシュアップできていないことがあります。
間もなく短いながらも夏休みです。それまでの貴重な時間を有効に使い、休校中の指導法のたな卸しと共有を進めるべきだと思います。
オンライン指導の可能性を見出し、さらなる有効な利用に取り組んでいる学校の様子も、報道でよく拝見します。

❏ 自宅でも学べるだけの力を生徒に備えさせる

こうした指導環境の整備や指導方法の確立に加えて、もう一つしっかりと向き合い着実に歩を進めておきたいことがあります。生徒側での自学の姿勢と方法の涵養です。
課題を与えられての自学自習(夏休みスタイル)では学びの成果が不十分だった生徒が多いという事実は、生徒が自学自習で成果を得る土台/レディネスを備えていなかったことの証左ではないでしょうか。
教室で対面授業ができている今こそ、日々の授業で「生徒が個人で取り組む学習活動で学ばせる部分」をしっかり作り、経験させましょう。

生徒が一人で学べること(学べるようになってほしいこと)は、不用意に肩代わりしないとが大切です。やらせないことにはいつまで経ってもできるようになりません。
一斉休校で不足するに至った授業時間で教育課程を消化すべく「個人で出来ることと教室でしかできないことを切り分けて後者に重点」をおくことが求められていますが、その実行こそが再度の休校への備えです。

❏ 自学を成功させるカギは、適切なターゲットの設定

生徒が自力で教科書や資料を読んでその内容を理解し、その理解をもとに「与えられた課題に解を導くための思考」を積ませていきましょう。
ただ漫然と「教科書を読め」といっても、何を目的に情報を拾い上げれば良いかもわかりませんし、ひと通り読んでもちゃんとわかったかどうか生徒は自己点検もできません。
理解の不足に気づけなければ、より注意深く読んだり、前提になっていることを調べたりすることもなく、理解は一向に進みません。
これに対し、教科書の該当部分を読んで理解した上で解くべき問いを与えておけば、生徒は、どこに注目して教科書を読めば良いか「アタリ」が付けられます。
以下の指示Aと指示Bでは、学ぶ内容は同じですが、生徒の取り組みや学びの成果には小さからぬ差が生じるのではないでしょうか。

指示A教科書の〇ページと資料集の〇ページを自習しておきなさい。
指示B教科書の〇ページと資料集の〇ページを読み、荘園制度の起こりを、次の用語すべてを用いて200字前後で説明しなさい。


新型コロナの感染再拡大による臨時休校はないに越したことはありませんが、それに備えた如上の練習を積ませておくこと、それができる授業と課題付与のデザインに転換を図っておくことは、新課程が求める学力やPISAで測定される学力の涵養にも直結するように感じます。



追記: 一斉休校期間中にもう一つ顕在化したのは、「休校が続いて、何をやればいいのかわからない?」という問題です。再びの休校で同じ問題が生じることのないよう十分な対策を講じておきたいところです。

休校中の学びをより大きくするために(まとめページ)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一