総合的な探究の時間をはじめ、新しい学力観に沿った教育活動が次々と導入され、その指導法確立は喫緊の課題ですが、指導法を考えるときに大切なのは、マニュアル作りを先行させることではありません。
目標とするところ(=活動を通して獲得させる能力や資質)を先生方がしっかりと共有した上で、それぞれが最善と思う方法で指導に当たり、その成果を比較する中で、より良い方法を選び出していくことです。
規矩不可行尽(きくおこないつくすべからず)という言葉があります。
規矩とは規則のこと。規則を厳格に決めて、その通り実行しようとすると息苦しくなるばかり。また、規則さえ守っていればOKという意識が先行し、それ以上のことをしなくなる(創造が生まれない)ことの戒めかと。マニュアルにも似たところがありそうです。
2019/07/09 公開の記事をアップデートしました。
❏ 決まり事ばかりでは創造は生まれない
新しい教育活動に最適な指導法を模索する試行錯誤が重ねられている段階で、拙速に「マニュアル」を固めてしまうと、もたらされるメリット以上に様々な弊害を引き起こすリスクが高まります。
最初に共有すべきは、指導目標(=指導を通じて目指すべき到達状態)であり、指導の方法や手順ではないはずです。
指導方法をマニュアルで縛ってしまうと、それを超えた/はみ出す創意工夫が生まれにくくなりますし、やらされ感も前面に出てくるのではないでしょうか。
そもそも、成果が定かでない(=効果を検証できていない)方法を「従うべき手順」としたところで、目標が達成できる保証はありません。
工業化社会では、完成度の高いマニュアルを作り、それを逸脱しないで作業することで、効率化と生産性の向上が図れました。
しかしながら、最適解が確立していない段階、高いクリエイティビティが求められる場面ではそのアプローチは通用しません。探究活動の指導などはまさにこのケースにあてはまるはずです。
また、先進校で上手くいった方法であっても、自校の環境に持ち込んで上手くいくとは限らないことも念頭に置きましょう。生徒が備えているレディネスも違えば、関連した指導の整備状況も違うからです。
❏ 目標状態を共有し、最適と思う方法で各々が取り組む
指導計画に沿って、各段階で生徒に到達させる状態や中間成果物が満たしているべき事柄の書き出し(=言語化と共有)こそが、指導に臨む前にきちっと行っておくべきことです。
目指すべき到達状態がしっかりと共有されていれば、達成のための方法は、実際の指導に当たる先生方の創意に任せ、ある程度の自由度をもって考え、実行してもらった方が、良いものがあちこちで生まれます。
それぞれの先生方が知恵を絞り、その中での気づきを交換し、共有することで、目標達成へのより良い発想が生まれてくるのだと思います。
ジョージ・パットンの言葉にあるように、「人にやり方を教えるな。何をすべきかを教えれば、人はその創意工夫で驚かせてくれる」のではないでしょうか。
❏ こだわるところを確認し、指導を終えたら効果を比較
指導が次のフェイズに向かうときに、先生方の目線を合わせるために評価規準の読み合わせをきちっと行うことで、要件を満たしていない生徒を看過しない「指導陣としてのこだわり」を確認しておきましょう。
指導のフェイズごとに、目標状態に達した生徒の割合を定量的に把握して、「より多くの生徒を達成に導いた方法」を、指導に当たる先生方で共有していく必要があることは言うまでもありません。
指導陣の一人ひとりの創意工夫と試行錯誤の中から、優れた実践を抽出し、それらを組み合わせたり、ブラッシュアップすることで、指導法が確立していくのにつれて形になっていくのがマニュアルでしょう。
皮肉なことに、マニュアルが出来上がった瞬間にマンネリ化が始まるというのも、少なからぬ現場で見て取れる「現実」のようです。
❏ これまでに積み上げた知見へのアクセスを確保
やり方は個々の教員の創意工夫に委ねると言っても、全くの暗中模索で個々の先生に丸投げするのでは、あまりにも乱暴です。
任された方も戸惑いますし、見当違いな方法で、生徒の活動を誤った方向に導いてしまうリスクも高まります。
前年度までの指導の中で、とりわけ上手くいったもの(=到達要件をより多くの生徒が満たしたもの)や、先進校で採り入れられている方法などを参考にできるよう、情報や資料をきちんと揃えることの必要は言うまでもありません。
すでに何年間か指導を積み上げてきたのであれば、手応えのあった方法と空回りした方法は、はっきりと区別できているはずです。
もし、その区別がつかないというのであれば、それぞれの取り組みの成果を指導陣が互いにシェアする機会を作ってこなかったということであり、この部分にこそ解消すべき問題があろうかと思います。
効果測定をフェイズごとに確実に行うことが、継続的に指導の改善を図るときの大前提です。
情報や資料を揃えても、読まない/活用しない先生がいては意味がありません。指導計画が次のフェイズに移る前には、各自がきちんと資料を読み込み、それを参考にどんな方法で指導に当たるか、アイデアを互いにシェアする機会を持ちたいものです。
■ご参考記事:
新たなチャレンジに先生方の協働で取り組むとき(記事まとめ)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一