探究のフェイズごとにきちんと評価&フィードバック

教科学習指導では、”学習目標は解くべき課題で示す“で書いたように、導入フェイズでターゲット設問を提示しておけば、学び終えてからその問いに立ち戻って答えを仕上げさせることで学習目標の達成を検証すると同時に、学びをより深く確かなものにすることができますが、探究活動や課題研究の場合、同じ手法が使えません。
探究活動の目的から考えるテーマ選びでも申し上げましたが、探究活動では、生徒自身が問いを立て、テーマを設定するところに肝があり、ターゲット設問をこちらで用意すること自体ができないからです。

2017/05/08 に公開した記事を再アップデートしました。

指導目標の達成を客観的に測れないのでは、個々の生徒に必要な指導も特定できず、指導計画/プログラムの不備も検知できなくなります。
また、成果発表会や論文集で良いものを選んで重点的に扱うことで、相互啓発をより良く働かせるためにも、倣うべきモデルを選び出す基準、すなわち探究活動とその成果を評価する基準が必要です。
教科学習指導の場合とはまったく違った発想で、評価方法を確立しなければ、フィードバックを通して生徒を次のステージに進ませることも、プログラムを継続的に改善していくこともできないということです。

❏ 手順を正しく踏んでいるか、ひとつずつ確認させる

探究活動を進めていく中で、最初の問いを立てるところからどんな手順を踏むべきか、守るべきルールは何かを予め提示しておき、ワンステップ進むごとに評価を行い、生徒自身に振り返らせる必要があります。
探究活動における行動評価の観点と規準を示すことは、これらを実現する上での大前提であり、個々で問われているのは、“探究活動の作法”を学ぶ機会は整っているかどうかです。
そうした評価とフィードバックを通じて、生徒は自分がやってきたことを相対化できるようになり、どのように方向修正すべきか自分で考えて判断ができるようになるのではないでしょうか。
他の生徒の取り組みや成果に触れるときも、漫然と眺めて「すげぇ」と感心しているだけでは得るものは大きくないはずです。
発表や評価を通じた相互啓発を正しい方向に働かせるにも、探究活動のフェイズごとに観点別の評価基準を用意しておく必要がありそうです。
探究型学習の年間指導計画を立てるときや、実際の指導が新しいフェイズを迎えるときに、何を目指す場面(調査や分析の結果などの「各フェイズの成果」に加えて、そこでの活動を通じて獲得する能力や資質、探究の進め方に関する理解などもこれに該当します)をしっかり確認し、生徒を主語にしたセンテンスに書き起こしておきましょう。

❏ 疑問や興味を起点に問いを立てるまでの調査は十分か

問いの起点は、生徒が自分で感じた疑問でしょうが、それがそのまま探究を通して解明すべき問い/探究のテーマになるとは限りません。
調べてみたら、既に他の誰かが文句のつけようのない解を導き出していた場合には、新しい知を生成する余地はそこに残っていないはず。調べ学習はできても探究活動への発展は難しそうです。
疑問を感じたら、まずは文献に当たるなどの調べ学習/調査を先行させる必要があります。
調べ学習は小・中学校でも経験しているでしょうが、出身校によって取り組みはまちまちです。どこまで出来るようになっているかちゃんと見守り、観察を怠らないようにしましょう。
文献などに書かれていたことが、最初に抱いた疑問のすべてに答えていたとしても、生徒の内には調べながら新たな疑問が生まれるはずです。
書かれていたことが本当にその通りなのか実験で検証してみると、書かれていることではうまく説明できないことが見つかるかもしれません。
ここに至ってようやく、探究のスタートです。
探究型学習のテーマを立てさせるフェイズで、こうした手順をきちんと踏んでいるか、きちんと評価してあげることが指導者の役割です。
評価されることがなければ、生徒は踏むべき手順を飛ばしていること自体にも気づくことができず、探究とは何かを学ぶ機会を失いますし、当然ながら、新たな知を生み出す方法を学ぶこともできません。

❏ 探究活動の入り口で誤った学習観を取り払えたか

探究型学習が目指すところは、新たな知を生み出す方法を学ぶことと、学ぶことへの自分の理由を作ること(≒取り組む課題を自分事だとしっかり認識すること)だと思います。
生徒は、現代人がまだ遭遇していない/存在を認識していない難題に取り組まなければならない場面にいずれ出くわすはず。そのとき「誰かに教えてもらう」というアプローチは取りようもありません。
生徒はもしかしたら、これまでの学習履歴の中で「習ったことをしっかり覚えれば学習が完結する」と思い込んでいるかもしれず、探究活動の初期に、この誤った固定観念を取り除いておくことが重要です。
解法が未確立の問題に遭遇した時の行動やそれを支える思考力を獲得するためのトレーニングの場が、課題解決型/探究型学習の目的です。
如上の誤解をそのままにしては、自明に思えることでも一つひとつ確かめて理解を積み上げ、その先に新たな知を生み出す力という、探究活動を通して獲得を目指すものをイメージするのは容易ではないはずです。
目指すものをどこまでイメージできるようになってきたかも、観察や対話を通じて評価してあげるべきことの一つでしょう。
目標をイメージできないまま取り組んでも「主体的に学ぶ姿勢」は生まれませんし、やらされ感ばかりでは探究の楽しさも学べなさそうです。

❏ 最初の体験での学びは重要~初期段階からきちんと評価

探究活動のプログラム全体の中で、序盤は探究のテーマ選びに向けて生徒はあれこれと思い悩む時期でしょうが、この段階から、高校生にとっての探究活動とは何かを熟慮しつつ、指導を始めないとあらぬ方向に進む生徒が出てきます。
趣味の延長、道楽の深みにはまるような調べ学習もどきでお茶を濁したかのような研究テーマが頻発するようなら、調べ学習との境界と進路への接点を明確にしておかなかった指導者の責任かもしれません。
中盤に差し掛かれば、仮説を検証するための実験やアンケートの方法などもしっかりと体系的に学ばせながら、自分がやっていることが探究活動の作法を踏み外していないか点検を怠らないようにさせましょう。
これらの「活動を進める中で見出された改めるべき点」はすべて、指導に当たる先生方が生徒の行動を観察したり、生徒自身が「基準」に照らして振り返ったりする中で行う「評価」の結果として得られる気づき。
各フェイズをはじめて経験したときに、正しいフィードバックを得て修正を図らないと、「これで良し/取り組みに改めるべきところはない」と誤解させ、その後も同じことを繰り返すことになりかねません。
当然ながら、その後のフェイズでの取り組みも、歪んだ成果の上に重ねることになり、当初の狙いとは違う方向に進んでいってしまいます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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